- 糸井
- でも、「こう見えてますよ」には尊敬が入ってる場合と、そうでもない場合がある(笑)。
- 清水
-
おいし過ぎる場合がね(笑)
「この人のモノマネすると必ずウケる」っていう人がいるけど、何なんだろう。
- 糸井
- たとえば?
- 清水
- 桃井さんは普通にやっててもすごいウケるのよね。それと、男の人がやる矢沢永吉さん。不思議だね、あれ。

- 糸井
- それは、幼稚園で子どもが使うハンカチに、お母さんがクマとかウサギを目印に描くじゃない。
- 清水
- うん。
- 糸井
- あの、パンダだね。
- 清水
- 何それ(笑)。
- 糸井
-
目印に描くだけなんだけど、パンダはものすごくパンダでしょ。
ウサギはまあ耳でわかるんだけど、ネコとクマは描いても紛れちゃうじゃない。
でも、パンダは、超パンダじゃない(笑)?
- 清水
- (笑)

- 糸井
- で、桃井さんや永ちゃんって、超パンダなんだと思う。
- 清水
- ああ、なるほど。同じ動物界でも、人が集まるしね。
- 糸井
-
そう。だってさ、どう言ったらいいんだ。
永ちゃんの面白さって、とんでもないよ、やっぱり。
- 清水
- あ、そう。面白さって2つあるけど‥‥笑うほうと深みのほうと。
- 糸井
-
結局それはね、1つのものだよ。
つまりね、永ちゃんはボスで男前に見えるけど、大もとはそうじゃなくて、ひょうきんな子だったらしいんだよ。
- 清水
- え、昔? 『成りあがり』読むと違うけど(笑)。
- 糸井
- だから、ちょっとかいつまんでんだよ、あれは(笑)。
- 清水
- 書いた人が言うんだから間違いないか(笑)。
- 糸井
-
だから、全部してるんです。「ボス」の役割と、ときには「しもべ」の役割や、ただの「劣等生」の役割を‥‥。
あの世界ではもうトップだし別格みたいになっちゃったけど、最近も相変わらず同じだなと思って。

- 清水
-
へぇー。好きなんですね。
矢沢さんにあって糸井さんにないものって、何だと思いますか。
- 糸井
-
うーん‥‥たくさんあるんだけど、責任感じゃないかな。
永ちゃんのステージでのパフォーマンスを見てると、これはもう、誰にもできない(笑)。
- 清水
- ユーミンさんも何かのインタビューで、「どうして矢沢さんは毎日のようにやる自分のパフォーマンスに飽きないのか」知りたがってましたけど、どうなさってると思います?
- 糸井
- ああ。
- 清水
- いつどこに行っても満員でワー、じゃないですか。大抵のバンドは、ちょっとずつそれに慣れていくでしょ。

- 糸井
-
それは、手を抜けないんだよ、多分。抜いたら矢沢じゃなくなるって。
みんなが持ってる矢沢像を壊すのは、自分であってはいけないって気持ちがあるというか。
だから、矢沢はボスとしてのパフォーマンスを全うするんですよ。
- 清水
- そうか。それはみんなのためでもあるし。
- 糸井
- うん。だけどさ、俺、3年か4年くらい前、清水さんの初武道館のときに、「ああ、清水さんもボスになったんだ」と思ったよ。
- 清水
- え、本当?
- 糸井
-
何ていうんだろう、共演者が利害関係なく集まってたでしょう。
立候補しないのにボスになった人って、一番いいなと思ったよ。
- 清水
- ああ、そうそう。よくわかりますね(笑)。

- 糸井
- 別に清水プロダクションを開いたわけでもないのに人が集まってて、清水さんがなんとなく「こうやったほうがいいかな」って聞いたら、「そうじゃない?」って答える人がいたとかさ。そんなふうでしょ。
- 清水
- うん、えらいもんでそうですね。
- 糸井
-
その場所に立つのって、なかなか大変なことでさ。
武道館公演では「私がぐずぐずしてらんない」っていうのがあったんじゃないですか?
- 清水
- あったあった(笑)。
- 糸井
- やっぱり、「ここを私がちゃんとしないといけない」っていう責任感は、みんなちょっとずつ持ってるんですよね。
- 清水
- そうかもしれないですね。

- 糸井
- ステージとは違うかもしれないけど、多少偉ぶるのが必要とされる場面に呼ばれることはないですか。審査員とか、新人が集まってる場所とか。
- 清水
- うん、あるある。
- 糸井
- そこで清水さんがいい気にならないモードを保っていられるのは、「いい気になっちゃいけない」と思ってるから?
- 清水
- いえ、そんな立場にないからだよ(笑)。
- 糸井
- なるほどね。でも、人によっては偉ぶることでだんだん「エラい人」になっていったりするじゃない。
- 清水
- ああ。
- 糸井
-
でも、清水さんがそうじゃない理由の一つはやっぱり、「失われるもの」が大き過ぎるからだよね。
そうなっちゃったらこれできない、あれできないが、あるよね。
- 清水
-
そうね、うん。
あとやっぱりほら、自分を客観的に見てナンボの商売だから、私たちは。

- 糸井
- ああ、「こう見えてるよ」が仕事だからだ。
- 清水
- そうそう。
- 糸井
- 大昔にさ、体を鍛えてた俺に対しても、「誰もあんたにそんなこと望んでない」って言ったよね(笑)
- 清水
- ひどいねえ、言いそう(笑)。
- 糸井
- 俺はね、その一言には本当に感動したんですよ。「なんて当たってるんだろう」って。あれを、「どうしてみんな気づいてないんだ」って(笑)。
- ほぼ日
- それは何度も言ってますよね。親しい人にも言える清水さんがすごいです。

- 清水
- でも私、その頃内山君に「これ食べたら太るかな」って言ったら、「清水さんが太って困る人、どこにいるんですか」って言われて(笑)。
- 糸井
- 同じことを言われたと(笑)。
- 清水
- そう(笑)。その前後だったかもしれない。
(つづきます)