金丸賀也(かねまる・かずや)

1959年、宮崎県生まれ。
1984年、東京芸術大学デザイン科卒業。
1984年、本局デザイナーとして日本放送協会(NHK)入社。
1987年、NHK退社。
1987年~2005年、個人事業主として美術品受注製作。
並行して音楽活動を行う。
ヨーロッパ3大ミュージックフェスティバル
「ロスキレミュージックフェスティバル」など
海外音楽フェスに多数出演。
1996年、美術作品制作で
SONYアートビジネスオーディションにて特別奨励賞受賞。
1998年、テレビ東京番組「たけしの誰でもピカソ」
アートバトルでグランドチャンピオン獲得。
2003年、歩く恐竜の構想を開始。
2005年、有限会社 ON-ART 設立。
2009年、東京都ベンチャー技術大賞特別賞受賞。
2012年、恐竜制作を評価され、東京都の推薦を受け、
経済産業省「ものづくり日本大賞」優秀賞受賞。
関東地方発明表彰にて中小企業長官賞受賞。
ON-ARTを株式会社化。

株式会社ON-ART

1990年、金丸賀也氏の個人事業として創業(壁画・造形制作)。
1990年代に商業施設や博物館等の
壁画・造形物・ジオラマなどを、多数制作する。
2000年、バルーンにエアブラシで描画するリアルバルーン開発。
2003年、歩く恐竜の開発構想開始。
2005年、有限会社ON-ART設立。歩く恐竜制作に着手。
2007年、歩く恐竜、デビュー。
2011年、歩く恐竜が新プロジェクト「DINO-A-LIVE」としてスタート。
2012年、株式会社ON-ART設立。

URL:http://www.on-art.jp

もしも恐竜が動いたら。

もしも恐竜が動いたら。

第1回 もしも恐竜が動いたら。2017/2/14 火曜日

──:
本当に食われるかと思いました。
金丸:
ありがとうございます。
それ、いちばんの褒め言葉です(笑)。
──:
何と言ったらいいのか、
あの大きくて凶暴そうな「生き物」を
目の前にしたときの感覚‥‥。
金丸:
ええ。
──:
あれほどのクオリティと迫力ですから、
「恐い」という感じも
もちろん、すごくあったんですが、
それ以上に、
何か別の感覚だったような気がします。

何せ、はじめて見る「生き物」ですし、
とにかく心臓がドキドキして。
金丸:
怖いことは怖いんだけど、
それ以上に、
自分たちの知識や経験では理解の及ばない、
不思議な存在だとは、よく言われます。
──:
ずっと昔に絶滅した「生き物」であると、
頭で理解していたものが、
目の前で「ギャオー」と吠えている‥‥。
金丸:
僕らも、いまだにアレに慣れませんから。
自分たちでつくってるにも関わらず。
──:
あ、そうですか。
金丸:
ええ、心の奥に慣れない何かがあります。

で、アレをつくった者としては
手前味噌なんですけど、
見るたび、何回見ても、嬉しいんです。
動き回ってる姿を見るだけで、
すごくドキドキして、心が動くんです。
──:
わかります、わけもなく興奮しますよね。

ひとつ、すごく意外なことに、
この恐竜、ものすごく軽いと聞きました。
金丸:
はい、最新の5号機は、
7メートルあるのに25キロしかないので、
むちゃくちゃ軽いです。
──:
でも、全然そう見えないどころか、
「まがまがしい生き物としての重量感」
を感じるところが、
クオリティの高さなんでしょうね。
金丸:
ここまで10年、かかりましたけど。
──:
10年。
金丸:
かかりましたねえ。
──:
10年前のファーストモデルは、
どのような感じ‥‥だったんでしょう。
金丸:
はじめの1頭から、ある程度、
見た目のリアリティは追求していましたが、
設計や素材、
動かし方なんかは、かなり進化しています。

最新型と比べると、
ほとんど「別もの」といってもいいくらい。
──:
その「進化させた部分」というのは、
ようするに、
よりリアルな方向へ持っていくために?
金丸:
はい、そのとおりです。

