第4回 50歳に思う。

糸井 中井さんは、いま、おいくつなんですか?
中井 今年で52になります。
糸井 50歳になったとき、
何か、感じることってありましたか。
中井 そうですね‥‥。

40歳になったときよりも、
「確実に、死に近づいたな」という感覚は
強くありました。

それ以降「夢の持ちかた」ひとつにしても
現実的になってきましたし。
糸井 見果てぬ夢は嫌だ‥‥と。
中井 はい、夢は持ち続けたいです。

でも、実現できるかどうかわからない夢より、
「必ずこうしたい」と思うようになって。
糸井 いわば「目的」に近くなるんですね。
中井 ええ、まさにそうです。
糸井 でも「あと、どれくらいだろう」
という感覚は、リアルになってきますよね。

そんなに「先の話」はできないんだけど
でも、同時に
「1000年生きる」とか言い出したりね。
中井 1000年?
糸井 いや、まあ、ぼくのことなんですけど(笑)。
中井 (笑)でも、この歳になってくると本当に
「自分の年齢」というものを
「人の死」で悟っていくような気がします。
糸井 うん。
中井 まず、親と別れる歳になってきていますね。

そして、自分がデビューしたときに
「おう、メシ行くぞ」
「芸能界とはな、芝居とはな‥‥」
そう教えてくれた先輩がたとの別れが来る。
糸井 うん、うん。
中井 そこさえも過ぎてしまうと、
今度は、友人たちとの別れがやってくる。

そうするともう、
自分の死を強く感じるようになります。
糸井 そう‥‥なんですよね。
中井 その昔、高校野球でプレーしているのは
「大きなお兄さん」でした。

でも、だんだん
「この人たち、同級生かあ」となり
いずれ
「ずいぶん年下の子たちがやってるな」
になっていきますから。
糸井 ええ。
中井 自分のまわりの変化が
自分に、歳を教えてくれる気がするんです。

死を感じながら死を見つめ直して、
人生を設計していく。
50とは、そういう歳のような気がします。
糸井 40歳に、その感覚はないですね。
中井 ないです。
糸井 40歳のときは厄年だとか騒ぎながら
ドタバタしてるうちに、過ぎちゃうんですよ。
中井 ええ、そうでした(笑)。
糸井 ぼくの場合、40歳から50歳の間に
いわば「借金の督促状」がいっぱい来た気がする。

「それまでやってきたことに」ついて
「あれ、どうなった?」って、言われてるような。

で、おもしろいのは、歳を取ってくると
どこからか「集団競技」になって来るんですよ。
中井 あ、なります。
糸井 そうですか。

役者さんの場合は、
「いい作品をつくりあげられた」という喜びが、
自分の芝居がうまくいった以上に、
うれしくなる‥‥とか?
中井 そうですね。

自分でシュートを決めるよりも、
どうやって
この作品を「勝たせるか」に意識がいく。

そのとき、
本物の俳優になれるような、気がします。
糸井 やっぱり「集団競技」になってくるんだ。
中井 以前、ぼくが主演男優賞をいただいたとき、
最優秀助演男優賞には
さっきの佐藤浩市さんが選ばれたんです。

で、そのことが、
自分のこと以上に、うれしかったんですよ。
糸井 ええ、ええ。
中井 で、最優秀作品賞が『壬生義士伝』でした。

そしたら、それが‥‥。
糸井 もっと、うれしかった?
中井 そう! えっ、こんなにうれしいものなの? 
作品賞って、本当に格別でしたね。
糸井 いま思うと、いちばん元気だったのは、
「30代」のころなんです。

でも、まだ、相手には認められにくい。
中井 ええ、なるほど。
糸井 どんなに人気者になっても、
結局、「使われてる」んですよね、まだ。
中井 30代のうちはね、なるほど。
糸井 ぼくも、若いころは
さぞかし忙しかったでしょうって
よく言われましたけど、
もう、その5倍は忙しいですね、いまのほうが。
中井 うん、そうじゃなきゃ。

最近、ぼくも
「お忙しいそうですねえ」と言われたら
「いえいえ」じゃなく
なるべく
「はい、そうですね。忙しいです」って
お返事するようにしてるんです。
糸井 へぇ‥‥。
中井 なぜなら、20代30代のころに
「これからの日本を背負っていくのは
 君たち若い世代だ!」って
さんざん言われてきたのに
いまになって
「忙しくしすぎじゃない?」などと言われても‥‥
という気持ちがあるんです(笑)。
糸井 なるほど。
中井 つまり、
「いま、一生懸命に仕事をやらなくて、
 いったい、いつやるんですか?」
糸井 そのときが来てるわけですものね。
中井 やっと、まがりなりにも
ぼくたちが「担える」時代が来ているのに
休んでちゃダメかな、と。
糸井 いや、本当にそう。
中井 男の勝負って、
50代から60代だと思ってたんです、ずっと。

そこまでの人生で、いかに貯えられるか。
糸井 うん、うん。
やっと「話が通る」ようになったんですものね。
中井 ようやく伸びていける歳になったんだから
ゆっくりしてる場合じゃないです。
糸井 何のために
20代、30代、40代を過ごしてきたんだ、と。
中井 そうですね。まだまだ、これからです(笑)。
糸井 そうですか‥‥いやあ、たのしかった。
今日は、ありがとうございました。
中井 いえいえ、こちらこそ。
給食、ごちそうさまでした。おいしかったです。
糸井 また来ていただければ。
中井 ‥‥ほんとに来ますよ?(笑)
糸井 どうぞどうぞ(笑)。

(おわります)

2013-05-22-WED

©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN