糸井 |
ただ打ってるだけでたのしかった時期も
やがて過ぎますよね。
たぶん、試合にも出るようになって。
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伊達 |
そうですね。
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糸井 |
そうすると、どうなるんですか。
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伊達 |
試合に出るようになると、
だんだん、負けることが悔しくなって。
「勝ちたい」っていう気持ちに
変わっていくんです。
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糸井 |
つまり、たのしさとかよろこびは、
試合に勝つことで得られることになるわけですか。
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伊達 |
うーん‥‥でも、じつはわたし、
小さいころ、優勝したことがなかったんですよ。
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糸井 |
え、そうなんですか。
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伊達 |
いつも2番とか3番だったんです。
小学校のころは京都だったんですけど、
京都で2番、3番。
関西の大会に進めても、2番、3番。
全国大会だと、ベスト8、16どまり。
優勝して終わるっていうことが
ぜんぜんないタイプだったので、
いつも悔しかった。
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糸井 |
そのとき伊達さんより上にいた人たちは
どうしてますか。
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伊達 |
プロには、ならなかったですねぇ。
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糸井 |
うーん、なんだろうね、それは。
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伊達 |
小学生のとき1番だった人たちは、
だいたいみんな高校か大学までかなぁ‥‥
やっぱり、ピークが中学まで、
っていう感じでしたね。
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糸井 |
うーん。
そのときトップで続かなかった人と、
2番、3番だったけど続いた伊達さんは
どういう違いがあるんでしょうね。
才能という意味では、
その人たちが上だったんですか。
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伊達 |
うーん、これがまた、
テニスの世界の難しいところで。
バーンアウト(燃え尽きて意欲を失うこと)
っていうのもあるのかもしれないですけど、
若くしてトップを経験した選手で
ずっと成功してる人っていうのは少ないです。
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糸井 |
そうなんですか。
あの、これはバレーボールの川合俊一さんが、
おっしゃってたことなんですけど、
川合選手には弟がいて、
小さいころから、なにをやらせても
弟さんのほうが自分よりうまかったんですって。
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伊達 |
へぇー。
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糸井 |
で、当然、バレーボールも
弟さんのほうがうまかったんだけど、
彼は、やめちゃうらしいんです。
つまり、なんでもできるし、
ものすごくうまいんだけど、
こんなもんだろうっていうところでやめちゃう。
バレーボールも、川合さんよりうまかったのにやめて、
サーフィンはじめちゃったり。
それはそれで、もちろんいいんですけどね。
一方、川合さんはなにをやっても
弟さんにはかなわなくて、
弟に追いつけるっていうだけで
うれしいぐらいだった。
で、そのまま続けて、ああなった。
「ぼくはほかに取り柄がなかったから
ここまで来られたんですよ」って言うわけです。
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伊達 |
はー、そうなんですか。
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糸井 |
で、ぼくが
「オリンピックに出てるような人は
そういうタイプの人が多いんですか?」
って訊いたら、
「どうもそんな気がするんです」って。
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伊達 |
へぇー、あ、そうですか。
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糸井 |
だから、バーンアウトっていう言い方もあるし、
本人がそれを早めに見切っちゃうっていうか、
よろこびを得られなくなっちゃうっていうことも
あるのかもしれないなと思って。
たぶん、ずっと2番でも、
続ける人と続けない人がいると思うんですよね。
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伊達 |
そうですね。
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糸井 |
だから、ずっと2番だった伊達さんが
続けられたのはなんでなんだろうと思って。
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伊達 |
うーん、なんでなんだろう‥‥。
いや、強くなりたいとか、
そういう気持ちじゃなくて、
とにかく1番になれない悔しさでしたね。
1番が好きなのに、1番になれない悔しさ。
それだけでしたね、最初の頃は。
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糸井 |
いっつも悔しいんですか。
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伊達 |
うん。
1番の子がいつもうらやましかったですね。
で、なんで2番なんだろうと思って、
もう、毎回、大泣きして。
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糸井 |
大泣きするんだ(笑)。
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伊達 |
はい(笑)。
大泣きして、開き直るのも早いんですよ。
泣くだけ泣いて、また元気にテニスして。
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糸井 |
なにをするっていうと、
もう、とにかく、テニスなんですね。
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伊達 |
テニスでしたね。
5分でも時間があったらテニスしてました。
ひとりででも。
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糸井 |
ひとりででも。
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伊達 |
はい。
昔、ひとりで練習するための
ボールがあったんですよ。
こう、ボールに長いゴムがついてて、
それが水を入れるタンクにつながってて。
壁がなくてもひとりで練習できる、
っていうものなんですけど、
もう、ヒマさえあれば、それをやってました。
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糸井 |
それは、たのしいんですか?
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伊達 |
もう、それだけでも、たのしかったです。
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糸井 |
はーーー(笑)。
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伊達 |
で、ずっとやってると、
だんだん、力もついてきてるから、
普通のゴムだと、やっぱり弱くて、
打ってるうちにゴムが切れるんです。
で、ボールがビューンって遠くまで行って(笑)。
ひとりでボールを拾いに行って、
ゴムをこう結んで、また打って、って。
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糸井 |
それがいくつぐらいのときですか。
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伊達 |
小学生のときです。
(つづきます) |