- ──:
- パイロットが操縦する恐竜‥‥という、
モビルスーツみたいな、
たぶん誰もつくったことのないものを、
ビジネスの種にしよう思ったとき、
ストレートに
「じゃ、中に人を入れるか!」
という発想に、なったんでしょうか?
- 金丸:
- そうですね、恐竜は「ゆるキャラ」ならぬ
「ハードキャラ」ですけど(笑)、
発想としては、
最初から「中に人が入るイメージ」でした。
- ──:
- それって、ある意味「アナログ」ですよね。
今の技術を駆使すれば、もっと別の方法も、
ありそうな気もするのですが。
- 金丸:
- いやあ、僕らの小さい会社のリソースでは、
それしか選択肢はなかったです。
とくに、構想したのは10年以上前ですし。
- ──:
- ああ‥‥そうか。
- 金丸:
- 単純に「ロボット」っていうだけでも、
言うは易しで、
自分たちでつくるのは難しいです。
それに、
仮にロボットを開発できたとしても、
中に人が入って操縦する、
あの動きはたぶん無理だと思います。
- ──:
- ええ、そうですね、ロボットの動きとは、
まったく別物だと思いました。
「生身の運動神経」みたいなものを、
感じるというか。
- 金丸:
- そこは、すごく重要視している部分です。
- ──:
- では、人間が内部で操縦する仕組みを
設計することができれば、
「動く恐竜」をつくれると思った‥‥と?
- 金丸:
- そうです。ごく単純な思いつきです。
ただし、やりはじめてみたら、
当然、そんなに簡単にはいかなくて、
かなり試行錯誤しましたけど。
- ──:
- どんなところが、難しかったですか。
- 金丸:
- 恐竜らしいように見える動きの実現‥‥
という点が、
もちろんいちばん大きいんですが、
それ以外で言うと、
やはり、ふつうに「壊れる」んです。
金属製のパイプがボキッと折れたり、
グニューっとひん曲がったり、
いろんなところが、どんどん壊れる。
- ──:
- なるほど。
- 金丸:
- 大学でロボットを設計していたような
工学系の出でもないので、
「だいたい、これくらいでいいかな?」
という素人の見立てでやって、
強度不足でアッサリ折れるみたいな、
そんなことを、
ウンザリするほど繰り返してるんです。
折れちゃ直し、ひん曲がっちゃ直しで。
- ──:
- でも、そこでウンザリしっ放しでなく、
何度も、気を取り直して。
- 金丸:
- そう、とにかく「できるまで、やる」。
ロボットの専門家が
「必死こいて試行錯誤してる素人には、
ちょっとかなわない」
と言っていたのも、そこだと思います。
- ──:
- ちなみに「壊れる」という問題は、
たとえば
「動かない」など他の問題と比べると、
何でしょう、
どれくらい「厄介」なんでしょう?
- 金丸:
- もちろん、壊れたくはないんですけど、
仕組みが「壊れる」ことって、
実は悪いことじゃなく、すごく重要。
僕らの方法は「壊して直す」なんです。
さかさまに言えば、
絶対に壊れないようには、つくらない。
- ──:
- つまり‥‥。
- 金丸:
- 壊れることで、得るものがあるんです。
- ──:
- 壊れた部分に問題点が潜んでいる、と?
- 金丸:
- そういうことです。
壊れることで弱点が浮き彫りになって、
そこを修正していくことで、
経験値が蓄積されていくと言いますか。
- ──:
- なるほど。
肉を切らせて骨を断つ、みたいな戦法。
- 金丸:
- プロは、壊れないようにつくるんです。
そこがプロたるゆえんだと思いますが、
部品を設計してもらうと、
惚れ惚れするほど頑丈なんですけど、
重たすぎて‥‥
僕らの恐竜には、使うことができない。
- ──:
- しっかりした機械って重いですものね。
ドイツ製のカメラとか。
- 金丸:
- ものづくりのプロの場合、
ひとつの部品を少しでも長く保たせようって
発想ですから、
僕らのつくる部品より、
3倍も4倍も重たくなっちゃうんです。
で、そんなに重いと、
恐竜を動かせなくなってしまうんです。
- ──:
- 部品に対する考え方が、
まるっきり違う‥‥ということですね。
- 金丸:
- 僕らは、
部品をギリギリまで削り込むことで
全体を軽くして、
それらを組み立てて、動かして、で‥‥。
- ──:
- ええ。
- 金丸:
- 「壊れる」
- ──:
- はい。
- 金丸:
- そのサイクルを何度も繰り返すことで、
ちょっとずつ、
今の仕組みができあがってきたんです。
- ──:
- 「壊れる」までが、ひとつのサイクル。
- 金丸:
- やっぱり、必然的に壊れるんですよね。
でも、そこから構造の問題点がわかり、
必要なところだけ、
部品の厚みを少しだけ増したりするんです。
- ──:
- ええ。
- 金丸:
- そうすることで、
最小限の強度と最小限の重量を増すだけで、
望む効果を得られるようになります。
- ──:
- 金丸さんたちの恐竜の身体が、
贅肉のないスッキリ体型になっているのは、
見た目のことだけでなく、
そもそも、
そういう設計思想だからというわけですね。
