明るくて、負けずぎらい。  クルム伊達公子さんの、 ふつうは無理な道のり。

ワンチャンスで流れが変わる。

糸井 世界を相手に戦うとなると、
いよいよ自分のモードというか
生活を変えていかなきゃならないですよね。
伊達 そうですね。
やっぱり、引退する前とは
世界のレベルも上がってるし、
生半可な気持ちじゃ勝てないっていうのは、
わかってましたから。
まして、時代は「パワーテニス」、
「スピードテニス」なので、
そうとう厳しいだろうなっていう覚悟は
もちろんありましたね。
糸井 かつて世界のトップレベルに
触れたことがあるだけに
その場所の恐ろしさはわかってるし、
そこがさらにパワーアップしてることも。
伊達 はい、わかってました。
糸井 で、年齢もブランクもあるわけですよね。
ふつうに考えたら、
「どうしてそんな厳しい場所へ」
っていう気もしますけど。
伊達 まぁ、そうですね。
ただ、全日本選手権に出て、単複と優勝すると、
ランキングが上がっていきますから、
自分の名前が自然と世界の大会の予選に
引っかかる位置に入ってくるんです。
糸井 ああ、なるほど。
伊達 あと、いまの時代のパワーテニス、
スピードテニスというものに対して、
興味のようなものもありましたし。
糸井 へぇー(笑)。
伊達 もちろん、簡単に勝てるとは思わないですけど、
やっぱり解説者の席から見るのと
実際にコートに立つっていうのは
ぜんぜん違うだろうから、そのへんが、
「どんなもんなのかな?」っていう。
糸井 興味があるんだ。すごいなぁ、それは。
選手としての強いものへの
あこがれみたいなものと、
ひとりのテニス好きとしての興味が
重なっちゃったわけですね。
伊達 そうですね。
糸井 で、どうでしたか。
「いまはパワーテニスの時代ですから」って
解説してたときと比べると。
伊達 いやー、想像以上でしたね。
想像以上に、やっぱりすごい。
糸井 やっぱり、違うんですね。
伊達 はい。パワーも、スピードも。
糸井 たしかに十何年前といまでは、
なんていうんでしょう、
選手の体格からして違いますよね。
伊達 そうですね。
いまのツアーと、90年代のツアーを比べると、
いちばん大きな違いというのは、
大きな大会の会場には、ほぼかならず
トレーニングジムが設置されていることなんです。
それだけみんな、ジムを使う頻度が高いんですね。
朝7時くらいに行っても、すごく混んでるんです。
糸井 パワーの時代なんですね。
伊達さんは?
伊達 わたしはあんまり
ウエイトトレーニングはしなくて、
コンディショニングトレーニングが中心ですね。
いまは、いかに疲労を溜めずに維持するか
ってことに必死ですね。
やっぱり、いまの年齢で、
ある程度の数の試合をこなしながら、
強化するっていうのは難しいので。
糸井 疲労を溜めないっていうことに関しては、
そういうトレーニングというか
メソッドが開発されてるものなんですか。
伊達 メソッドというほどたしかではないですけど、
やっぱり、バランスですね。
時間と試合とのバランスを見て、
多少刺激を入れるときと、抜くときと。
あとは、ドリンクの力を借りたり。
糸井 そうやってしっかり管理をやっていけば、
できることが増えていく。
伊達 そうですね。
やっぱりそういうトレーニングとか道具が
ずいぶん進化してきてますし、
フィジカル的な理論なんかも
どんどん変わってきているので。
たとえばむかしは止まった状態で
ストレッチするのがいいっていわれてたんですけど、
いまは、アクティブストレッチっていって、
動きながらストレッチするほうが
いいっていわれてたり。
時代とともにいろんなトレーニングも
変わってきているので。
糸井 ああ、なるほど。
しかも効果が自分で体感できるんじゃないですか。
たぶん、若いころよりは、体が強くないですから、
理屈が合ってるかどうか、すぐに実感できるというか。
伊達 そうですね。
やり過ぎると壊れるし、
やらなさ過ぎるとついていけない。
そのバランスが、やっぱり難しい。
糸井 伊達さんにとって、世界と戦うというのは、
そういうこととの戦いでもある。
伊達 そのとおりです。
ほんとに難しいんですけどね。
そこの壁にいつもぶち当たってますけれども。
なんとか、まぁ、大怪我はせず。
糸井 きちんと続けてらっしゃいますもんね。
無責任な言い方になりますけど、
あの、たのしそうに見えますよ。
伊達 (笑)
糸井 「あなたもう来なくていいよ」って
いつかは言われるときが来るのかもしれませんが、
いまはぜんぜんそういう感じじゃないですよね。
伊達 あ、でも、テニスの世界ってラッキーなことに
「あなた来なくていいよ」
っていう人がいないんですよ。
決めるのは、いつも自分自身なんです。
糸井 あっ、そうなんですか!
伊達 そうなんです。
いちばんはランキングのどこに自分がいるか。
ランキングってことは、
もう自分自身なんですよね。
糸井 そうか、そうか。
伊達 自分が勝ってランキングに入ってたら、
極端な話、たとえ50歳でも60歳でも、
ずっとやり続けられるわけです。
チームスポーツじゃなくて個人スポーツなので、
監督が選んでくれないとか、
チームの構想から外れるとか、
そういうことがないんです。
糸井 そうかー。つくづく、「個人」なんですね。
伊達 そうなんですよ。
だから、いまのわたしが成り立ってる
ともいえるんです。
「やりたい」って言って、
結果さえ残してれば、戦える場所はあるんですよ。
これがサッカーとか野球だったら
監督が選んでくれないと戦えないじゃないですか。
糸井 それはすごく大きな違いですね。
伊達 はい。
ほんとに個人スポーツなんですよね。
テニスっていうスポーツは。


(つづきます)

前へ 最新のページへ 次へ

2012-06-22-FRI