ちなみにさぁ、訊くけどさぁ、 そこもとたちは、どっち派? |
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は? |
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佐幕派? 尊皇派? あたしゃ断然、佐幕派なんだけど。 |
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ていうか、モギちゃんは 新選組が好きなだけでしょ。 |
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そうなんだけどさ。 で、どっち派? そこもとたちは? |
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佐幕か、尊皇かだけじゃなく、 攘夷なのか、開国なのかっていう 方向性もあるよね。 |
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で、どっち派? |
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好みでいえば、長州派なんだけど。 |
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あえて言うなら、佐久間象山派かなぁ。 |
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‥‥この人たちは何を言ってるんですか。 |
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しーーーっ。ここに絡むと、 また幕末ファンが幕末トークをはじめますよ。 |
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‥‥で、あやちゃんは、何派? |
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‥‥タ‥‥タッキー派。 |
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武井さんは? |
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‥‥お‥‥お肉なら、なんでも。 |
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さぁ、収拾がつかなくなったところで! |
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「大徳川展」についての 感激トークを続けていきましょう! |
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かたじけない。 |
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‥‥かといって、翼が嫌いなわけじゃない。 |
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‥‥豚も鶏も牛も、それぞれに美味い。 |
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豪華なものや、 いかついものも多かったですけど、 「かわいい!」っていうものも 意外に多かったですよね。 |
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多かった、多かった。 |
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オバサマたちが 「ステキね〜」「ステキね〜」って そこここで言ってたよ。 |
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言ってた、言ってた。 買い物に来たみたいだった。 |
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あ、じゃあ、忘れないうちに言っておきます。 かわいいもの好きの殿様を見つけましたよ。 |
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どなたでござるか? |
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ええとね、徳川義直さん。 「大名の書斎」みたいなコーナーがあって そこに、彼の集めた文房具が いろいろ展示されてたんですけど、 み〜んな、かわいいんですよ。 |
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ああ、あれ、かわいかったー。 筆洗いが鳩の形してたり、 筆置きが龍の形してたり、 文鎮が七宝焼きだったり。 |
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さぁ、モギちゃん、 かわいい文房具のイラストを。 |
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拙者、かわいさには自信がござらん。 |
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‥‥‥‥かわいくない。 |
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こりゃひどい。 |
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この企画、「大徳川展」のイメージを ずいぶん下げてるんじゃないですかね? |
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死んでお詫びを。 |
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介錯つかまつる。 |
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いちいち死ななくていいけどさ、 もうひとり、かわいい趣味の人がいてね、 ええと、あ、これだ、徳川宗春。 |
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あーーー、この人! 絶対、武井さんと趣味が合うよ。 |
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「趣味が合う」(笑)。 |
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ぼくもそう思う。 見てよ、この足袋! 水玉ですよ! |
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こちらでござるな。 |
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‥‥‥‥どなたか。 |
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介錯つかまつる。 |
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殿中でござる。 |
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職場でござる。 |
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イラストでは まったく伝わらないと思いますが、 これ、茶色い革に大小のドットが ランダムに散らしてあるんですよ。 こういうの、トリコ・コムデギャルソンに あったような気がするんだよなあ。 |
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そりゃ、武井さんと趣味が合うはずだわ。 |
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この人の持ち物って、 ほかのもみんなかわいいんだよ。 ほら、この火事装束なんて、どう? |
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派手ですねー。 |
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いちおう、イラスト出しますけど、 もう、いちいちつっこまないでね。 |
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これは、意外にがんばったんじゃない? |
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うん、まあまあ、雰囲気出てる。 |
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恐縮しごくにござりまする。 |
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この派手な火事装束を見て、 ぼくはぜんぜん違うことを思ってたんですけど ちょっとマジメな話していいですか。 |
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どうぞ、どうぞ。 |
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ひと言でいうと、 平和だったんだなって思ったんですよ。 そりゃあ、幕府も倒れるわっていうくらい、 なんていうか、いろんなものが 形骸化してたんだろうなっていう。 どういうことかっていうと、 これって、火事があったときに大名が着る、 非常時の格好だったわけじゃないですか。 |
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うん、そうですね。 |
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資料によれば、江戸城出火の際は、 これを着て馳せ参じることに なっていたらしいんですけど、 まさか殿様が火を消すわけじゃないだろうし、 こんなもの、実際の火事のときに 役に立つかというと立たないでしょう? |
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そもそも、現実的な格好じゃないというか、 実際に備えたものじゃない。 |
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見栄とか権威のためのものですね。 |
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そうそうそう。 江戸城に火の手が迫るわけがない、 みたいな安心感があればこそ、 火事装束も派手になるし、 足袋も水玉になるんじゃないかと。 |
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だってさ、関ヶ原のときは、 権現様もこんないかついものを 着てたわけだしね。 |
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‥‥‥‥誰ですか、このおじさんは。 |
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おじさんじゃなくて、具足! |
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愚息? |
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愚息じゃなくて、具足! |
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愚息はさておき、 関ヶ原のときは、現実問題だから、 将軍様が着るものだとしても こういう、機能のあるものとして つくられてるんですよ。 その点、宗春の火事装束とは危機感が違う。 |
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そっかー。じゃあ、ある意味、 この火事装束は平和の象徴というか。 |
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そうだねー。 |
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そういうときにこそ、 文化は成熟するわけだしね。 |
