- 清水
- じゃあ、永ちゃんにあって、糸井さんにないものっていうと何だと思いますか。
- 糸井
-
うーん…。
量的にものすごく多いんだけど、責任感じゃないかな。
- 清水
- それこそ、社長としても。
- 糸井
-
学んでますよ、ぼくは。永ちゃんから学んでますよ(笑)。やれるかやれないかのときに、どのくらい本気になれるかとか、遮二無二走れるかとか、そういうのは…。でも、そこだけでいうと、そういう人はいっぱいいるからなあ…。
あ、思い出した。生まれつきっていうか、ボスザルとして生まれたサルと、そうでもないサルといるんだよ。
- 清水
- (笑)。
- 糸井
- 前、チンパンジーの戦争のドキュメンタリーっていうのを見たんだよ。で、ボス争いがあって、クーデター起こすやつがいるんだけど…何で決めるんだろうって思わない? その、ボスっていうのを。
- 清水
- うん。
- 糸井
- そしたら、喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- 喧嘩じゃないの?喧嘩以外に何があるの?
- 糸井
- …教えましょう。パフォーマンスなのよ。
- 清水
- ウソ!(笑)。
- 糸井
-
まず、クーデターの前は「俺は、ボスにいずれ挑戦しますからね」みたいな目で見たりするとこから始まってて。で、「おまえの最近のその目つきは目に余る」みたいなことで、「おまえ!」なんてやると、すごすごっと逃げたりを繰り返しするわけ。でもあるとき、「ボスといつまでも呼んでると思ったら大間違いですよ」って反発すると、ボスが、「おい、目に物見せてやる!」つってバーンとかかっていって、追っかけっこになるんだよ。
それで、例えば川のそばに行くと、若いチンパンジーが石を持って、川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
- 清水
- 関係ないのに(笑)。
- 糸井
- で、ボスのほうも、石をバシャバシャ投げるんだ(笑)。
- 清水
- (笑)。
- 糸井
- で、今度、木があると、木につかまって、ざわざわ、ざわわざわわ!ってやるのよ。
- 清水
- 祭りだ。
- 糸井
- そう。ボスも、ざわわざわわって。
- 清水
- 「ざわわ」やめてください(笑)。
- 糸井
- そうね(笑)。でも、とにかくひっくり返ったり、水しぶきあげたり、もう、自分が嵐になるわけ。で、結局、すごすごと負けたほうが引き下がるの。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
- 清水
- じゃなくて、やろうと思ったらこれだけできるよっていう…。
- 糸井
- パフォーマンス(笑)。それを見てからますます、永ちゃんのステージとか見てると、これは、もうできない。そりゃ芸能の世界にはいろんなね、大人数の人をひれ伏すようなチンパンジーたちはいるよ。でも、やっぱり永ちゃんのそのボスザル感は、すごいよね。
- 清水
-
そうね。ユーミンさんが1回、何かのインタビューで、「どうして矢沢永吉さんは自分のパフォーマンスに飽きてないのか知りたい」それは皮肉じゃなくてね、本当に知りたいみたいなこと言ってたけど、どうなさってると思います?
いつもどこ行っても満員でワー、満員でワー、じゃないですか。で、どういうバンドも、ふつうはちょっと飽きる。
- 糸井
- 「それは矢沢が真面目だから」。
- 清水
- (笑)。
- 糸井
- 「矢沢、手は抜かない」。
- 清水
- やめてもらっていいですか(笑)。
- 糸井
- 多分そういうことだと思うよ。手を抜けないんだよ、多分。で、抜いたらどうなるか。矢沢じゃなくなるって。だから、矢沢は矢沢を全うするんですよ。
- 清水
- そうか。それはみんなのためでもあるし。
- 糸井
-
うん。だからさっき永ちゃんにあってぼくにないものに「責任」って言ったのはそういうようなことでさ。
だけど、3年か4年前、清水さんがはじめて武道館のコンサートをやったぐらいのとき、おれは「ああ、清水さんもボスになったんだ」と思ったよ。
- 清水
- え、本当?
- 糸井
- うん。つまり、立候補しないのに、ボスになった人って一番いいなと思ったよ。何ていうんだろう、みんな利害関係なく集まってんじゃん。
- 清水
- ああ、そう、そう。よくわかりますね(笑)。
- 糸井
- 別に清水プロダクションに入ったわけでも何でもないのに集まってる。で、なんとなく、そこに一つ、「こうやったほうがいいかな」って言ったら、「そうじゃない?」って言うやつがいたとかさ。
- 清水
- うん、えらいもんでね(笑)。
- 糸井
- その場所に立つのって、なかなか大変なことで。
- 清水
- 目指したらね、きっと大変だと思う。
- 糸井
- 目指したら大変なのに。
- 清水
- うん、運も良かった。
- 糸井
-
そういえば、大昔にさ、清水さんと映画の試写会のトークショー*で、ぼくが、筋トレに行ってるって話したよね。
(*2002年掲載 「一夜かぎりのくだらなさ。清水ミチコ/リリー・フランキー/darlingの夜。」)
- 清水
- ああ、あれ、どうなったの?もうやめた?
- 糸井
- いや、会員としてはまだいるよ。サボってるんだよ、ずっと(笑)。
- 清水
- あ、そう(笑)。なんでいかなくなったの?
- 糸井
- それは、社長業になったからだよ。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- 何ていうの、ある時間ここに拘束されてれば、ここは自由です、みたいなふうにはなってないからね。
- 清水
-
なるほどねえ。
私、今日、最終的に聞きたいと思ったのは、糸井さんは死にたくないだろうなってことなの。
- 糸井
- ん? 死にたくない?
- 清水
- 死にたくない。
- 糸井
- ああ、死にたくないよ、そりゃ。
- 清水
- 当たり前か(笑)。
- 糸井
- 死んだらしょうがないとも思うし。
- 清水
-
うん。
でも、私のイメージの中では、貧乏生活もしてきた子が孤独とか知りながら生きた少年が、いつの間にか社員が70人超える大会社の社長になってたわけじゃん?
- 糸井
- 大会社じゃないけどね(笑)。
- 清水
- でも、すごいサクセスストーリーでもあるじゃない?
- 糸井
- ああ、ああ。
- 清水
- そういう人が一番怖いのってやっぱり健康じゃなくなることとか、死ぬことかなって思ったの。
- 糸井
- いや、それは別に怖いとかじゃなくて、さっきの永ちゃんのちっちゃいサイズだよ。つまり責任があるんだよ。それだけのことだよ。
- 清水
- 「もうやめたい!」ってならない?
- 糸井
- だって、やめたいって言っちゃいけないじゃない。
- 清水
- ああ、そうだねえ。
- 糸井
- 私がモノマネをやめたいだなんてこと思う必要がないわけだよね。いや、でも、あなたのおかげでご飯が食べられるっていう扶養家族は、それはそれでいるよね。清水ミチコ事業という体系があるよ、やっぱりそれは。だから、「私は倒れちゃいけない」っていうぐらいのことは思ってるでしょう?
- 清水
-
うーん。
本番で倒れちゃいけない、とは思うけど。私はやっぱり糸井さんとは全然違います、スタンスは。
- 糸井
- そうか、うん。でも、その色、形、大きさは違うけども、そこはみんな大人はあるわけで。子どもだったときは、それはないふりをして生きてるわけじゃない。
- 清水
- ああ、そうだね。
- 糸井
- でも、大人になっちゃってからは責任があるから、そこはもうしょうがないし、まんざらでもないみたいなとこあるじゃないですか。「皆さん、お元気ですか」って言ったら「元気でーす!」って返ってくるみたいな。
- 清水
- うん、うん。
- 糸井
- うん。で、そこの「元気でーす!」って声も含めて俺じゃないですか、もう。
- 清水
- そうかあ。うん。
- 糸井
- 逆に、武道館でずっこければ、みんながワーッて湧く、みたいなのも含めて私じゃないですか。だからやれるうちはやろうっていうのはあるよね。ただ、ぼくの場合は引退の準備をしながら一生懸命やってるみたいな状況ですよ、もう。
- 清水
- そうなの?
- 糸井
- うん。それは、しがみつく人になったらやっぱり悪いからさ。
- 清水
- 次の世代に?
- 糸井
- うん。得意で社長やってるわけじゃないから、おれ。もっと社長得意な人がやったほうがいいのかもしれないし、わかんない、それは。こういう変な社長だからできてることもあるし、逆に言うと本人がブレーキをかけてる部分もあるし。でもまあ、年取ったらよしたほうがいいなと思って。
- 清水
- あ、そう?
- 糸井
- だって、ずっとしゃがんでたあとで立ち上がったときに、ひざが痛いもん。
- 清水
- なるほどね(笑)。
- 糸井
-
そういう人がさ、ずっとやってちゃダメだと思うんだよね。
清水さんとか、先どうするみたいなこと考えるの?
- 清水
- 先どうするは考えないけど、なんかのときに占いの人のとこ行ったことがあって(笑)。
- 糸井
- 自分で考えたくないんだ(笑)。
- 清水
- そう、人に頼った(笑)。そしたら、「車椅子に乗ってても舞台に立ってやってる」って。凄みが怖い。誰も逆らえないの(笑)。
- 糸井
-
ああ。
でも、それを拍手で迎える人がいる限りは、それはOKですよね。
- 清水
- そうかもね、出るかもね。
- 糸井
- 自分としては嫌だって言っても、そんなに喜んでくれるんだったら、車椅子に両側に龍をつけてね。
- 清水
- 凄みが(笑)。
- 糸井
- 雷様みたく、雷鳴と共に登場。
- 清水
- 笑えない(笑)。
- 糸井
- (笑)。「さあ、笑え!」、ドワワワァー!
- 清水
- ドラが鳴る(笑)。
- 糸井
- そう、そういうのもありだし。じゃあ、考えたくないのはあるんだね。
- 清水
- うん、そうですね。でも、私、不幸になるような気がしない。
- 糸井
- ああ。それがすべてだと思うね。その「運悪くないし」みたいなね。
- 清水
- うん、そうね。
- 糸井
- いや、思ったの。おれ、孫ができたじゃん。見てるとね、うらやましいの、やっぱり。
- 清水
- ああ、子どもの楽観性?
- 糸井
- そう。ひとりでは生きていけないのに、一切心配しないで、フャーッとか言ってるっていう(笑)。
- 清水
- (笑)。そうね。それで、自分でさも大きくなりましたって顔するからね、みんな。
- 糸井
- うん。だから、そういうところがないとやっぱり生き物ってダメでさ。
- 清水
- そうね。
- 糸井
- ものすごく考える子どもがいたりしてね、「ぼくがこの小学校に入ったとするじゃない?」とか、「将来、今のところ勤めたいのは」とか言ったら、不幸になるぞって思わない?(笑)
- 清水
- うん、うん。
- 糸井
- それよりは、なんとかなるような顔してニッコニコしてて、「おまえ、結局、俺の話聞いてないだろ」って言ったら、「…ごめん」みたいなさ(笑)。
- 清水
- (笑)。そうね、南さんみたいなね。
- 糸井
-
そう。それのほうがやっぱり生きるよね。
…おかげでなんとかなった。
まあ、清水さんのサクセスストーリーを順番に語っていくような企画にはならなかったけれども(笑)。
- 清水
- (笑)。
- 糸井
- いや、面白かった。
- 清水
- 面白かった。あっという間だったね。
(おわりです。最後までお読みいただき、ありがとうございました…!)