明るくて、負けずぎらい。  クルム伊達公子さんの、 ふつうは無理な道のり。

ワンチャンスで流れが変わる。

糸井 エキシビションマッチのために練習して、
勝ちたい気持ちに気がついて、
旦那さんにも後押しされて。
でも、いきなりトップレベルへ戻れるとは
思ってなかったわけでしょう。
伊達 まったく思ってないですね。
最初はほんとに、
全日本選手権に出るっていうことしか
頭になかったです。
糸井 伊達さんが全日本選手権に出るっていうのは、
その時点では、なんというか、
ちょっとめずらしい事件として
ニュースになってましたよね。
伊達 はい(笑)。
糸井 伊達がやるんだってよ、みたいなね。
伊達 まぁ、当然でしょうね。
全日本選手権に出るっていうだけでも
十分に無謀なことだったんですよ。
糸井 そうだよねぇ。
12年近くブランクがあるんだから。
伊達 はい。
それで、それだけやってないのに
いきなり全日本選手権で試合するっていうのも
ほんとに無謀だなと思って、
準備のために、国内で開催されている
国際大会に出ることにしたんです。
そしたら、最初の大会で準優勝してしまって。
糸井 もう、周囲は、どう思っていいか
わからないですよね、きっと。
伊達 うーん。
まぁ、インパクトが強かったですよね。
あまりにも、ドラマみたいで。
糸井 でも、ご自分では、
勝つつもりで出てるわけですよね。
伊達 いや、ないです。
糸井 あ、そうなんだ。
伊達 はい(笑)。
糸井 でも、それで、準優勝。
伊達 はい。
そのとき、4年前になりますけど、
最初の試合が岐阜で、あったんですね。
で、ランキングもなにもないですから、
当然ですけど、予選から出るわけです。
糸井 ああ、そうか。
伊達 予選の推薦枠をいただいて、1回戦から。
しかも、よりによってというか、
相手が地元の高校生だったんですよ。
糸井 あー、おもしろいですねぇ。
伊達 もう、なんか筋書きができてるんですよ。
なんで、よりによって、
地元の高校生とあたるのかなと思って。
わたしが37歳のときですから、
20歳くらい差があるんです。
糸井 マンガですね。
伊達 もう、ほんとに。
それで、いきなり相手に第1セットを取られて、
やっぱり難しいんだな、っていう空気が
コートのまわりに流れるわけです。
糸井 そこで決着してても、
誰も怒ったり、がっかりしたりしないだろうね。
伊達 ほんとに、そういう感じでした。
まぁ、たぶん、地元の高校生が
十何年ぶりに復帰した選手に勝って、
話題的にもすごくいいし、
筋書きとしてはばっちりだと。
糸井 「伊達さん、ありがとうございました」
みたいなね。
伊達 そういう感じだったんですけど、
まぁ、逆転勝ちすることができて。
糸井 はーー、恐ろしいね(笑)。
伊達 それで、予選も上がり、
本戦も勝ち、っていうかたちで、
ほんとにもう、毎日がドラマみたいでしたね。
糸井 気がついたら決勝戦。
ま、準優勝とはいえ、衝撃的ですよね。
メディアもちょっと困ったんじゃないかな。
伊達 いやもう、まさかの結果でしたから。
やっぱりそう甘くないぞ、っていうのが
ありがちな結果じゃないですか。
糸井 まぁ、負けても十分に「ご苦労様!」だし、
「あのファイトを讃えたい」
っていうことで成り立ちますよね。
ところが、いきなり準優勝(笑)。
伊達 しかも、復帰の会見のときに、
「いまの若い選手の刺激になれば」
なんて言っちゃったもんだから、
「刺激が強すぎる」とか言われたり。
糸井 ははははは。
伊達 逆に、この十何年の女子テニスは
なんだったんだ、とか言われたりもして、
そういうつもりはなかったんですけど。
糸井 うーん、なるほどなぁ。
なにしろ、ふつうは無理ですからねぇ。
その常識が破られるとは思わないですよね。
伊達 そうなんですよね。
糸井 しかも、今日、うかがったところ、
ご自分でも、予想してないわけだし。
伊達 いや、もう、
勝てないのが当たり前だと思ってたから、
ほんとにわたしも驚きの毎日でしたね。
とりあえず目標にしてた全日本の前に
いろんなことがあり過ぎて。
糸井 全日本選手権を迎えるときは、
考えも少しは変わってくるわけですか。
伊達 まぁ、復帰したときは、
最高にうまくいってベスト8くらいかな
と思ってたんですけど。
実際に全日本選手権に出るころには
やっぱり、優勝っていうことも
ある程度、目標になってきていて。
で、けっきょく、
シングルもダブルスも優勝できて。
糸井 うーん、困ったなぁ(笑)。
伊達 だから、もう、年末には、
戦う場所は世界、っていうふうに
考えるようになってました。
糸井 旦那さんはうれしかったでしょうねぇ。
伊達 ええ。世界でやる話をしたら、
「もちろん行くでしょ!」
みたいな感じでしたね。
糸井 そうだろうなぁ(笑)。


(つづきます)

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2012-06-21-THU