- 糸井
- でも、清水さんって、文章は文章で面白いんですよ。ぼく、清水さんの文章を「みんな、このくらい書けるようになりなさい」って社内で言った覚えありますよ。
- 清水
- え、本当に?
- 糸井
-
うん。
清水さんって正直に言うと、文章の修業をしたつもりは全然ないわけじゃないですか。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- だから、「修業したつもりのない人がこんな文章を書けるっていうことに、もっとおののいてください」って社内で言いましたね。
- 清水
- わあ、うれしい。頑張ろう。
- 糸井
- ご本人は、文章に対してどう思ってるの?
- 清水
-
うーん。
でも、ブログなんかはやっぱり、1日が終わって寝る前に、「今日はこういうふうだった」ってことを書くと自分がスッキリして寝られるので…トイレみたいな感じですかね(笑)。
- 糸井
-
ほう。
でも、何も思わないで生きてたら、書くに書けないじゃないですか。
例えば「アシスタントの子が気が利くなあ」って思ったから、そのことをブログで書けるわけじゃない?
- 清水
- うん。
- 糸井
- だから、周りに対して思ってる分量は多いよね。
- 清水
-
ああ、きっと多いと思う。
さっきのハガキ職人の話につながるんだけど、私、高校のときに「自分の面白ノート」っていうのがあって、その中に真面目なエッセイ欄があったんですね。それを、「今回も書きましたけど、どう? 読む?」みたいな感じでみんなに回して、その人が笑ってる姿を見るのが幸せ!みたいな感じだった。
- 糸井
- ああ。そうやって話聞いてると、生い立ちというか成り立ちが、さくらももこさんに似てるよね。
- 清水
- ああ、そう。
- 糸井
- 思ってることを直接その人に言うわけじゃないけど、「あいつがなんかおかしいことしてるなあ」って見てるところというか(笑)。
- 清水
- そうかも(笑)で、本人幸せっていうね。
- 糸井
- そう。だから、今の清水さんって、「周りの人が面白がる」のが原点なんだよね。
- 清水
- そうですね、うん。
- 糸井
- おれは、そういうのはなかったなあ。
- 清水
- ないの?
- 糸井
- 漫画描いたりして、回覧板的に回すみたいなことでしょう?
- 清水
- そうそうそう。
- 糸井
- 少しはしてたんです。してたんだけど…つかめなかった、お客さんが(笑)。
- 清水
- あはは(笑)。芸人だったらダメな言葉だね(笑)。
- 糸井
- せいぜいつかめて何人かで。だから、憧れてた。そういうことをやってみたいものだなと思って。
- 清水
- クラスの中に、やっぱり面白い人はいたの?
- 糸井
-
いた。いた。修学旅行でガイドさんがマイク回すと、そいつが取ったら、もう絶対面白いみたいな。
で、そいつんちに行くとね、貸本屋から借りて返さない漫画とかいっぱいあったりね。
- 清水
-
え、それ大丈夫なの?(笑)
だって、貸本から借りて返さないってことは、どんどん借金が溜まっていくってことでしょ?
- 糸井
-
そうだと思うよ。ぼくは小学五年生のとき、延滞料金のことで夜も眠れない思いをして、それこそ布団をかぶって泣いたんです。
なのに、そいつんちに行ったら、貸本屋の漫画がじゃんじゃんあるのよ。それで、「おれが今まで泣いてたのは何だったんだろう」って。
- 清水
- へぇー。でかいのかな、人間が。
- 糸井
- 全然わかんない。つまりルールに対する、こう(笑)…。
- 清水
- 突然日本にペリーが来航してきた、みたいな(笑)。
- 糸井
-
そうかもしれない(笑)。ああ、おれ、そういう学びはけっこう多いかもしれないな。
このあいだ文章でも書いたんだけど、おれが学生時代にエレキギターを買って練習してるとき、勉強も何もできないやつが、目の前でさらっとギターを弾き始めちゃったのを見てね。そのときも、おれの努力は何だったんだって思った(笑)。
- 清水
- あいつにおれ、負けてんだっていう(笑)。
- 糸井
- 負けてるどころじゃなくて、登れない山をあいつは上で逆立ちしてるよと思った。
- 清水
- 価値観がひっくり返ったんだね。
- 糸井
- そう。親たちが「何でも基礎をしっかりしとけば何とでもなるんだから」とか言って、おれ、バイエルとか習ったんだから、一時は。ピアノ教室も行ったよ。嫌でやめたけど。
- 清水
- へぇー(笑)。
- 糸井
- だから、何だろう、自分が守ってた価値観の延長線上に夢が遠くにあったものが、今日の明日叶えちゃってる人とか見ちゃうわけで、あれは今の自分に影響与えてますね。
- 清水
-
そうか。自分は大したものじゃないんだって感じ。
ああ、でも芸能は習うものじゃないっていうのはあるかもしれないですね。なぜかできるって人、多いですもんね、なんか。
- 糸井
- うん、でしょう?その基礎が必要だっていうのと、やりゃいいんだよっていうのと、自分ではどう思ってる?
- 清水
- どうなんだろう。
- 糸井
- 弾き語りモノマネはできないよね、今日の明日じゃ。
- 清水
- ああ、そうかもね。それはやっぱり私が10代の頃にすごい感銘受けたから。悔しかったんでしょうね、きっと。「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな(笑)。
- 糸井
- (笑)。
- 清水
-
何という自信なんですかね(笑)。
だけど、今でも、もうちょっと頑張ったら矢野顕子になれるんじゃないかと思ってる自分がいるの。
- 糸井
- 矢野顕子にあって清水ミチコにないものは何なの?
- 清水
- ああ、それは音感ですよ。
- 糸井
- 音感、ああ。指の動きとかではなくて。
- 清水
- あ、指ももちろん。ピアノから何から、音楽性。
- 糸井
- でも、同じ道で、振り向いたら後ろに清水がいた、ぐらいのとこにいるわけだ。
- 清水
- 矢野さん?
- 糸井
- うん。
- 清水
- いない、いない。全然レベル違う、それは。
- 糸井
- でも、見えるっていうぐらいにはいるんじゃない?(笑)。だって、ピアノ2台くっつけて両方でやってたじゃないですか。
- 清水
- あれも、矢野さんは一筆書きでササッと書いてるんだけど、私はそれを綿密に、「どういう一筆書きをやったか」っていうのをコピーして頭の中に入れて、さも今弾きました!みたいなふりをしてるだけで。
- 糸井
- ああ、でもそれもさっきの話と同じともいえるね。「あなたのやってることはこう見えてますよ」っていうことだよね。
- 清水
- あ、そうですね(笑)。それだったらうれしいね、でも。
- 糸井
- 似顔絵とかもそうじゃないですか。「こう見えてますよ」っていう中には、そこには尊敬が入ってる場合と、そうでもない場合がある(笑)。
- 清水
- おいし過ぎる場合がね(笑)。「必ずウケる、この人」っていうの、何なんだろう。例えば桃井さんのモノマネをやるにして、別に強調してないんだけど、普通にやっててもすごいウケるのよね。あと、男の人がやる矢沢永吉さん。すごくおかしいね。不思議ね、あれ。
- 糸井
- それは、例えば幼稚園に行く子どものいるお母さんが、子どものハンカチに、ネコとかクマとかを目印に描くじゃない。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- あの、「パンダ」だね。
- 清水
- あっはっは!何それ(笑)。
- 糸井
- いや、目印に描くだけなんだけど、ネコとクマと描いても自分のだ!ってわかんないじゃない。
- 清水
- うんうん、なるほど。
- 糸井
- でも、パンダって、「超パンダ」じゃない(笑)。
- 清水
- ふっはははは。(笑)
- 糸井
- で、永ちゃんって、「超パンダ」なんだと思う。
- 清水
- ああ、なるほど。同じ動物界でも。パンダは人が集まるしね。
- 糸井
- そう。
- 清水
- そうか。だから、おかしいのかな。
- 糸井
-
だってさ、永ちゃんの面白さって、とんでもないよ、やっぱり。
いや、おれね、今年また永ちゃんのことが大好きになったんだけど、去年の暮れに急に電話があって。なんでかっていうと、昔うちでつくった、『Say Hello!』っていう犬が生まれた本があって。「それを今、ずっとあったんだけど見たら、糸井、面白いことしてるねえ」って。
- 清水
- (笑)。すごいうれしいですね。
- 糸井
- 「いいよ。そういうところがいいよ」って(笑)。14、5年前の本を今見て、電話したくなったって(笑)。
- 清水
- へぇー、少年っぽい。
- 糸井
- それで、「思えばおまえのやってることは、そういうことが多くて、俺にはそういう優しさとかってのが、ないのね」って。
- 清水
- そんなことないですよね、きっと。
- 糸井
- そう。だから「それは違うよ。同じもののこっちから見てるかあっちから見てるかだけで、おれは永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」って言うと、「そうかな」って言って、「うれしいよ、それは」って言って。
- 清水
- へぇー、ずいぶん…
- 糸井
- いいでしょ?
- 清水
- うん。
- 糸井
- だから…どう言えばいいんだろう、永ちゃんは、ボスの役割をしてるときと、しもべの役割をしたり、ときにはただの劣等生の役割をしたり…全部してるんです。
- 清水
- そうか。
- 糸井
- だから、ああ、相変わらず、あの世界ではもうトップ中のトップみたいになっちゃった、別格みたいになっちゃったけど、全然同じだなと思って。また今年、永ちゃんをじーっと見てようかなと。
(つづきます)