『日本の神様』著者、
畑中章宏さん。
おかしな一団のリーダー役。
神様が好き。
グラフィックデザイナー、
祖父江慎さん。
あちこち寄り道するのが
大好き。
イラストレーター。
100%ORANGEの
及川賢治さん。
虫が好き、ハイキング好き。
ほぼ日乗組員。
ふりまわされるのが好き、
首をつっこむのも好き。
デコボココンビ。
北野天満宮を
案内してくれます。
かっこいい権禰宜さん。
大将軍八神社を
案内してくれます。
人気者の宮司さん。
第10回 世界の東。
ほぼ日
80体の大将軍神像が並ぶその上の階には、
貴重な資料も残されていました。
入口からは想像できなかった
広い世界がひろがっています。
なぜこんなにたくさんのものが
うにゃうにゃと集まってくるのか‥‥
それは、日本という国の特徴にも
つながっていきます!
生嶌 上の階には神像はありませんけど、
この神社に納められたものが
いくつかあります。
ちょっとごらんになりますか?
全員 ぜひ、ぜひ。
(ドヤドヤドヤ、と階段をのぼる)
ソブエ あ‥‥すごい!
急に科学っぽくなってきたよ。
ハタナカ 天球儀だ。
全員 天球儀ぃ?
生嶌 改めて説明します。
まず、陰陽道は、明治になるまで
天文の研究をしたり、カレンダーを作ったりする
国の機関でした。
そういった暦や天文歴の資料が
ここには多数あります。
ソブエ ぼくね、安倍晴明の漫画
『陰陽師』(岡野玲子、夢枕獏/白泉社)を
装丁したことあるんですよ。
ほら、これ。
生嶌

安倍晴明さんには、
呪術的なイメージが強いですが、
本来、あの方は研究者でもありました。
安倍家──後の土御門家というお家に
なるんですけど──土御門家の
所有していた資料も
ここにはたくさんあります。

当時の天文や暦の研究機関の人たちは、
星を観察していて
異変に気づいたら
呪術を執り行っていました。

オイカワ 天体観察と呪術が
連動してたんですね。
ハタナカ 信仰であり、宗教でもあるんだけど、
裏付けが科学だったんです。
生嶌 ええ。一定の循環した動きに異変があると、
そこに注目したわけです。
ハタナカ 流れ星があったり。
超新星爆発があったり。
ほぼ日 そうか、そうか。
「いつもと違う空の様子だぞ!」
ソブエ 「たいへん、ご祈祷しなくちゃ!」
生嶌

いまでも「あ、流れ星」っちゅうんで
みなさん、お願いごとしたりしはるでしょ?
もう単純に、そういうことです。

天球儀を見てみると、
北極星を中心にした星座の近くに
天大将軍という星座があります。
それが神様につながっていったんですね。

こうして星座を神格化し、
大将軍信仰がうまれていったのでは
ないかと思います。

ソブエ ここに展示してあるものみんな、
すぅごくかっこいいですねぇ。
オイカワ すてきですね。
ソブエ 天球儀がいちばんかっこいいかな?
生嶌 江戸時代、
渋川春海(しぶかわしゅんかい)という
学者さんがいました。
江戸幕府が成立したときの
初代天文方に就かれた方です。
その人が
「外から」星を見るようなかたちで
天球儀をつくられたんですよ。
ほぼ日 へぇえ‥‥。
生嶌

この球の中心に地球があるというふうに
見てもらったらいいんですけど‥‥。

ソブエ それは見るに見れない‥‥。
生嶌 我々のほうが
神の視点になってるような状態です。
ほぼ日 では、星の位置関係は
地上から見るのとは左右逆なんですか?
生嶌

そうです、そういうふうに作成されてます。
弓のようなかたちの、
「天将軍」と書いてある
星座は見つかりますか?

ソブエ あ、あった。これだ。
昔の星座の名前、おもちろいね。
生嶌

結局、北極星が王様で、
そこから遠ざかるほど偉くなくなっていく、
という感じで、星座の名前がついてます。

ほぼ日 「老人」という星座もありますね。
生嶌 「便所」とかいうのも
あるんですよ。
ほぼ日 毎晩見えるものだから
昔の人は、星がそうとう
気になっていたでしょうね。
生嶌 そらそうです、
いまとは比べものにならんと思いますよ。
ハタナカ 星神信仰は盛んだったでしょうね。
妙見(みょうけん)信仰って、
聞いたことありませんか?
ほぼ日 妙見‥‥たしか、北極星のことですか?
生嶌

北極星とも北斗七星とも言われます。
北斗七星のなかに
輔星といわれる星がひとつあるんですけど、
その星をいちばん偉いと見る場合もあります。
まぁ、土地土地の、そのときの情報量で
信仰が発展していく、ということは
あったと思いますので‥‥。

ハタナカ その妙見信仰、
いまも残る地域がたくさんありますよ。
妙見様が主祭神の神社もあります。
千葉の千葉神社などがそう。

ソブエ

本つくるとき一瞬くわしくなったのに
忘れちゃってたなぁ‥‥でも、思い出してきた。
あ、これこれ!
『陰陽師』のカバーの裏に、
デザインしたんだった! ほら。

ハタナカ ああ、ほんとだ。
ソブエ カバーの裏に
方位に関する守りの札を入れたんですよ。
『陰陽師』は全部で12巻あるんですが、
12巻のカバーの裏を方位順に並べ替えると
絵が完成するようになってるんです。
ハタナカ 凝った本だなぁ。
オイカワ 実は、ソブエさんが、
いちばんくわしいかもしれないですね。
ソブエ 忘れちゃってるんだけどもね。
すぐに記憶をなくしちゃうからね。
ふふふふふふ‥‥。
ほぼ日 これは、亀甲ですか?
ハタナカ 占いに使ったやつですよね?
生嶌 古代は鹿の骨や亀の甲羅を焼き、
そのひび割れかたで吉凶を占っていました。
その際に使われた甲羅です。
ソブエ これは?
また牛だよ。
オイカワ 牛は方位や暦と関係あるんですか?
生嶌 これは方位とはあんまり関係なくて、
どちらかというと山岳信仰のお札です。
修験の中で使用された
牛王宝印(ごおうほういん)のお札さんを
神道の信仰の中へ取り入れたようなかたちで。
あとはもう、いろんな信仰が
うにゃにゃーっとなっています。
全員 うにゃにゃーっと。
生嶌 はい。やっぱり我々は、
人が求めるいいものを取り入れて、
安心してもらえるような、
人に応えられるようなことを、やっていく。
神社というのはずっと
そういうかたちでやってきたんじゃないかなと
思うんです。
ほぼ日 神社というものは‥‥。
生嶌 気運として、人びとに
いかに安心してもらえるか
ということだと思います。
ほぼ日 いろんな信じる心がありますけれども、
戦乱のときは八幡神社が増えたり、
厄災のあるときは
それを防いだりする神様になる、
ということもありますよね。
生嶌 はい。いかに対応していくかっちゅうことです。
これは日本独特といえば独特かもしれません。
ほかの国はやっぱり、
「うちが信仰してます神様はこれですよ」
という、絶対神がいたりしますから。
ほぼ日 なんで日本だけですか?
ハタナカ

まぁ、日本だけじゃなく
ほかにもそういうことになってる場所が
あるんですけれども‥‥
もともとね、神道の古来の神様は
何かを排除するとか、
そういう神じゃなかったんですよ。
まぁ、それはある種の、
日本の文化だと思います。

外来のものを排除するんじゃなく
受け入れて、日本風にしてきた。
それは信仰だけじゃなくて、
美術とか、文化に対しても
そうだったりするんですよ。

ほぼ日 へぇえ。
生嶌 日本は世界の東の端にあります。
その先は広い海。
ですから、いろんなもんが最終的に
ここに集まってくるんです。
つまりここは、ものごとが到達するところ。
ハタナカ そういう意味でいうと、
こちらの大将軍八神社は
ある種顕著な感じがするんです。
いろんなものが集まって
いろんなものが混交してる
とても象徴的な場所である、と。
 

(東の端のちいさな国。
 その象徴のような神社に立って
 なにやら、考えを深めようとする
 一同でありました。つづく)

星の神様 日本の古代や中世の人も月や星に思いをよせ
信仰の対象にしてきました。
そのひとつが、大将軍神とも関わりが深く
北極星(あるいは北斗七星)を
神格化した妙見菩薩です。
妙見菩薩の代表的な彫像は
よみうりランド(川崎)にあるんですよ。
2012-02-16-THU