ほぼ日の塾から生まれたコンテンツ。
このコンテンツは、「ほぼ日の塾 実践編」で塾生の方が課題としてつくったコンテンツをデザインし直したものです。
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僕は恋愛が上手になりたい。
かつなり
21歳の僕、人生で初めての告白をする

中学、高校と片思いをして、
勝手に自分で失恋した。

でもそんな僕も大学に行けば
自然と彼女ができると思っていた。

なんとなく
「大学」=「友だちや女の子と遊び呆ける場所」
というイメージがあったからだ。

特に学びたいことも無かったけれど、
必死に受験勉強をして、
東京にある大学に入ることができた。

親にも先生にも友だちにも言ったことがないけど、
なんとなく東京の有名な大学に入れば
モテそうだと思ったから
死にものぐるいで勉強をしたのだ。

しかし入学してみると、
大学はある意味、中学、高校より
僕にとっては厳しい環境だった。
クラスのように最初から「一緒にいる人たち」が
用意されるわけではない大学では、
自分から人との関わりを作っていかなければ
ならないからだ。

僕はなかなか友だちを作ることができなかった。

野球サークルに入ったりしてみたものの
どうしても馴染めず、
すぐに幽霊部員になってしまった。
相変わらず野球は下手くそだったけれど
ゆるっとした雰囲気で野球をすることが
しっくりこなかったのだ。

いつのまにか大学の講義で仲良くなった
数人の友だち、あとは進学で上京してきた
同じ高校出身の友だち数人だけが
友だちと言える友だちになっていた。
1人でいる時間もすごく増えた。
仲良くしてくれている友だちには
すごく感謝しているけれど、
大都会に来て遊び呆ける大学生活を想像していたのに
すごい狭い世界でじっと生きているようだった。
もちろん女の子との関わりなんてなかった。

辛いことはないけど、楽しいこともあまりない。
なんだか感受性みたいなものが麻痺してしまった
ような毎日で、あっという間に2年半が
過ぎた。「何をしてたの?」と聞かれても
「週2、3日のアルバイトと‥‥
あとは特に何もしていません」
としか答えられないような2年半だ。
ときどき、あんなに辛くて嫌いだった
野球漬けの高校生活が愛おしくなった。

しかし大学3年生の秋にちょっとした
転機が訪れる。

Mさんという女性と友だちの紹介で知り合ったのだ。

「お前ずっと彼女いないでしょ? 
Mさんっていう俺の彼女の友だちが出会いを
求めてるらしいからさ、
そのつもりで1回、会ってみない?」
と友だちに誘われたのだ。
僕は彼に「まぁ別にいいよ〜」
なんて冷めた態度を気取って返事したけれど、
内心はその誘いにすごく前のめりだった。

なぜなら正直、僕は
「彼女がいる」
というステータスを必死に求めていたからだ。
「20歳の大学3年生なのに、
今まで彼女いたことなし、告白したこともなし」、
僕はそれを高校時代の男友だちからバカにされ続けていた。
「都会に出て、いい大学にも入ったのに、
彼女のひとつもつくれんのか!」と。
いや友だちは悪意があってバカにするというよりは、
その場を盛り上げる一環として
僕をそうやってイジってくれていたのだと思うし、
僕自身もそれを自虐にして笑いを取っていた。
けれど心のなかでは
「今まで彼女がいたことがない」、
その事実がコンプレックスとして
歳とともに肥大し続けていたのだ。
やっぱり彼女ができたことがないのは、
僕にとってすごく恥ずかしいことだった。

だからMさんと知り合ったときは、
どうにかしてこの子と付き合いたいなあと思った。
Mさんは客観的に見て、
おとなしくて可愛いらしい女性だった。
僕は2回、映画を観て夜ご飯を食べるデートを
しただけで、次会うときに告白をすることに決めた。
その2回のデートの感触は悪くなかったし、
とにかく彼女をつくりたくて焦っていたのである。

でも次のデートの約束をする前に、
さすがにしっかり1回考えた。
「Mさんが好き」というよりは
「『彼女がいる』というステータスが欲しい」
という浅ましい気持ちが強いことは
自分でも気づいている。
「お前、本当にそんな最低な気持ちで
告白していいのか!?」
と何度も自問自答した。

それでも僕は告白することに決めた。
「まあ今は好きじゃなくても、
告白して、もし付き合えたら、
そのうち好きになってくるんじゃないの?」
と甘い見立てをしたのだ。
それに高校時代に大好きだったKさんに
告白できなかった過去がある。
やらずに後悔より、やって後悔。
チャンスがあれば、あまり躊躇せず
どんどん掴みとろうとするべきなのだ。
だいたいお前は「純粋さ」みたいなものに
縛られすぎだ。バカ真面目すぎるのだ。
とにかくやってみろ。
そう自分に言い聞かせた。

そしてとうとう告白をする日がやってきた。
その日も新宿で映画を観て夜ごはんを食べる
ワンパターンなデートだ。
具体的にどうやって告白するかは決めていなくて、
夜ご飯から帰り道までのどこかで
告白できればいいと思っていた。

あっという間に時間は過ぎていき、
夜ご飯を食べ終わって、レストランの外に出て、
僕はがく然としていた。

「告白ってどんなタイミングで、
どんな場所で、どんな言葉ですればいいんだ!?」

正解がない問いだとは思うけれど、
自分なりの答えすら出てこなかった。
「いきなり会話をさえぎって告白し始めていいのだろうか、
それともやっぱりそれっぽいロマンチックな雰囲気に
なるのを待ったほうがいいのか、
いやそんなロマンチックな雰囲気なんて
俺には演出できないぞ、
じゃあどうしたら‥‥」、
そんなことをぐるぐる考えて、
心のなかでひどく焦ってしまった。

でもその日の僕にとって「告白」は
恋心を伝えることではなく、
絶対今日中にやらなきゃいけない課題、
夏休み最終日の夏休みの友みたいな存在に
なっていたから、
とにかく告白せずに今日は終えられないと思った。

そして結局、駅の改札に来てしまって、別れ際に

「あっ、あの‥‥Mちゃんのこと、
好きなんで付き合ってください」

と挙動不審になりながらボソッと告白した。
これが人生初の異性への告白だ。
緊張しすぎて、正直、あんまりそのときのことを
覚えていないのだが、
本当に僕は気味が悪くて情けない姿だったと思う。

でもMさんからいただいた返事は

「いいよ」

だった。

嬉しいというよりはホッとした。

その日、Mさんと別れたあとの帰りの電車のなかで
実感が湧いてきて、初めてできた彼女という存在に
期待で胸を膨らました。
いっぽうで心のなかにわだかまりみたいなものも
生まれていた。
「告白してOKしてもらったのに、
正直そこまで嬉しさはないし、
やっぱり好きじゃない人に告白するなんて
ダメだったんじゃないかなあ」、
そんな考えが頭から離れなかった。

そして案の定、ダメだった。
Mさんと付き合ってから、
逆に僕の苦悩の日々が始まるのである。

(つづきます)
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2016-09-28-WED