- 金丸:
- ですから、強度の面から言えば、
動かす限界の「ちょっと上」くらいしか
ないと思います。
当然、回数を動かせば、ま、壊れますけど、
「10年持たせよう」じゃなく、
壊れたら交換すればいいと思っているので。
- ──:
- あの俊敏な動きを実現するためには、
仕方ないことだと。
- 金丸:
- 激しく動く恐竜の場合、
堅牢性は、キッパリ捨てなきゃダメです。
捨てると気持ちがサッパリします(笑)。
- ──:
- ものづくりにとって重要なはずの
「壊れない」を捨てることこそがキモだと
気づいたのは、いつごろでしたか。
- 金丸:
- 最近ですね。めちゃくちゃ。
- ──:
- あ、そうなんですか。
- 金丸:
- だって、やっぱり、悔しいじゃないですか。
ものづくりの人間としては、壊れたら。
その煩悩には、ずーっと囚われてましたし、
堅牢性を諦めるのって、
ものづくりの発想としてはありえないから。
真っ当な人間なら、頑丈につくります。
- ──:
- 逆に言えば、プロフェッショナルにしたら、
「中に人がひとりが入って操縦する、
機敏に動かせる恐竜」
などという、ふつうにつくったら、
部品だけで絶対に重たくなりそうなものは、
ハナからやろうと思わないのかも。
- 金丸:
- そう、それは、あるかもしれません。
「うまいことしたら動かせるかもしれない」
と思ったのは素人だからで、
プロとしての経験値があればあるほど
「そんなの重たくて、
中に人が入って動かせるわけあるかい!」
って、考えると思います。
- ──:
- ゆるキャラの中によく入る知人がいますが、
あれでも、だいぶしんどそうですし‥‥。
- 金丸:
- ええ、そうでしょうね(笑)。
- ──:
- 昭和のゴジラみたいな動きならまだしも、
こちらの恐竜は、ものすごい機敏ですし。
- 金丸:
- 単純に、無謀だったのかもしれないです。
あるいは、ボーっとしてたか(笑)。
- ──:
- そんな(笑)。
- 金丸:
- だから、正直なところ、
未だに僕らも、不思議な瞬間があるんです。
なんでこんなのが動いてるのかなあ、って。
- ──:
- 理屈ではわかっていても、ですか。
- 金丸:
- そう。
- ──:
- 映画の『ジュラシック・パーク』の場合は、
恐竜のアップのシーンでは、
等身大の模型を使っていたみたいですけど、
あれについては、どう思われてますか?
- 金丸:
- いやあ、すごくよくできてますし、
ご存知のように圧倒的な迫力があるので、
もちろん、すごく参考にしてます。
ただ、やっぱり、
まともな人たちのまともな仕事ですよね。
- ──:
- なるほど(笑)。
- 金丸:
- だって、見るからに重いじゃないですか。
そういうふうに考えて、そうつくったら、
そりゃあ重くなるよね、という代物。
- ──:
- そうなんですね。
- 金丸:
- 僕たちの技術力と資金力とでは、
到底つくれませんから、
ハリウッドってすごいところだなあとは、
思うんですけど。
- ──:
- 自分たちの恐竜をごらんになっていて、
どういうところに、ドキドキしますか。
- 金丸:
- 動き出す瞬間かなあ、やっぱり。
- ──:
- そうですか。
- 金丸:
- 動き出す瞬間が‥‥すごく、興奮します。
さっきも言いましたけど、
おまえは恐竜が好きなのかと聞かれたら、
まあ、そうでもないんです。
- ──:
- ええ。
- 金丸:
- 専門家の先生にはもちろん、
恐竜好きな人にも、知識では敵いません。
専門的な質問をされたら
きっとタジタジになっちゃいますから、
サッサと逃げちゃうほどです。
- ──:
- あはは、そうなんですね(笑)。
- 金丸:
- 何かマニアだと思われているみたいで‥‥。
- ──:
- それは‥‥無理もないと思います(笑)。
- 金丸:
- でも‥‥もっと「根っこ」の動機を言うと、
「ものづくり、お金にならないじゃん」
という現状を、どうにかしたかったんです。
- ──:
- なるほど。
- 金丸:
- 今って基本的に「厳しい時代」なんですよ。
ものづくりをしている人にとっては。
僕らも「恐竜」をやる以前には、
会社の仕事もどんどん減ってってましたし、
まわりの仲間も、だいぶやめちゃって。
- ──:
- ええ。
- 金丸:
- そんな状況で、座して死を待つくらいなら
「打って出てやろう」という気持ちで、
これをはじめた。
恐竜を本物みたいに動かして、
ものづくりに、注目してほしかったんです。
自分たちの技術があれば、
こんなヘンなものもつくれるんだぞーって、
巨大な名刺をつくる気持ちでした。
- ──:
- いや、絶対に忘れない名刺です。
- 金丸:
- これまで、動く恐竜が存在しなかったのは、
誰も「注文」しなかったからです。
だから僕らは、
自分で自分に注文を出したわけですけど、
「みんなが注文さえしてくれたら、
こーんな恐竜だって、つくれるんだよ」
ということを、
世間に知ってほしかったんです、たぶん。
-
- <つづきます>
(2017/2/15 水曜日)