明るくて、負けずぎらい。  クルム伊達公子さんの、 ふつうは無理な道のり。

第3回 1番になれない悔しさ。

糸井 ただ打ってるだけでたのしかった時期も
やがて過ぎますよね。
たぶん、試合にも出るようになって。
伊達 そうですね。
糸井 そうすると、どうなるんですか。
伊達 試合に出るようになると、
だんだん、負けることが悔しくなって。
「勝ちたい」っていう気持ちに
変わっていくんです。
糸井 つまり、たのしさとかよろこびは、
試合に勝つことで得られることになるわけですか。
伊達 うーん‥‥でも、じつはわたし、
小さいころ、優勝したことがなかったんですよ。
糸井 え、そうなんですか。
伊達 いつも2番とか3番だったんです。
小学校のころは京都だったんですけど、
京都で2番、3番。
関西の大会に進めても、2番、3番。
全国大会だと、ベスト8、16どまり。
優勝して終わるっていうことが
ぜんぜんないタイプだったので、
いつも悔しかった。
糸井 そのとき伊達さんより上にいた人たちは
どうしてますか。
伊達 プロには、ならなかったですねぇ。
糸井 うーん、なんだろうね、それは。
伊達 小学生のとき1番だった人たちは、
だいたいみんな高校か大学までかなぁ‥‥
やっぱり、ピークが中学まで、
っていう感じでしたね。
糸井 うーん。
そのときトップで続かなかった人と、
2番、3番だったけど続いた伊達さんは
どういう違いがあるんでしょうね。
才能という意味では、
その人たちが上だったんですか。
伊達 うーん、これがまた、
テニスの世界の難しいところで。
バーンアウト(燃え尽きて意欲を失うこと)
っていうのもあるのかもしれないですけど、
若くしてトップを経験した選手で
ずっと成功してる人っていうのは少ないです。
糸井 そうなんですか。
あの、これはバレーボールの川合俊一さんが、
おっしゃってたことなんですけど、
川合選手には弟がいて、
小さいころから、なにをやらせても
弟さんのほうが自分よりうまかったんですって。
伊達 へぇー。
糸井 で、当然、バレーボールも
弟さんのほうがうまかったんだけど、
彼は、やめちゃうらしいんです。
つまり、なんでもできるし、
ものすごくうまいんだけど、
こんなもんだろうっていうところでやめちゃう。
バレーボールも、川合さんよりうまかったのにやめて、
サーフィンはじめちゃったり。
それはそれで、もちろんいいんですけどね。
一方、川合さんはなにをやっても
弟さんにはかなわなくて、
弟に追いつけるっていうだけで
うれしいぐらいだった。
で、そのまま続けて、ああなった。
「ぼくはほかに取り柄がなかったから
 ここまで来られたんですよ」って言うわけです。
伊達 はー、そうなんですか。
糸井 で、ぼくが
「オリンピックに出てるような人は
 そういうタイプの人が多いんですか?」
って訊いたら、
「どうもそんな気がするんです」って。
伊達 へぇー、あ、そうですか。
糸井 だから、バーンアウトっていう言い方もあるし、
本人がそれを早めに見切っちゃうっていうか、
よろこびを得られなくなっちゃうっていうことも
あるのかもしれないなと思って。
たぶん、ずっと2番でも、
続ける人と続けない人がいると思うんですよね。
伊達 そうですね。
糸井 だから、ずっと2番だった伊達さんが
続けられたのはなんでなんだろうと思って。
伊達 うーん、なんでなんだろう‥‥。
いや、強くなりたいとか、
そういう気持ちじゃなくて、
とにかく1番になれない悔しさでしたね。
1番が好きなのに、1番になれない悔しさ。
それだけでしたね、最初の頃は。
糸井 いっつも悔しいんですか。
伊達 うん。
1番の子がいつもうらやましかったですね。
で、なんで2番なんだろうと思って、
もう、毎回、大泣きして。
糸井 大泣きするんだ(笑)。
伊達 はい(笑)。
大泣きして、開き直るのも早いんですよ。
泣くだけ泣いて、また元気にテニスして。
糸井 なにをするっていうと、
もう、とにかく、テニスなんですね。
伊達 テニスでしたね。
5分でも時間があったらテニスしてました。
ひとりででも。
糸井 ひとりででも。
伊達 はい。
昔、ひとりで練習するための
ボールがあったんですよ。
こう、ボールに長いゴムがついてて、
それが水を入れるタンクにつながってて。
壁がなくてもひとりで練習できる、
っていうものなんですけど、
もう、ヒマさえあれば、それをやってました。
糸井 それは、たのしいんですか?
伊達 もう、それだけでも、たのしかったです。
糸井 はーーー(笑)。
伊達 で、ずっとやってると、
だんだん、力もついてきてるから、
普通のゴムだと、やっぱり弱くて、
打ってるうちにゴムが切れるんです。
で、ボールがビューンって遠くまで行って(笑)。
ひとりでボールを拾いに行って、
ゴムをこう結んで、また打って、って。
糸井 それがいくつぐらいのときですか。
伊達 小学生のときです。


(つづきます)

前へ 最新のページへ 次へ

2012-06-13-WED