恐竜たちはライブイベントに出ていくので、
もっと具体的に言えば、
本番で故障しないようにすることと、
軽量化して、
より動きやすくすることの2点‥‥ですね。
──:
じゃ、初期のモデルは、重かった。
金丸:
ええ、1号機は、
全長5.5メーターくらいしかなかったのに、
35、6キロありましたから。
──:
10キロ落とすのに、10年。
金丸:
もうちょっと軽くできると思っています。

ただし、素材や重量、機動性については
進化させているんですけど、
それ以外の‥‥
たとえば歌ったり踊ったりとか、
「恐竜として、明らかにヘンなこと」は、
やらせないようにしています。
──:
できるんだけど、それは、やらない、と。
あくまで、
恐竜としてのリアルさを追求されている。
金丸:
「もしも、現代に恐竜が生きて動いたら、
 どんな感じだろう?」
というのを、コンセプトにしているので。
──:
僕たちのように、はじめて見た人が、
まず思うことって、
「どうやって、動かしているのかなあ?」
ということだと思うんです。
金丸:
ですよね。
──:
それは、その‥‥アレですか。ひみつ?
金丸:
ええ、詳しくは言えないんですが(笑)、
ザックリ言うと、
恐竜の中に人間が入っていて、
前後左右のモニターで周囲を確認しながら、
レバーとかハンドルとかを操作して、
ああいう動きを、実現しているんです。
──:
機動戦士ガンダムとか、
エヴァンゲリオンの操縦席みたいな‥‥。
金丸:
そんなにすごくはないですが(笑)、
実際「コクピット」って呼んでます。
──:
うわー、それは、座ってみたいです。

ちなみに、その恐竜の「コクピット」は、
「オリジナル」なんですか?
何かの機構を転用しているわけではなく。
金丸:
ええ、構造的には、
それほど難しいものではないんですが、
試行錯誤しながら、
自分たちで考えて組み上げたものです。

専門家としてロボットを設計している
友人なんかからは、
「設計図からは出てこない部分がある」
と、よく言われるんですが。
──:
それは、どういう意味ですか?
金丸:
自分は「メカのプロ」ではなく、
「ただのメカ好き」ってだけなんですけど、
ようするに
「ただのメカ好きが
 何年も何年も、当たって砕けろの精神で、
 試行錯誤し続けた設計には、
 われわれプロも、ちょっと、かなわない」
と言うことみたいで。
──:
プロは、納期まで含めてプロですけど、
「お好きな人」が、
何年も何年も粘り続けて出した答えは、
ちょっと、すごいぞと。
金丸:
はじめて入る人でも難しくないように、
簡単に操縦できる構造にしています。

とくに力も要らないので、
女性でも、ラクに動かせますよ。
──:
体力は、さほど必要でない、と。
金丸:
演技力は必要だと思いますけど。
──:
恐竜になりきる演技力が。なるほど。
金丸:
ですから、
僕らは「パイロット」と呼んでいるんですが、
コクピットに座る人は、
専門のプロダクションに外注して、
プロのアクターさんにお願いしているんです。
──:
首の動きが機敏だったり、
かなり激しく動いたりしていましたけど、
転んだりとか、しないんですか。
金丸:
操縦している人がプロだということに加えて、
構造上、床がフラットであれば、
バランス良く、
安定して立つことのできるつくりに
なっているんです。

だから、本番でコケたことは、ほぼないです。
──:
あの、金丸さんって、
もともと恐竜が好きだったんです‥‥か?
金丸:
いえ、そういうわけでもなかったんです。

動物全般が好きってことはありましたが、
それよりも、
この吹けば飛ぶような会社が、
ものづくりでビジネスをつかむためには、
どこにもないものを
つくり出さなきゃいけない‥‥と思って。
──:
恐竜を選び取った。
金丸:
そうです。あくまでビジネスの判断です。

世の中の人たちが、
動き出すのを待ち望んでいる生き物って
何だろう‥‥と考えたら、
おそらく「マンモス」じゃないだろうと。

そこは「やっぱり、恐竜だ!」と思って。
──:
でも‥‥ビジネスには、なったんですか?

そんな、
動く恐竜ができましたって言って、急に?
金丸:
最初の1頭が完成してから、
だいたい2年くらい注文はゼロでしたね。

自分たちとしても、つくったはいいけど、
どこに持ってっていいかもわからず、
営業なんかも、できてませんでしたから。
──:
では、はじめてのお仕事は?
金丸:
本当に本当の「はじめて」を言うならば、
西武ドームで、
子どもさん向けのイベントがありまして、
そこにチョロっと出たんです。

でも、それは本当に「チョロ」だったので、
実質的なデビューは、
「恐竜大陸」という恐竜の博覧会に、
毎週土日のべ20日間くらい出演したことです。
──:
いきなり、そんなにも長く。
金丸:
それも、デビューのデビューが
博覧会の開会式で、
200人くらいの恐竜専門家の前に立ちました。

恐竜博って、一般のお客さんだけじゃなく、
各国の恐竜研究者が集まる、
恐竜専門家の研究発表の場でもあるんですよ。
──:
じゃ、恐竜に超詳しい人たちを前に‥‥。
金丸:
寿命が縮まるかと思いました、ほんとに。
──:
専門家の先生たちの反応は?
金丸:
それが、すごくよろこんでくれましてね。

ケチョンケチョンに
けなされるだろうと思ってたんだけど。
──:
おおー。でも、専門家の先生にしても
恐竜が動いている場面なんて、
誰ひとり見たことないわけですものね。
金丸:
そうそう、まるで子どもみたいでした。

いい大人がケイタイカメラをかざして、
ウワーッと集まってきて‥‥。
──:
ちなみに「恐竜」を「ビジネス」として
意識的に選択したとのことですが、
たとえば、
恐竜の骨格などについては、
あるていどの知識って、あったんですか?
金丸:
あんまり、ありませんでしたね。

今でこそ監修をお願いしていますけど、
最初は誰にも頼れないので、
自分たちで勉強して、つくりました。
──:
勉強。
金丸:
恐竜博のときの1体目も、
専門家に監修してもらうお金もないし、
自分たちで、
恐竜の骨格を徹底的に調べて‥‥。
──:
メカの部分にも関わることでしょうが、
やはり「骨格」って大事ですか。
金丸:
まずは、骨格ですね。とにかく骨格。

復元骨格ってありますでしょ、
ああいうのから姿形を割り出しいって。
──:
ええ。
金丸:
でも、立ち上げ当初こそ、
自分らの想像だけでつくってましたが、
専門家の意見を入れたら、
一気に、恐竜の動きが良くなりました。

で、動きが良くなると、
そのぶん、「恐く」なってくるんです。
──:
本物っぽくなるから。
金丸:
そう、生き物としての「必然」に
近づいていく、という感じでしょうか。
──:
なるほど。
金丸:
恐竜が実際に動いているところなんて
誰も知らないし、
誰も見たことないわけですけど、
「この関節を支点にして」
とか
「この筋肉を引っ張ると」
とか、
長年、恐竜の研究をしてきた人の意見を
取り入れたら、
飛躍的に「恐く」なっていったんです。
──:
骨格って、生き物の動きを決定づける、
基本的な設計図ですものね。

それも、きっと、かなり合理的な。
金丸:
そう、専門的な知識のおかげで、
設計図が、理に適ったものになったんです。

で、理に適い出すと、急に「恐く」なって、
俄然リアリティが増してくる。
あれは、ほんとに、おもしろかったですね。
──:
たしかに、どれほど造形が完璧でも、
不自然な動きでは、冷めてたかもしれない。
金丸:
恐竜たちが「自然に」動くことで、
肉食恐竜が草食恐竜を追い詰めるときには、
こんな感じだったんじゃないかという‥‥。
──:
ええ。
金丸:
恐竜の「リアリティ」を、
より感じられるように、なってきたんです。
 
<つづきます>
(2017/2/14 火曜日)


HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN