関係ないんだけどさぁ、 そこもとたちはさぁ、 歴史小説に出てくることばとかを 実際に使いたいと思ったことない? |
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は? |
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「日をあらためられよ」とかさぁ、 「いかがとりはからいましょう」とかさぁ。 |
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「ご内儀」とか「直参」とかは、 さらりと使ってみたいですね。 |
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「雨戸をほとほと叩く」 なんてのもいいですよ。 |
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‥‥またはじまった。 |
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‥‥黙ってやり過ごしましょう。 |
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これ、そこの商人。 |
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へい、なんでございましょう! |
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そのほうは、なんぞ、 使ってみたい歴史ことばなど、ないか? |
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めっそうもございません! 手前などは静岡産の商人なれば、 史書などたしなむ寸暇もなく、 算盤と原稿書きに明け暮れるばかりで、 夜討ち朝駆けで国事に奔走される 志士のお歴々をご満足させる言の葉など 一片も持ち合わせておりませぬ。 |
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‥‥めっちゃ、流暢。 |
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‥‥武井さんは小芝居のスイッチが入ると たいていの役はこなせますからね。 |
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‥‥見事でござる。 |
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いや、なんで突然、 そういうことを思ったかというとね、 「大徳川展」の展示品に添えられてる 解説を読んでたらさ、 しょっちゅう「召し上げる」っていう ことばが出てきてさ。 |
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「召し上げる」? |
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「この品は、誰々が、何々の褒美として、 誰々からもらったもので‥‥」 みたいな経緯がいろいろ書いてあって、 そんで、最終的に 「幕府が召し上げた」って書いてあるのよ。 |
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あー、そういう「召し上げた」ね。 |
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ようするに、「幕府が没収!」ってことを、 上品に書いてあるわけですね。 |
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そうそう。取りあげておいてさ、 正当化するどころか、あくまで上の立場から 「召し上げる」っていうのが すごいなぁと思ってさ。 |
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でもそれ、日常生活でどう使うの? |
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さんのお弁当のソーセージを ちゃんが「召し上げる」とか? |
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わはははははは。 |
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ありそう、ありそう。 |
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目に浮かぶわー。 |
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‥‥ハクション。 |
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明日あたり、やってみようかしら? |
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「このソーセージ、召し上げ〜!」 |
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「召し上げ〜!」 |
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「召し上げ〜!」 |
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‥‥ちょっと使い方が違うような。 |
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‥‥文字ではわかりづらいかと思いますが、 「どんだけ〜」風に発音しております。 |
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「卵焼きも、召し上げ〜!」 |
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「ぜんぶ、召し上げ〜!」 |
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「その都度、召し上げ〜!」 |
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‥‥ブルブルブル。 なんだろう‥‥急に悪寒が‥‥。 |
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さあ、いい加減、 展示内容の話に戻りましょうか。 |
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ほかになにがありましたかね? |
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もう、いっぱいありすぎて。 |
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秘蔵の至宝、300余点だからね。 |
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もうね、徳川ファンとしてはね、 あちらを見ても「葵のご紋」、 こちらを見ても「葵のご紋」で、 心底うっとりですよ。 |
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ああ、そうそう、 「葵のご紋」について、 思ったことがあるんです。 展示されてる品々を見てると、 あのご紋って、思いのほか、 自由にデザインされてたじゃないですか。 |
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ああ、そうでしたね。 |
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上下とかに、いかにも日本的な感じで 由緒正しく配置されてる場合もあるんだけど、 蒔絵とか調度品なんかには、 かなり自由に散らしてある。 あの自由な使い方って、もう、 ルイ・ヴィトンのモノグラムと おんなじじゃないかと。 |
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あーーー、なるほど! |
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ほんとだ。そうだ。 |
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様式というよりは、 職人のセンスで散らしてある。 場所も大きさもかなりランダムな感じで。 そのランダムさがね、ヴィトンっぽくて すごくかっこいいんですよ。 |
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うん、かっこよかったですね。 |
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象徴的な品でいうと、このあたり? |
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そうそう、これこれ‥‥ って言おうとしたけど、 これは‥‥あまりにも‥‥。 |
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ひどい。 |
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立体が描けないんですね。 |
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葵のご紋のひとつひとつが ムンクの「叫び」の顔に見えます。 |
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ひゃあ、それは怖い! |
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私も、言ってて怖くなった! 言うんじゃなかった! |
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ともかく、本物は、もっと重厚で かっこよくてステキなんです。 ここでの「葵のご紋」は、 家紋っていうよりも、 完全にブランドマークとして 使われてますよね。 |
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徳川ブランド。 |
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そうそう。 これ、ルイ・ヴィトンの人たちが見たら、 どう感じるのかなあ。 |
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品質の保証ではなくて、 権威の象徴としてのブランドなんですよね。 |
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そう思います。 だから、褒美としてとらせた品とか、 お嫁入りの道具とかに、 いちいち葵のご紋が入ってる。 |
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化粧箱とか、洗面器とかまで、 ぜ〜んぶ、入ってましたね。 |
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それがあるだけで、 もう、意味がぜんぜん違うんだろうね。 |
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それも、徳川幕府の 安泰があってこそなんですよね。 権力が永続的に見えるからこそ、 あのご紋がブランドとして威力を持つ。 |
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幕府のご威光でござる。 |
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だから、あの、序盤に出てきた、 碁盤があったじゃないですか。 |
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ああ、あった、あった。 家康と秀吉が碁を打ったという、 すごい存在感のある碁盤ね。 |
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あれも、ご褒美として 誰かに贈られたやつなんですけど、 まだ幕府ができて間もないころだからか、 葵のご紋は入ってないんですよ。 |
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あー、ブランド品扱いじゃないんだ。 |
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徳川ブランドがまだ浸透してないから? |
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そうじゃないかなあと思うんですよ。 |
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それよりは「秀吉と家康が使った」っていう 意味のほうがよっぽど価値があるんだね。 |
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しかも、あの碁盤って、 誰が見ても「これはすごい」って わかるじゃないですか。 |
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もう、パッと見で、すごかったもんね。 たしか、かやの木かなんかの 根っこを削ったとかって書いてあったね。 あれはたしかに、権威とか意味を超えて、 「いいものだなー!」って思った。 こっち側に家康がいて、 向こうが側に秀吉がいたんだろうなあって 誰しもが想像できるような。 |
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しかも、あれって、 いまでも打てそうなほど キレイでしたよねー。 |
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うん。家宝にしちゃうよ、あれは。 |
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その、すばらしい碁盤が、 こちらでござる。 |
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‥‥製作途中? |
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‥‥ひどい。 |
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‥‥立体物が描けないんですね。 |
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‥‥権威もへったくれもない。 |
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‥‥我々の力説を完全に裏切る出来映えです。 |
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‥‥家宝にしたくない。 |
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なれば、お手前方で お描きになるがよかろうっ!! |
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逆ギレ。 |
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逆ギレ。 |
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我らがイラスト描きにいそしむあいだ、 お手前方は、何をしたっ!! |
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あ、これは、『新選組!』の 香取慎吾さんのセリフが元ネタですね。 |
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おお、懐かしい。 |
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なにがなんやら、さっぱりです。 |
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面倒くさいんで、話変えますけど、 葵のご紋といえば、「印籠」ですよね! |
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ああ、展示されてましたね、 葵のご紋のついた印籠が。 |
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といっても、水戸光圀公が 使ってたわけじゃないでしょうけど。 |
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ていうか、水戸光圀公って、 諸国漫遊してなかったっていう話だよ。 |
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そうそうそう、そうらしい。 |
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あ、こないだ、タモリさんの 『ヒストリーX』で見ました。 |
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『風雲児たち』にも書いてあったような。 |
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そもそも印籠って、なんなんですか? 本来は、どういうときに使うもの? |
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薬を入れておくんじゃなかった? |
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そうです。丸薬などを入れておきます。 |
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旅に出るときとかにね。 街道にはマツキヨとかないからね。 |
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じゃ、ピルケース? |
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ピルケースにござりまする。 |
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えーー、じゃあ、黄門さまは、 ピルケースを見せびらかしてるんですか!! |
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いや、見せびらかしてるのは、 黄門さまじゃなくて 助さんか格さんですよ。 |
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そこじゃないでしょ、つっこむのは。 |
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見せているのは、葵のご紋。 家紋ってね、身分証明書がわりなのよ。 時代劇とかだと、下手人の持ち物に 「○○っていう家紋がついていた」 っていうだけで それが誰だかわかっちゃったりするわけ。 こないだ見た『暴れん坊将軍』でも そうだった。 |
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『暴れん坊将軍』まで見てるんだ? |
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マゲが結ってあればなんでも見ますよ。 |
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また脱線しそうなので早めに戻しますけど、 展示されてた印籠も、お宝でしたね。 それこそ、悪人がパッと見で 「本物だ!」ってわかるような。 |
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そういうことを言うから イラストが出しづらくなるじゃないですか。 |
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‥‥まあ、いいや。 ええと、なにを言いたかったんだっけな? ああ、そうそう、時代劇なんかで、 葵のご紋が 身分証明がわりになってるのを見ると、 「偽造したらどこにでも行けちゃうじゃん?」 って思ったりしてたんだけど、 あれは‥‥ムリだわ。つくれないわ。 |
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うん。つくるとなったら、 お金がかかりすぎるよ。 あれを偽造できるお金があったら べつに悪いことしなくてもいいでしょ。 |
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どこからどう見ても、 ひと目で「すごい!」って わかるデキだからね。 イラストのデキはひどいけどね。 |
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葵のご紋のついた印籠を 実際に見られる人も少なかったでしょうしね。 |
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あと、偽造を持ちかけても、 職人がビビるんじゃない? |
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「葵のご紋をマネするなんて、 とんでもない!」 ってことになるでしょうね。 |
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偽造品なんて、持ってるだけで打ち首ですよ。 |
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あなた、そのTシャツを着て、 そういうことを言いますか。 |
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え? ‥‥あ! ああ! |
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しかも、国連マークとの ダブルパロディになってるからね。 |
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あと、このほぼ日手帳も打ち首ものですね。 |
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うわぁ、葵のご紋がベタベタと重ね貼り‥‥。 |
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左のほうに、にょっきり出てる耳は、 ミッフィーちゃんですからね。 葵のご紋・オン・ザ・ミッフィー。 |
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打ち首だね。 |
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うん。 |
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神妙にいたせ。 |
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ひー、権現様、ごめーん! |
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(つ、続きます‥‥) |
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2007-11-23-FRI |