もくじ
第1回こんなに好きだったなんて。 2019-02-26-Tue
第2回フラれて知った、美しさ 2019-02-26-Tue
第3回はるかその向こうの空へ 2019-02-26-Tue

編集者をしています。青空と雨の日、森と海の中、散歩とサウナとカレーとコモンとアンダーソン・パーク、ラブ!

私の好きなもの</br>木の枝

私の好きなもの
木の枝

担当・えだまりこ

第2回 フラれて知った、美しさ

最初に、木の枝を意識するようになったのは、
茶花の投げ入れを習いはじめた時でした。
30代はじめ。雑誌作りの仕事にも
遠距離の恋にも焦り、
一見、会社にちゃんと居場所があるようで
いつも自信がなく、不安で、疲れていたころ。

苦しいなぁ~と思っていたら、
遠くの彼には好きな人ができて、
ある夏の日、
「いままで楽しかったですね」とかいうメールで、
かる~~く、フラれてしまったのです。

えーーー! 
30すぎてふられるわたしってどうよ! 
演歌のような衝撃が走りましたが、あとの祭りですね。

しばらくすべてが止まって見えた白黒の日々の後、
ふと、思いつきました。「そうだ、花をいけよう」。
大好きな山野草の店の、
茶花の投げ入れ教室に駆け込みました。

入門してみたら、ただただひたすら、気持ちがよかった。
荒れた心、へこんだ気持ち、悲しみ。
どうすればよかったのか、と、もやもやし続ける心の穴に、
美しいものがどんどん入ってくるのがわかりました。

ピンク色のナデシコや、渋い紫のホトトギス、
粒がかわいい、ムラサキシキブ。
それだけですでに完ぺきな形をしている
花や草たちが器に交わると、
色と線からなる世界が、ふわっと立ちのぼる。

いけている間は何も考えなくてよかったし、
でき上がった花は、ひたすら目にも美しく。

私は花にふれるたび、確実に何かを取り戻していきました。

その時に、自分はこれが好きすぎると自覚したのが、「枝もの」でした。

なにしろ枝って、それだけで線がキレイです。
花だけでまとまっている世界に
美しい線が1本入るだけで、
景色ががらっと変わる。
1本の枝を落とすと、
そこからまたきりっと、花の顔つきがひきしまる。

ドウダンツツジにヤマブドウ。
線が面白い枝にたくさん出会いました。
あまり珍しくないと思っていた椿の枝葉も、
1本だけ選んで見ると、実はとっても美人さん。

でも、できあがって先生に見せるときに、
「あら、今回はここ、うまくいっちゃったかも」
と、得意に思う枝ほど、
「花を、いけちゃってるわね」。
ばちんと先生に切り落とされる。

「茶花は、一本の枝、一輪の花を借りるその向こうに、
自然の景色が広がっていかなくては」
いつもそう言われました。

落とした方がいいと分かっているのに、
それこそ枝葉にこだわってしまって、
捨てられない。
茶花で思い知った自分のそういうクセは、
日常のふるまいでも、文章でも、
なかなか治りません。

その自省からまた、
今度こそは、きれいな1本を、と、
次の線の世界に引きずり込まれる。

きれいな線を見ることが、選ぶことが、
自分を整えていくように感じました。

(あと1回だけ、つづきます)

第3回 はるかその向こうの空へ