明るくて、負けずぎらい。  クルム伊達公子さんの、 ふつうは無理な道のり。

ワンチャンスで流れが変わる。

糸井 ぼく、前にお会いしたとき、
伊達さんはこのまま指導者になるんだろうなと
思っていたんですよ。
伊達 そうですよねぇ(笑)。
糸井 ところが、現役に、
しかもそれもバリバリの現役として復帰された。
なんていうか、その、
「こういうシニアのやり方がありますよ」
っていうんじゃなくて、
ほんとうに「勝つ現役」になった。
伊達 はい(笑)。
糸井 ご自身としては、そういう可能性を
考えてたわけですか。
伊達 いや、ぜんぜん考えてなかったです。
糸井 ほんとですか。
伊達 ぜんぜん考えてなかったです。
糸井 まったく?
伊達 はい、まったく。
糸井 じゃ、もう、完全に、
後進の指導に当たろうと?
伊達 指導というか、まぁ、
子どもたちとのキッズテニスを通じて、
っていう方向で思ってましたね。
一時期はアカデミーをつくろうかと
考えたこともありましたし、
現役についてはまったく未練がなかったです。
復帰するなんて、
1パーセントも考えたことがなかったですね。
糸井 そういう状態から、
もう一度、はじめられるものなんですか。
伊達 いやー、無理ですね、ふつうは。
ふつうは無理です。
糸井 そうですよねぇ。
伊達 ふふふふ。
ふつうは、どう考えても無理です。
糸井 そうですよね。
それは、なんなんだろう。
伊達 たとえば、10代で頂点に立った選手が、
バーンアウトみたいな形でやめてしまって、
20代になってカムバックする、
というくらいならありえるかもしれないですが、
25歳での引退から、12年弱経ってる状況で、
40歳を目前にして戻ってくるなんて、
ふつう、常識的には、無理。
糸井 いや‥‥おっしゃるとおりですよ。
伊達 (笑)
糸井 まあ、競技によっては、
年をとってからも現役を維持できるものも
ありますけど、
テニスのトップリーグは
そういうものじゃないでしょう?
伊達 そうですね。
しかも、いまの女子のテニスは、
パワーテニス、スピードテニス、
と言われるような時代になってますので、
やっぱり、そこに戻るっていうのは
まあ、過酷でしたね。
糸井 過酷ですよねぇ。
伊達 でも、その意味でいえば、もともと
そこに戻るつもりだったわけではないので
過酷だとも思ってなかったですけど。
糸井 じゃあ、そのあたりを、
順番に教えてもらえますか。
これまでにもたくさん訊かれたとは思うんですが、
どういう順番でこうなったですか。
伊達 もともとは
エキジビションマッチのお話があったんです。
糸井 たしか、昔のチャンピオンとやりましょう、
っていう話だったんですよね。
伊達 はい。
ナブラチロワと、グラフと3人で。
糸井 そこがほんとにスタートなんですね。
伊達 はい。
で、それを受けるかどうかについても
大きな決心がいったんですよ。
糸井 エキシビションマッチに出るかどうかだけでも。
伊達 そうなんです。
なにしろ、テニスをまったくしてない日々だったので
エキジビションするためにも
トレーニングと練習が必要だったんですよ。
だから、まずそれを受けるか受けないか
っていうところで悩んで、
でも、やっぱり、ナブラチロワとグラフは、
わたしの小さいときからの
あこがれのふたりだったので
やっぱり、心を動かされて、受けようと。
糸井 ふたりとやれることが、
純粋にうれしく感じたんですね。
伊達 はい。
糸井 そこは、テニス少女になったんだ。
伊達 そうです。
そのふたりがいるんだから、
やってみたいなと思って。
糸井 やっぱりテニスが好きだな、
というような気持ちだったんですか。
伊達 あ、そのときはまだ、
「好き」っていうのは、なかったかもしれない。
糸井 え、じゃあ、そのときは、
もうほんとに宙ぶらりんなんですか。
伊達 はい。
糸井 ふーん。
そもそも、現役を引退したあと、
伊達さんとテニスの距離感っていうのは
どういう感じだったんですか?
伊達 なんか、ふつうな感じでしたね。
テニス、嫌いじゃないけど、みたいな。
でも、たとえば、ゴルフを好きな人が
毎週末ゴルフに行くような感覚は、
テニスに対して、まったくなかったですね。
糸井 じゃあ、エキシビションマッチに出るにしても
そうとうな決意ですね。
ある程度ハードな練習を
積まなければいけないわけですから。
伊達 決意でした。
その日だけぱっとコートに行って
エキシビションマッチだけやるって
いうわけにはいかないので。
糸井 そんなこと、できるわけないんですね。
伊達 できるわけないですし、
そういう性格でもないし。
糸井 なるほど(笑)。
伊達 ナブラチロワなんかは
つねにコンスタントにテニスをやってるんですね。
だから、エキシビションに向けて
あえて練習したり、トレーニングしたりしなくても
臨めると思うんですけど、
わたしは生活の中に
テニスがまったく入ってなかったので。
糸井 どのくらい、そんな状態だったんですか。
12年、ずっとやってなかった?
伊達 それに近い状態ですね。
もうほんとに、たまーに、
彼(夫のミハエル・クルムさん)とやるくらい。
彼のほうは逆にテニスにはまっていたので、
週末になると「テニスをやろう!」って言うから
わたしはいいからって言って部屋にいたりとか。
糸井 「わたしはいいから」(笑)。
おもしろいなぁ。
伊達 おかしいですよね(笑)。
だから、エキシビションに出るためには、
ほんとに、しっかりと、時間を確保して、
練習をしないと難しかった。
糸井 なるほど。それで?
伊達 練習をはじめました。
  (つづきます)

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2012-06-19-TUE