もしも恐竜が動いたら。

もしも恐竜が動いたら。

第2回 壊れないと、良くならない。2017/2/15 水曜日

──:
パイロットが操縦する恐竜‥‥という、
モビルスーツみたいな、
たぶん誰もつくったことのないものを、
ビジネスの種にしよう思ったとき、
ストレートに
「じゃ、中に人を入れるか!」
という発想に、なったんでしょうか?
金丸:
そうですね、恐竜は「ゆるキャラ」ならぬ
「ハードキャラ」ですけど(笑)、
発想としては、
最初から「中に人が入るイメージ」でした。
──:
それって、ある意味「アナログ」ですよね。

今の技術を駆使すれば、もっと別の方法も、
ありそうな気もするのですが。
金丸:
いやあ、僕らの小さい会社のリソースでは、
それしか選択肢はなかったです。

とくに、構想したのは10年以上前ですし。
──:
ああ‥‥そうか。
金丸:
単純に「ロボット」っていうだけでも、
言うは易しで、
自分たちでつくるのは難しいです。

それに、
仮にロボットを開発できたとしても、
中に人が入って操縦する、
あの動きはたぶん無理だと思います。
──:
ええ、そうですね、ロボットの動きとは、
まったく別物だと思いました。

「生身の運動神経」みたいなものを、
感じるというか。
金丸:
そこは、すごく重要視している部分です。
──:
では、人間が内部で操縦する仕組みを
設計することができれば、
「動く恐竜」をつくれると思った‥‥と?
金丸:
そうです。ごく単純な思いつきです。

ただし、やりはじめてみたら、
当然、そんなに簡単にはいかなくて、
かなり試行錯誤しましたけど。
──:
どんなところが、難しかったですか。
金丸:
恐竜らしいように見える動きの実現‥‥
という点が、
もちろんいちばん大きいんですが、
それ以外で言うと、
やはり、ふつうに「壊れる」んです。

金属製のパイプがボキッと折れたり、
グニューっとひん曲がったり、
いろんなところが、どんどん壊れる。
──:
なるほど。
金丸:
大学でロボットを設計していたような
工学系の出でもないので、
「だいたい、これくらいでいいかな?」
という素人の見立てでやって、
強度不足でアッサリ折れるみたいな、
そんなことを、
ウンザリするほど繰り返してるんです。

折れちゃ直し、ひん曲がっちゃ直しで。
──:
でも、そこでウンザリしっ放しでなく、
何度も、気を取り直して。
金丸:
そう、とにかく「できるまで、やる」。

ロボットの専門家が
「必死こいて試行錯誤してる素人には、
 ちょっとかなわない」
と言っていたのも、そこだと思います。
──:
ちなみに「壊れる」という問題は、
たとえば
「動かない」など他の問題と比べると、
何でしょう、
どれくらい「厄介」なんでしょう?
金丸:
もちろん、壊れたくはないんですけど、
仕組みが「壊れる」ことって、
実は悪いことじゃなく、すごく重要。

僕らの方法は「壊して直す」なんです。
さかさまに言えば、
絶対に壊れないようには、つくらない。
──:
つまり‥‥。
金丸:
壊れることで、得るものがあるんです。
──:
壊れた部分に問題点が潜んでいる、と?
金丸:
そういうことです。

壊れることで弱点が浮き彫りになって、
そこを修正していくことで、
経験値が蓄積されていくと言いますか。
──:
なるほど。
肉を切らせて骨を断つ、みたいな戦法。
金丸:
プロは、壊れないようにつくるんです。

そこがプロたるゆえんだと思いますが、
部品を設計してもらうと、
惚れ惚れするほど頑丈なんですけど、
重たすぎて‥‥
僕らの恐竜には、使うことができない。
──:
しっかりした機械って重いですものね。
ドイツ製のカメラとか。
金丸:
ものづくりのプロの場合、
ひとつの部品を少しでも長く保たせようって
発想ですから、
僕らのつくる部品より、
3倍も4倍も重たくなっちゃうんです。

で、そんなに重いと、
恐竜を動かせなくなってしまうんです。
──:
部品に対する考え方が、
まるっきり違う‥‥ということですね。
金丸:
僕らは、
部品をギリギリまで削り込むことで
全体を軽くして、
それらを組み立てて、動かして、で‥‥。
──:
ええ。
金丸:
「壊れる」
──:
はい。
金丸:
そのサイクルを何度も繰り返すことで、
ちょっとずつ、
今の仕組みができあがってきたんです。
──:
「壊れる」までが、ひとつのサイクル。
金丸:
やっぱり、必然的に壊れるんですよね。

でも、そこから構造の問題点がわかり、
必要なところだけ、
部品の厚みを少しだけ増したりするんです。
──:
ええ。
金丸:
そうすることで、
最小限の強度と最小限の重量を増すだけで、
望む効果を得られるようになります。
──:
金丸さんたちの恐竜の身体が、
贅肉のないスッキリ体型になっているのは、
見た目のことだけでなく、
そもそも、
そういう設計思想だからというわけですね。
金丸:
ですから、強度の面から言えば、
動かす限界の「ちょっと上」くらいしか
ないと思います。

