もくじ
第1回わたしには、矢野顕子がこう見えてるよ。 2019-02-05-Tue
第2回ぼくには、矢沢永吉がこう見えてるよ。 2019-02-05-Tue
第3回ふたりには、これからがこう見えてるよ。 2019-02-05-Tue

「The U(ザ・ユー)」ウェブマガジン編集長。イラストレーター。デザイナー。2月28日まで原宿のカフェ「bio ojiyan cafe」で個展開催中。

ふたりから見たアッコちゃんと永ちゃん。

ふたりから見たアッコちゃんと永ちゃん。

担当・マスダ ヒロシ

第2回 ぼくには、矢沢永吉がこう見えてるよ。

糸井
モノマネだけじゃなくて、文章は文章でおもしろいんですよ。
ぼく、清水さんの文章を
「みんな、このくらい書けるようになりなさい」って
社内で言った覚えありますよ。
清水
本当?
糸井
うん。言っては悪いですけど、
文章の修業をしたつもりは全然ないわけだから。
清水
うんうん。
糸井
「修業したつもりのない人がこんな文章を書けるって
いうことに、もっとおののいてください」って
言ったことありますよ。
清水
わあ、うれしい。頑張ろう。

糸井
ご本人は、文章は何だと思ってんの?
清水
文章は、ブログなんかはやっぱり、
寝る前に、1日こういうふうだったってことを
書くとスッキリして寝られるので、
トイレみたいな感じですかね。排泄(笑)。
糸井
でも、何も思わないで生きてたら、
書くときになって書けないじゃないですか。
だから、思ってる分量は多いよね。
清水
うん、きっと多いと思う。
高校のときにもう自分の「おもしろノート」があって、
そこには真面目なエッセイ欄があって、
それを「今回も書きましたけど、どう? 読む?」
みたいな感じで回して、
友だちが笑ってると、もうすごい幸せみたいな。
糸井
周りの人がおもしろがるみたいなのが原点。

清水
あ、そうですね、うん。
糸井
おれは、それはなかったなあ。
清水
あ、ないの?
糸井
漫画描いたりして、回覧板的に回すみたいなことでしょう?
清水
そうそうそう。
糸井
それは少しはしてるんです。
してるんだけど‥‥つかめなかった、お客さんが(笑)。
清水
芸人だったらダメな言葉だね(笑)。
糸井
(笑)。せいぜいが何人かで。
あ、女の子のほうが見てくれてた。
清水
あ、でも、どんな現場行っても女の人多いですよね。
落語行っても、吉本行っても。
糸井
男には案外ダメだった。
男は勝ち負けをさ、つい考えちゃうからさ、
認めるの得意じゃないね。
清水
そうかもね。男っておもしろい男の人に
嫉妬するっていいますもんね、今でも。

糸井
なるほどね。
ただ、しょうもないことを言ってるおかしいやつに憧れてた。
そういうことをやってみたいものだなと思って。
清水
クラスの中にやっぱりおもしろい人っていた?
糸井
いた。いた。
清水
さんまさんみたいな感じね?
糸井
そうだね。だから、修学旅行でガイドさんがマイク回すと、
そいつが取ったら、もう絶対おもしろいみたいな。
清水
任せたみたいな(笑)。
糸井
そうそう。このあいだ文章で書いたんだけど、
エレキギターを買って練習してるときに、
まったく音楽もできないし、勉強も何もできないやつが、
「タンタカタンタン、タンタカタンタン♪」って
弾き始めちゃったのを見て、
何だったんだ、おれはって思った(笑)。
清水
あいつにおれ、負けてんだっていう(笑)。
糸井
負けてるどころじゃなくて、
登れない山をあいつは上で逆立ちしてるよと思った。
清水
そう。価値観がもうひっくり返ったんだね。
糸井
そう。親とか老人たちが言う、「何でも基礎をしっかり
しとけば何とでもなるんだから」って言って、
おれ、一時は、ピアノ教室行ってバイエル(ピアノの入門)
とか習ったんだから。嫌でやめたけど。
清水
(笑)
糸井
そういうことの延長線上に、
ビートルズとか弾ける自分が作られると思ったら大間違いで。
「ちょっとギター貸してみ?」つって、
急に『ミッシェル』を歌ったんですよ。
だから、何だろう、
基礎の延長線上の遠くに自分の夢があったのに、
昨日の今日でパッと夢に近づける人とかいるわけで、
あれは今の自分に影響与えてますね。

清水
あ、習うものじゃないものは
芸能ってあるかもしれないですね。
なぜかできるって人、多いですもんね。
糸井
なぜかできちゃう、とんでもない人。
清水
桃井かおりさんとか、矢沢永吉さんとか。
マネしてても、別に桃井さんのこと強調してないんだけど、
普通にやっててもすごいウケるのよね。
あれと男の人がやる矢沢さん。すごくおかしいね。
不思議ね、あのふたり。なんかおかしい。

糸井
それは、幼稚園に行く子どものいるお母さんが
自分の子どものハンカチに、
クマとかウサギとか目印に描くじゃない。
あの、パンダだね。
清水
何それ(笑)。
糸井
目印に描くだけなんだけど、
パンダはものすごくパンダじゃない?
パンダは、超パンダ。
清水
(笑)
糸井
で、永ちゃんって、超パンダなんだと思う。
清水
ああ、なるほど。同じ動物界でも。
糸井
桃井かおりさんも(笑)。

清水
桃井さんも超パンダなんだ(笑)。人が集まるしね。
糸井
そう。
清水
そうか。だから、おかしいのかな。
糸井
だってさ、どう言ったらいいんだ。
永ちゃんのおもしろさって、とんでもないよ、やっぱり。
清水
あ、そう。
おもしろさって二つあるけど、
笑いのほうと、深みのほうと。
糸井
結局それね、一つのものだよ。
つまりね、永ちゃんね、二じゃないんだよ、大もとは。
ひょうきんな子だったらしいんだ、やっぱり。
清水
え、昔? 『成りあがり』読むと違うけど(笑)。
糸井
だから、ちょっとかいつまんでんだよ、あれは(笑)。

清水
書いた人が言うんだから間違いないか(笑)。
糸井
うん。あのね、今にして思えばやっぱり、
ジョン・レノンもそうなんだ、やっぱり。
清水
ちょっと陽気なところがあるの?
糸井
おもしろいことやってニヤニヤしてるっていうところが
ジョン・レノンにはあってさ、
それが音楽に行ったからビートルズになったわけで、
セールスマンやってても、おかしいことやってると思うよ。
 
で、永ちゃんもね、ひょうきんな子なの。
で、ひょうきんな子が二の線もやれちゃうんだよ。
清水
そうか。笑っても、じゃ、全然平気なのか。
糸井
うん(笑)。
暮れに急に電話があって、
おれはね、今年また永ちゃんのこと、
もっともっと好きになったんだ。
なんでその電話かけたかっていうと、
昔うちで作った、『Say Hello!』っていう
犬が生まれた本があって。
「それを今見たら、糸井、おもしろいことしてるねえ」って。
清水
(笑)。すごいうれしいですね。
糸井
「いいよ。そういうところがいいよ」って。
14、5年前の本を今見て、
電話したくなったって(笑)。

清水
へぇー、少年っぽいですね。
糸井
で、それが素直に出てきて、
「思えばおまえのやってることは、そういうことが多くて、
オレにはそういう優しさとかってのが、ないのね」って。
清水
そんなことないですよね、きっと。
糸井
そう。で、「それは違うよ。同じものを
こっちから見てるかあっちから見てるかだけで、
おれは永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」って言うと、
「そうかな」って言って、「うれしいよ、それは」って。
清水
へぇー、ずいぶん‥‥
糸井
いいでしょ?
清水
うん。
糸井
だから、どう言えばいいんだろう、
ボスの役割をしてる永ちゃんと、
それから、ときにはしもべの役割をしたり、
ただの劣等生の役割をしたり、全部してるんです。
清水
そうか。
糸井
それをおれはだいたい見てるんで、
ああ、相変わらず、あの世界ではもうトップ中のトップ、
別格みたいになっちゃったけど、全然同じだなと思って。
また今年、じーっと見てようかなと。
清水
永ちゃんにあって糸井さんにないもの
っていうと何だと思いますか。

糸井
永ちゃんにあってはねえ、うーん‥‥
量的にものすごく多いんだけど、責任感じゃないかなあ。
清水
へぇー。それこそ、社長としても。
糸井
学んでますよ。ぼくは、永ちゃんから学んでますよ(笑)。
これ、やれるかやれないかのときに、
余計なことは、聞くことは聞くけど、
やるべきだっていったときに、どのくらい本気になれるかとか、
遮二無二走れるかとか、そういうのは‥‥でもね、
そこだけでいうと、そういう人はいっぱいいるからなあ‥‥。
 
あ、生まれつきっていうか、ボスザルとして生まれたサルと、
そうでもないサルといるんだよ。

清水
そうか。永ちゃんは、ボスザルとして生まれたサル(笑)。
糸井
チンパンジーのドキュメンタリー番組を観てたら、
ボス争いがあるんだよ。
クーデター起こそうとして失敗したやつが
結局追い払われて、隣の山からずーっと様子を見てたり。
清水
かわいそう!
糸井
で、ボスを何で決めるんだろうって思わない? 
清水
うんうんうん。
糸井
そしたら、喧嘩じゃないんだよ。
清水
喧嘩じゃないの?
喧嘩以外に何かあるの?
糸井
教えましょう。
パフォーマンスなのよ。
清水
ウソ(笑)。

糸井
(笑)。まず、「ボス、おれはいずれ挑戦しますからね」
みたいな目で見たりするとこから始まって、
で、「おまえの最近のその目つきは目に余る」
「おい、おまえー!」なんてボスがやると、
クーデター前は、すごすごっと逃げたりを繰り返すわけ。
で、あるとき、ボスが、「おい、目に物見せてやる!」つって
バーンとかかっていくと、追っかけっこになるんだよ。
で、例えば川のそばに行くと、
石とか持って、川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
清水
あ、すごいね。
糸井
で、ボスのほうも、バッシャバシャ投げるんだ(笑)。
木があると、木をターッとつかまって、
ざわざわ、ざわわざわわ!やるのよ。
清水
(笑)。祭りだ。
糸井
そう。ボスも、ざわわ、ざわわって。
清水
「ざわわ」やめてください(笑)。

糸井
そうね(笑)。ひっくり返ったり、
もう水しぶきあげたり、もう自分が嵐になるわけ。
で、結局のところ、
それで、すごすごと負けたほうが引き下がるの。
清水
へぇー。
糸井
つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
清水
じゃなくて、やろうと思ったらこれだけできるよっていう。
糸井
パフォーマンス(笑)。それを観てからますます、
永ちゃんのステージとか見てると、これは、もうできない。
やっぱり永ちゃんのそのボスザル感は、すごいよね。
清水
ユーミンさんが1回、何かのインタビューで、
「どうして矢沢永吉さんは自分の毎日のようにやる
パフォーマンスに飽きてないのか知りたい」みたいな、
それは皮肉じゃなくてね、本当に知りたいって言ってたけど、
どうなさってると思います?
糸井
「それは矢沢が真面目だから」(モノマネしながら)。
清水
(笑)
糸井
「矢沢、手は抜かない」(モノマネしながら)。
清水
やめてもらっていいですか(笑)。

糸井
たぶん、そういうことだと思うよ。
清水
好きなんですね。
糸井
手を抜けないんだよ、たぶん。
で、抜いたらどうなるか。
矢沢じゃなくなるって。
矢沢は矢沢を全うするんですよ。
清水
そうか。それはみんなのためでもあるし。
そういう方なんですね。
糸井
そういう方なんです、うん。
だから、みんなが思ってる矢沢永吉像を壊すのは
自分であってはいけないって気持ちがあるっていうか。
清水
そうか。
糸井
分裂してるんですよ、ある意味ではね。
みんなが思ってる矢沢永吉像と自分というのは、
やっぱり離れてると思うよ。
清水
そうでしょうね。
糸井
それはイチロー選手でも何でもみんなそうですよ、
とんでもない人たちは。
清水
そうか、グラウンドに立つときは。
糸井
うん。清水ミチコはどうなんですか(笑)。
清水
わたし、そのままかもしれない(笑)。
できるだけそのままでいようと思うしね。
糸井
自分で言ったことでプッてふく人は、そのままの人が多いね。
清水
そうかも(笑)。
糸井
プッてふくふたり、松本人志と清水ミチコ(笑)。
清水
幸せ(笑)。

第3回 ふたりには、これからがこう見えてるよ。