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そうそう。 |
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「かわいい」も「ステキ」も「派手」も 平和があればこそ。 |
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幕府のご威光のおかげでござる。 |
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でも、あのふたりの 「かわいいもの好き殿様」は、 生きていたら山下さんに 「かわいいもの好きの人々」で 取材してほしかったね。 |
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え?! |
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‥‥山下さん、お亡くなりになったんですか。 |
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さっきいましたよ。 |
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うん。お弁当食べてました。 |
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じゃなくて、「殿様が生きていたら」! |
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ああ、ああ、そっちか。びっくりした。 |
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生き霊が弁当を食ってたのかと思った。 |
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‥‥ハクション。 |
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かわいいものの話に戻りますけど、 やっぱり着物はすごかったですよ。 とくに、この、「紅・白・萌黄」! 配色、模様とも、きれいだったー。 あ〜、実物が見せられないのが残念! |
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こんなイラストでよろしければどうぞ。 |
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このイラストは妙に 完成度が高いじゃないですか。 |
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というか、ハンパに描けてて腹が立つぞ。 |
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コンピューターの機能をつかって 模様を重ねたりしたのです。 |
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邪道! |
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ひ〜〜ん、ヘタに描いても 上手に描いても怒られる! |
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まあ、でも、実際の着物は この、一万倍くらいすごいんですけどね。 |
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どうとでも言うがよかろう。 |
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あと、このカラフルな格子柄のやつとかね、 渋いところではこの白い羽織、 この紺の小袖もいいですよ。 |
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うわぁ、オシャレだねー。 なんていうか、現代的だよね。 |
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絶対にそのよさを伝えられませんが、 それがしのイラストをどうぞ。 |
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あと、ぼくがすごいと思ったのは、 大きなスペースに展示されてた 紫色の小袖なんですけど。 デザインがすごいと思いました。 |
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ああ、あれ、インパクトあった。 |
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うわぁ、すごいねー。 これ、デザイナー的に見ると、 どこがすごいんですか? |
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グラフィカルなんですよね。 シンメトリーじゃないのに ものすごく安定しているし、 落ち着いてるのに斬新だし。 |
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いちおう、イラストを。 |
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‥‥ぜひ、本物を見てもらいたいですね。 |
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‥‥なんか、真ん中ににょっきりと キリンの首が突き抜けているような。 |
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これね、本物はもっと枯れた色合いで、 たぶん、竹だと思うんですよね。 |
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おのおの方! 着物は再現がむずかしゅうござる! |
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もうひとつだけ、 着物の話をしていいですか。 |
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描きやすいのにしてね。 |
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ええとね、「ステキな着物」とは ぜんぜん違う話なんですけどね、 水戸の祭服っていうのが すごく興味深かったんですよ。 |
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あ、これね。 変わったデザインでしたよね。 |
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‥‥‥‥また、ずいぶん簡略化したな。 |
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胸のところの模様は、 二羽の鳳凰でござる。 心の目でたしかめられい。 |
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ムリでござる。 |
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鳥にすら、見えないわ。 |
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ええと、これは水戸光圀公の品ですね。 解説によると、水戸光圀公は、 仏式の葬祭を儒式のものにあらためたと。 |
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そうそうそう。 あのね、これは、ぼくの歴史のバイブルである 『風雲児たち』の受け売りなんですけど、 水戸藩というのは御三家でありながらも、 のちの尊皇思想の総本山となるところで、 天皇がいちばん偉いんだ、という考え方を 強く持っているところなんですね。 で、天皇がいちばん偉いとなると、 仏教というのがジャマになってくるんです。 天皇が仏様に参拝したりすると、 天皇よりお釈迦様のほうが偉くなって、 偉さの基準がよくわからなくなる。 |
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ふん、ふん。 |
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で、水戸の人たちはどうするかというと、 「じゃ、仏を壊しちゃえ!」 ということを言い出すわけですね。 |
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廃仏毀釈? |
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そうそう。 そうするとね、それまで続いていた 仏教の様式みたいなものって、 いったん全部なくなっちゃうじゃないですか。 |
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そうか。袈裟もなくなっちゃう。 |
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で、こういう祭服が つくられたと思うんですけど、 これ、すごく、手探りな感じがしません? |
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うん。明らかに違った文化だね。 |
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迷ってるというか、 「こうかな?」というような。 |
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そのあたりの、
思想と現実のギャップというか、 衝突してる感じがおもしろいなあと。 |
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そう見ると、おもしろいですねー。 |
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そのあたりの「衝突してる感じ」は、 この「大徳川展」の醍醐味ですね。 ほら、なんか、唐突に、 「モーゼの十戒」の和訳があったり、 地球儀があったり、望遠鏡があったりさ。 |
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入り交じってるおもしろさが あるんですよね。 |
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そうそうそう。 |
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武井殿、あやや殿! まさに、それこそが、 幕末のおもしろさでござる! |
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左様! 新と旧の衝突! |
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左様! 和と洋の折衷! |
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ああ‥‥しまった‥‥。 |
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火をつけちゃいましたね‥‥。 |
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保守と革新の混乱! |
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武士と皇族の確執! |
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中央と地方のギャップ! |
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い、いのっちと瀬戸朝香の結婚! |
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た、たまごと鶏肉で親子丼! |
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(つ、続きます‥‥) |
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2007-11-22-THU |