当然、回数を動かせば、ま、壊れますけど、
「10年持たせよう」じゃなく、
壊れたら交換すればいいと思っているので。
──:
あの俊敏な動きを実現するためには、
仕方ないことだと。
金丸:
激しく動く恐竜の場合、
堅牢性は、キッパリ捨てなきゃダメです。

捨てると気持ちがサッパリします(笑)。
──:
ものづくりにとって重要なはずの
「壊れない」を捨てることこそがキモだと
気づいたのは、いつごろでしたか。
金丸:
最近ですね。めちゃくちゃ。
──:
あ、そうなんですか。
金丸:
だって、やっぱり、悔しいじゃないですか。
ものづくりの人間としては、壊れたら。

その煩悩には、ずーっと囚われてましたし、
堅牢性を諦めるのって、
ものづくりの発想としてはありえないから。
真っ当な人間なら、頑丈につくります。
──:
逆に言えば、プロフェッショナルにしたら、
「中に人がひとりが入って操縦する、
 機敏に動かせる恐竜」
などという、ふつうにつくったら、
部品だけで絶対に重たくなりそうなものは、
ハナからやろうと思わないのかも。
金丸:
そう、それは、あるかもしれません。

「うまいことしたら動かせるかもしれない」
と思ったのは素人だからで、
プロとしての経験値があればあるほど
「そんなの重たくて、
 中に人が入って動かせるわけあるかい!」
って、考えると思います。
──:
ゆるキャラの中によく入る知人がいますが、
あれでも、だいぶしんどそうですし‥‥。
金丸:
ええ、そうでしょうね(笑)。
──:
昭和のゴジラみたいな動きならまだしも、
こちらの恐竜は、ものすごい機敏ですし。
金丸:
単純に、無謀だったのかもしれないです。
あるいは、ボーっとしてたか(笑)。
──:
そんな(笑)。
金丸:
だから、正直なところ、
未だに僕らも、不思議な瞬間があるんです。

なんでこんなのが動いてるのかなあ、って。
──:
理屈ではわかっていても、ですか。
金丸:
そう。
──:
映画の『ジュラシック・パーク』の場合は、
恐竜のアップのシーンでは、
等身大の模型を使っていたみたいですけど、
あれについては、どう思われてますか?
金丸:
いやあ、すごくよくできてますし、
ご存知のように圧倒的な迫力があるので、
もちろん、すごく参考にしてます。

ただ、やっぱり、
まともな人たちのまともな仕事ですよね。
──:
なるほど(笑)。
金丸:
だって、見るからに重いじゃないですか。

そういうふうに考えて、そうつくったら、
そりゃあ重くなるよね、という代物。
──:
そうなんですね。
金丸:
僕たちの技術力と資金力とでは、
到底つくれませんから、
ハリウッドってすごいところだなあとは、
思うんですけど。
──:
自分たちの恐竜をごらんになっていて、
どういうところに、ドキドキしますか。
金丸:
動き出す瞬間かなあ、やっぱり。
──:
そうですか。
金丸:
動き出す瞬間が‥‥すごく、興奮します。

さっきも言いましたけど、
おまえは恐竜が好きなのかと聞かれたら、
まあ、そうでもないんです。
──:
ええ。
金丸:
専門家の先生にはもちろん、
恐竜好きな人にも、知識では敵いません。

専門的な質問をされたら
きっとタジタジになっちゃいますから、
サッサと逃げちゃうほどです。
──:
あはは、そうなんですね(笑)。
金丸:
何かマニアだと思われているみたいで‥‥。
──:
それは‥‥無理もないと思います(笑)。
金丸:
でも‥‥もっと「根っこ」の動機を言うと、
「ものづくり、お金にならないじゃん」
という現状を、どうにかしたかったんです。
──:
なるほど。
金丸:
今って基本的に「厳しい時代」なんですよ。
ものづくりをしている人にとっては。

僕らも「恐竜」をやる以前には、
会社の仕事もどんどん減ってってましたし、
まわりの仲間も、だいぶやめちゃって。
──:
ええ。
金丸:
そんな状況で、座して死を待つくらいなら
「打って出てやろう」という気持ちで、
これをはじめた。
恐竜を本物みたいに動かして、
ものづくりに、注目してほしかったんです。

自分たちの技術があれば、
こんなヘンなものもつくれるんだぞーって、
巨大な名刺をつくる気持ちでした。
──:
いや、絶対に忘れない名刺です。
金丸:
これまで、動く恐竜が存在しなかったのは、
誰も「注文」しなかったからです。

だから僕らは、
自分で自分に注文を出したわけですけど、
「みんなが注文さえしてくれたら、
 こーんな恐竜だって、つくれるんだよ」
ということを、
世間に知ってほしかったんです、たぶん。
 
<つづきます>
(2017/2/15 水曜日)


HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN