 |
上の階には神像はありませんけど、
この神社に納められたものが
いくつかあります。
ちょっとごらんになりますか? |
 |
ぜひ、ぜひ。
(ドヤドヤドヤ、と階段をのぼる) |
 |
あ‥‥すごい!
急に科学っぽくなってきたよ。 |
 |
天球儀だ。 |
 |
天球儀ぃ? |
 |
 |
 |
改めて説明します。
まず、陰陽道は、明治になるまで
天文の研究をしたり、カレンダーを作ったりする
国の機関でした。
そういった暦や天文歴の資料が
ここには多数あります。 |
 |
ぼくね、安倍晴明の漫画
『陰陽師』(岡野玲子、夢枕獏/白泉社)を
装丁したことあるんですよ。
ほら、これ。 |
 |
 |
安倍晴明さんには、
呪術的なイメージが強いですが、
本来、あの方は研究者でもありました。
安倍家──後の土御門家というお家に
なるんですけど──土御門家の
所有していた資料も
ここにはたくさんあります。
当時の天文や暦の研究機関の人たちは、
星を観察していて
異変に気づいたら
呪術を執り行っていました。 |
 |
天体観察と呪術が
連動してたんですね。 |
 |
信仰であり、宗教でもあるんだけど、
裏付けが科学だったんです。 |
 |
 |
ええ。一定の循環した動きに異変があると、
そこに注目したわけです。 |
 |
流れ星があったり。
超新星爆発があったり。 |
 |
そうか、そうか。
「いつもと違う空の様子だぞ!」
|
 |
「たいへん、ご祈祷しなくちゃ!」 |
 |
いまでも「あ、流れ星」っちゅうんで
みなさん、お願いごとしたりしはるでしょ?
もう単純に、そういうことです。
天球儀を見てみると、
北極星を中心にした星座の近くに
天大将軍という星座があります。
それが神様につながっていったんですね。
こうして星座を神格化し、
大将軍信仰がうまれていったのでは
ないかと思います。 |
 |
 |
 |
ここに展示してあるものみんな、
すぅごくかっこいいですねぇ。 |
 |
すてきですね。 |
 |
 |
 |
 |
天球儀がいちばんかっこいいかな? |
 |
江戸時代、
渋川春海(しぶかわしゅんかい)という
学者さんがいました。
江戸幕府が成立したときの
初代天文方に就かれた方です。
その人が
「外から」星を見るようなかたちで
天球儀をつくられたんですよ。 |
 |
へぇえ‥‥。 |
 |
この球の中心に地球があるというふうに
見てもらったらいいんですけど‥‥。 |
 |
それは見るに見れない‥‥。 |
 |
 |
我々のほうが
神の視点になってるような状態です。 |
 |
では、星の位置関係は
地上から見るのとは左右逆なんですか? |
 |
そうです、そういうふうに作成されてます。
弓のようなかたちの、
「天将軍」と書いてある
星座は見つかりますか? |
 |
あ、あった。これだ。
昔の星座の名前、おもちろいね。 |
 |
 |
結局、北極星が王様で、
そこから遠ざかるほど偉くなくなっていく、
という感じで、星座の名前がついてます。 |
 |
「老人」という星座もありますね。 |
 |
 |
「便所」とかいうのも
あるんですよ。
|
 |
毎晩見えるものだから
昔の人は、星がそうとう
気になっていたでしょうね。
|
 |
そらそうです、
いまとは比べものにならんと思いますよ。 |
 |
星神信仰は盛んだったでしょうね。
妙見(みょうけん)信仰って、
聞いたことありませんか? |
 |
妙見‥‥たしか、北極星のことですか? |
 |
北極星とも北斗七星とも言われます。
北斗七星のなかに
輔星といわれる星がひとつあるんですけど、
その星をいちばん偉いと見る場合もあります。
まぁ、土地土地の、そのときの情報量で
信仰が発展していく、ということは
あったと思いますので‥‥。 |
 |
その妙見信仰、
いまも残る地域がたくさんありますよ。
妙見様が主祭神の神社もあります。
千葉の千葉神社などがそう。
|
 |
 |
本つくるとき一瞬くわしくなったのに
忘れちゃってたなぁ‥‥でも、思い出してきた。
あ、これこれ!
『陰陽師』のカバーの裏に、
デザインしたんだった! ほら。 |
 |
 |
 |
ああ、ほんとだ。 |
 |
カバーの裏に
方位に関する守りの札を入れたんですよ。
『陰陽師』は全部で12巻あるんですが、
12巻のカバーの裏を方位順に並べ替えると
絵が完成するようになってるんです。 |
 |
凝った本だなぁ。 |
 |
実は、ソブエさんが、
いちばんくわしいかもしれないですね。 |
 |
忘れちゃってるんだけどもね。
すぐに記憶をなくしちゃうからね。
ふふふふふふ‥‥。 |
 |
これは、亀甲ですか? |
 |
 |
占いに使ったやつですよね? |
 |
古代は鹿の骨や亀の甲羅を焼き、
そのひび割れかたで吉凶を占っていました。
その際に使われた甲羅です。 |
 |
これは?
また牛だよ。 |
 |
 |
牛は方位や暦と関係あるんですか? |
 |
これは方位とはあんまり関係なくて、
どちらかというと山岳信仰のお札です。
修験の中で使用された
牛王宝印(ごおうほういん)のお札さんを
神道の信仰の中へ取り入れたようなかたちで。
あとはもう、いろんな信仰が
うにゃにゃーっとなっています。 |
 |
うにゃにゃーっと。 |
 |
はい。やっぱり我々は、
人が求めるいいものを取り入れて、
安心してもらえるような、
人に応えられるようなことを、やっていく。
神社というのはずっと
そういうかたちでやってきたんじゃないかなと
思うんです。 |
 |
神社というものは‥‥。 |
 |
 |
気運として、人びとに
いかに安心してもらえるか
ということだと思います。 |
 |
いろんな信じる心がありますけれども、
戦乱のときは八幡神社が増えたり、
厄災のあるときは
それを防いだりする神様になる、
ということもありますよね。 |
 |
はい。いかに対応していくかっちゅうことです。
これは日本独特といえば独特かもしれません。
ほかの国はやっぱり、
「うちが信仰してます神様はこれですよ」
という、絶対神がいたりしますから。 |
 |
なんで日本だけですか? |
 |
まぁ、日本だけじゃなく
ほかにもそういうことになってる場所が
あるんですけれども‥‥
もともとね、神道の古来の神様は
何かを排除するとか、
そういう神じゃなかったんですよ。
まぁ、それはある種の、
日本の文化だと思います。
外来のものを排除するんじゃなく
受け入れて、日本風にしてきた。
それは信仰だけじゃなくて、
美術とか、文化に対しても
そうだったりするんですよ。 |
 |
へぇえ。 |
 |
日本は世界の東の端にあります。
その先は広い海。
ですから、いろんなもんが最終的に
ここに集まってくるんです。
つまりここは、ものごとが到達するところ。 |
 |
そういう意味でいうと、
こちらの大将軍八神社は
ある種顕著な感じがするんです。
いろんなものが集まって
いろんなものが混交してる
とても象徴的な場所である、と。 |
|
(東の端のちいさな国。
その象徴のような神社に立って
なにやら、考えを深めようとする
一同でありました。つづく)
|