糸井 |
ナブラチロワと、グラフとの
エキシビションマッチに出るために、
まずは練習をはじめた。
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伊達 |
はい。
東京ではしっかりできるところがなかったので、
藤沢まで、毎日のように通いました。
でも、やっぱり思うようにいかない。
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糸井 |
そうですよね。
その、12年弱のブランクを埋めるために、
どのくらいの練習量が必要なんですか。
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伊達 |
どのくらいだったかなぁ‥‥。
とにかく最初は、
練習量を増やすこともできないんですよ。
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糸井 |
ああ、そうか、そうか。
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伊達 |
最初は、少しずつ、ゆっくりのペースで。
練習時間自体は、そのころもいまも、
そんなに変わらないんです。
2時間か、多くても3時間くらい。
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糸井 |
つまり、内容がだんだんハードになっていく。
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伊達 |
ハードになっていきますね。
おなじ2時間でも、内容が変わってくる。
そんな感じで、半年ぐらいかけてやりました。
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糸井 |
たいへんな決意ですね、やっぱり。
週末、旦那さんにテニスをやろうって誘われて
「わたしはいいわ」って言ってた人が、
半年間、藤沢に通ったんですね。
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伊達 |
はい。そうやっているうちに、
徐々に徐々に、慣れてきて。
それで、あるとき、現役の若い女子の選手と、
試合形式の練習をしてみたんですね。
ワンセットマッチの。
‥‥でも、勝てないんですよ。
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糸井 |
あー、そうなんですか。
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伊達 |
エキシビションマッチまでに、
けっきょく彼女と4回、試合をしたんですけど、
3回負けてるんです。
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糸井 |
逆にいうと、1回勝ってる。
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伊達 |
はい。最後は勝ったんですけど、
それって、エキシビションマッチの
1週間前のことだったんです。
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糸井 |
つまり、ぎりぎり間に合ったってこと?
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伊達 |
そう、ぎりぎりの、
もうラストチャンスっていうときに
やっと若い選手に勝ったんですよ。
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糸井 |
それは、うれしかった?
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伊達 |
うれしかったですね(笑)。
その、勝つまでの、3回負けてるときにも、
自分のなかで、
それこそさっきの話じゃないですけど、
「なにかひとつ噛み合えば」っていう感覚があって。
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糸井 |
ああ、自分の「流れ」が来る感覚が。
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伊達 |
そうです。
なにかがどこかで噛み合えば、
勝てる気配があると思ってたんですよ。
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糸井 |
おもしろーい。
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伊達 |
だけど、その噛み合うところまで、
行けそうで、なかなか行けない。
そんなふうに感じはじめたとき、
そういうことを考えている自分、
っていうのに気づいたんですね。
あれ? なんでそんなこと思ってるんだろう、と。
なんで勝つ必要があるんだろう、と(笑)。
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糸井 |
ああ(笑)。
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伊達 |
なにをそんなに一所懸命に
「勝つために」っていうことを
考えてるんだろうって。
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糸井 |
そういう自分に気づきはじめた。
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伊達 |
そうなんです。
だから、もう、なにか違うところに
走り出してしまっている。
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糸井 |
すでに。
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伊達 |
はい。
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糸井 |
はぁー。
それは、伊達さんの攻撃的な性格が
すごく影響してますよね、やっぱり。
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伊達 |
あると思いますね。
負けずぎらいだから。
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糸井 |
負けずぎらいだから(笑)。
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伊達 |
はい。
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糸井 |
つまり、エキシビションマッチだって
勝ちたい?
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伊達 |
エキシビションマッチ自体は、
勝ちたいというよりも、
やっぱりナブラチロワとグラフっていう
自分にとって大きい存在のふたりがいますから、
やっぱり恥ずかしいプレーはできないな
っていうのはありました。
彼女たちがどのくらいのレベルでプレーできるのか
っていうのがわからなかったこともあって、
なんか、彼女たちがすごくできるのに
わたしだけがついていけないっていうことなると
ふたりに対して失礼だし、
少なくとも自分は万全の準備をして、
攻めていかなくてはいけない
っていう思いはありましたね。
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糸井 |
マナーというか、
ちゃんとゲストを迎える状態になっていたい。
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伊達 |
はい。
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糸井 |
それが、最初の火をつけちゃったんですね。
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伊達 |
そうですねぇ。
エキジビションマッチが3月だったんですけど、
年末ぐらいから、なんとなく、自分が
そういうことを考えてることに気づきはじめて、
それで、夫のマイクといろんな話をして、
ちらっと言ってみたら、
マイクは、もう、「GO、GO!」でしたね。
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糸井 |
ああ、彼は、うれしかったんですね。
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伊達 |
もう、うれしかったみたいですね、すごく。
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糸井 |
いいなぁ(笑)。
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伊達 |
もう、ずっと言ってましたから、ほんとに。
テニスやれば、やれば、って、出会ったときから。
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糸井 |
はぁー。
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伊達 |
ぼくは見てみたい、って。
エキシビションマッチとかじゃなくって、
真剣にやってる公子が見たい、
って言ってたので。
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糸井 |
輝いてるあなたが見たい、っていうやつですよね。
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伊達 |
はははは。
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糸井 |
きっとね。
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伊達 |
うん(笑)。
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糸井 |
ああ、でも、
そういう旦那さんだったのは、
運命をすごくおもしろくしましたね。
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伊達 |
そうですね。
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糸井 |
そこで、
「それはどうかなぁ」なんて言われたらねぇ。
年齢のこととか、ブランクのこととか、
反対する理由ならいくらでも言えますもんね。
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伊達 |
そうですね。
でも、彼からは反対のことばは
一度もなかったですね。
ポジティブなことばしかなかったです。
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糸井 |
それは、旦那さんがうれしかっただけじゃなくて、
伊達さんもそっちのほうがうれしそうだ
っていうのが彼にわかったんじゃないかな。
両方が、それをよろこんでいた。違う?
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伊達 |
うーん(笑)。
まぁ、マイク自身がうれしいというか
それを肯定する気持ちやことばが、
わたしの奥底に眠ってた、
闘争心なのか、負けずぎらいな気持ちなのか、
なんかこう、気づいてしまった
「テニスをちょっとやってみたいな」
っていう気持ちをさらに引き出してくれた
というのはあると思います。
(つづきます) |