第7回
打席に立つこと。

西條
鎌倉投信って
投資先をすべて公開してるじゃないですか。

投資信託でトップになってやろう、
出し抜こうと思ってるなら、
そんなこと、絶対やらないですよね。
真似されちゃいますから。
糸井
それでも、1位になったんですよね?
新井
はい。

投資先をなぜ公開してるかというと、
「鎌倉投信が応援してるのなら、ぼくも」
と、他の投資家も
その会社に投資してくれるかもしれない。
糸井
ええ、そうですよね。
新井
それが、その会社の応援になりますから。

西条さんの「ふんばろう」も、
支援の仕組みづくりの「ノウハウ」を
公開してますよね。
西條
はい、その点は同じですね。
新井
わたしたちが鎌倉投信でやってることも
すごく単純なことです。

わたし自身がやっているのは
毎日毎日、
誰かに会うためにほっつき歩くことと
パソコンに向かうことだけ(笑)。
糸井
それを飽きずに、毎日毎日。
西條
毎日、何試合も出てますよね。
新井
出てますね(笑)。
糸井
いや、打席の数が、実力だと思うんです。

打席に立って、
毎回毎回、真剣にバットを振ってる人は、
どんどん上達しますよ。
西條
タスクを効率よくこなそうとして
擬人的な動きをする
シミュレーションロボットを使ったりとか
するじゃないですか。

でも、そのやり方だと
状況が急変したときに感づけないんです。
新井
打席に立ってないと、勘が鈍りますよね。

で、打席に立つことの有用性は
金融工学のロジック的にも言えるんです。
糸井
と、言いますと?
新井
ちょっと専門的になりますけど
投信の運用成績を評価する方法のひとつで
数値が大きいほど良い
インフォメーション・レシオ(IR)は、
「情報の係数かける頻度」で表されます。

その際、
「情報の係数」が高くなればなるほど
「インサイダー情報」になっていきますから
IRを上げたかったら、
頻度つまり投資回数を上げる必要がある。
糸井
つまり「打席数を増やす」ですね。
新井
だから、打席に立ち続けてるんです。
西條
鎌倉投信では、投資資金の何%を使って
投資先1社あたりの株式購入に
使っているかを示す
「株式組入比率」を
「1.7%以上にしない」と決めているのも、
人間の欲望に打ち勝つための、
すごい仕組みだなあって、思います。
新井
人間の欲望そのものは愚かですし
マーケットは化け物だから、
予測できないし、操作もできない。

だとすれば、わたしたちが
プロとしてできるのは
お客さまの財産をリスクから守ること、
つまり
「リスクを
 できるだけちいさくするルール」を
決めることなんです。
糸井
なるほど。
新井
投資には、複雑にしすぎて
「失敗し続けてきた歴史」があります。

ですから、わたしたちは
できるだけシンプルなものにしようと。
糸井
ええ。
新井
何だかうさんくさそう、
有象無象だというイメージのある金融に
これまで何の関心もなかった人たちに
「伝える」には、
「それなら
 わたしにだってできるかもしれない」
と思えるシンプルさがないと。
糸井
今おっしゃった
「それなら、
 わたしにだってできるかもしれない」
というお客さんは、
それまで
カウントされてこなかったお客さんで、
つまりは「新規顧客」ですよね。
新井
ええ。
糸井
有名なドラッカーの言葉を借りれば
「顧客の創造」ですけど
そのことを、これまでの投資会社では
あまりしてこなった、と。
新井
そうなんです。
糸井
ようするに「投資の素人は買わない」って、
思いすぎてたのかもしれないけど、
でも、素人こそが「新規顧客」ですものね。
新井
そうです。

で、鎌倉投信のお客さまの2割ていどは、
それまでに
投資なんかやったことない人です。
糸井
へぇー‥‥伝わっているんだ。
新井
それに、鎌倉投信のお客さまを見ていて
おもしろいなあと思うのは、
ホームページなどで公開している
「結い 2101」の投資先の株を、
すべて、ご自分で保有しているかたも
いらっしゃるんです。
糸井
ああ、その気持ちはわかります。
新井
なおかつ、
鎌倉投信の「結い 2101」も買ってる。
これなんかも
「打席に立つ」という話だと思います。
糸井
自分も関わってみたいという気持ちが
あるんでしょうね。
新井
そう思っていただけているとしたら
本当に、うれしいことですね。
<つづきます>
2015-06-30-TUE

シェアする

金融・投資信託の専門家・新井さんと
心理学・哲学の研究者・西條さん。
ふたりのプロの「わかりやすい」最新作。

鎌倉投信・新井和宏さんの
『投資は「きれいごと」で成功する』と、
西條剛央さんの『チームの力』
前者は「いい会社」に投資しながら
国内投信1位となった鎌倉投信のことを書き、
大きな話題を集めています。
また後者は
「『進撃の巨人』の巨人とは何か?」という
興味深い序章からはじまる、
西條さんらしい「チームのつくりかた論」。
(序章はこちらのページで試読できます)
新井さんは金融・投資信託の、
西條さんは心理学・哲学の専門家ですが、
どちらの本も平易な文章で書かれているので
専門知識のない人でも、おもしろく読めます。
ご興味のある方は、ぜひ。

新井和宏
『投資は「きれいごと」で成功する』
Amazonでのおもとめはこちら。

西條剛央
『チームの力』
Amazonでのおもとめはこちら。