木村くんは、そういうとこあるよね。 木村くんは、そういうとこあるよね。
木村拓哉さんと糸井重里は、
かなり以前から、もう、25年くらい前から
おつき合いがあるのです。
じつは創刊当初のほぼ日のオフィスにも
ときどきこっそり遊びに来ていたり。
そんなふたりが、久しぶりに会いました。

木村拓哉さんがMCを務める
ラジオ番組「Flow」のマンスリーゲストに
糸井が呼ばれたのです。
久々に会っても自然体なふたりが
たっぷり話した約2時間。
放送されなかったトークも含めて、
だいたいぜんぶを文字にしました。
第4回 プロの仕事になるからつまんない。
木村
糸井重里さんはどんな仕事をしてるんですか、
っていうのをリスナーのみんなに伝えるとしたら、
やっぱり、コピーライターじゃないですか。
糸井
もういまはコピーライターの仕事はしてないけどね。
木村
そうなんですか。
糸井
ほぼ日刊イトイ新聞のためにやることだけで、
コピーライター的な仕事はしても、
それは、じぶんのところのもの。
木村
そうなんですね。
で、その、コピーを考えるときに、
ことばって、やっぱり、
どう組み合わせてもいいじゃないですか。
それ変じゃん、っていうものも、
いや、おもしろいじゃん、っていうのも、
ぜんぶひっくるめて自由で、
もう、無限な選択肢の中から
選んでいくんだろうと思うんですけど、
糸井さんはいつもどういうチョイス、
どういう選択をするんですか?
糸井
ことばを選択してるんじゃなくて、
「何を感じるか」がまず先なんです。
そしてそのつぎは、
感じたことから、「何かを思うか」。
で、「思う」のつぎは、
今度はじぶんの引き出しの中にある
さまざまなものをぶつけてみる。
そこで「考える」になるわけです。
だから、まず「感じる」。そして「思う」。
で、それについて「考える」。
写真
木村
なるほど。
糸井
そこでことばやコピーが生まれたとしたら、
今後はそれが、どう見えるかな、っていうのを
しばらくたしかめるんです。
イメージとしていうと、
ポスターにそのことばを書いて
頭の中に貼ってみるわけ。
観念のうえでだけどね。
木村
はい。
糸井
そうすると、頭の中にいる通行人が、それを見て、
いいねって言ったりとか、無視したりとか、
なんとなく反応してくれる。
で、しばらく頭の中の貼り紙を放っておいて、
ああ、ウケたみたいだな、ってなったら、
それが答えになるわけ。
木村
へぇーーー。
糸井
仕事でやるときは、
そういう順序をだいたい踏んでるかな。
ただ、お金もらって仕事になったときは、
純粋に思う気持ちだけじゃなくて、
「これが相手によく伝わりますように」とか、
「決済する人がいいって言うだろうか」とか、
ちょっといろんな要素が加わるんですよ。
木村
ああ、なるほど。
糸井
それがちょっとつまんなくなってきたので、
広告を仕事にすることはやめちゃったんです。
仕事じゃなくて、自由にやれることは、
もう、思ったらすぐ表現しちゃえばいいので。
だから、たとえば木村くんのことで、
なにかいいことを思ったとしたら、
ただそれを書けばいいわけだよね。
そのほうが、ぼくがほんとに思ったことだから。
木村
うん、うん、うん。
糸井
でも、じゃあ今度、木村拓哉について、
このポスターでひとつお願いします、
みたいになったら、やっぱり、
プロの仕事になっちゃうから。
ちょっとつまんないんですよ。
木村
「プロの仕事になるからつまんない」(笑)
糸井
生意気な言い方だけど。
だから、いまは広告の仕事をしてない。
木村
でも、やってないわけじゃないというか、
スポーツ選手が現役を引退することとは
違うじゃないですか。
糸井
違いますね。
やってたことはいまの仕事に活きてるからね。
だから、誰かのためにやりたくないんだよ。
こころから木村くんの手伝いをしたい、
って思ったときに、
「これができたよ!」っていうのは、
最高にうれしいわけよ。
木村
ああ、なるほど。
糸井
でも、木村拓哉事務所みたいなところが、
これだけ予算があります、締め切りはいつです、
お願いします、って言ってくるとしたら、
いや、そういうのもうやめたから、みたいな(笑)。
木村
はー、すごくないっすか(笑)。
じぶんの仕事を、じぶんの中で、
「いや、もう俺そういうのやってないんで」
っていう今現在。
御年、今年で71歳の先輩なんですけど。
糸井
(笑)
写真
木村
そんな先輩のお仕事の代表作としては、
以前、西武百貨店のコピーで、
「不思議大好き。」とか、
あと、ぼくがすごく憶えてるのは、
井上陽水さんがCMをやってた
日産セフィーロの「くうねるあそぶ。」。
なんだこれ? って思うんだけど、
なんだこれ? って思ったぶん、
じぶんの中に残ってるんですよね、ことばが。
そういうのはすっごい憶えてますね。
糸井
あー、ありがとうね。
木村
あと、スタジオジブリさんの作品に関しては、
もうたいてい糸井さんですよね。
糸井
そうですね。
木村
それこそ『ハウルの動く城』
(木村さんがメインキャストの声を担当)の
「ふたりが暮らした。」っていうのも糸井さんですし。
あと、こうやってラジオで糸井さんの声を聞きながら、
「どっかで聞いた声だな?」って
思ってる人も多いと思うんですけど、
『となりのトトロ』のお父さんですからね。
糸井
そう。
「草壁でーす!」
木村
(笑)
糸井
これね、地方とか行ってね、
幼稚園の子の前とかでやるとね、ウケるんだよ。
木村
あ、ほんとですか。
糸井
うん。
「草壁でーす、引っ越して来ました!」
って言うと、うわぁーってよろこばれる。
木村
おー、いいなぁ(笑)。
糸井
あと、おばちゃんに囲まれて、
「ええと、このひと、ほら‥‥」とか言われたら、
「はい、樋口可南子の旦那です」とか、
自分から言っちゃう。
そういうの、どんどん平気になるね。
木村
はーー、そういうの、俺、
あんまりうまくできないんですよね。
糸井
だよねぇ(笑)。
木村くんは、もうすごくなり過ぎちゃったんだよ。
木村
そんなことないっす。
そんなことないっす。
糸井
だって、もう、
「木村くん」って呼ばれないでしょ?
木村
うーん‥‥。
いや、でも、あることはありますよ。
糸井
ああ、そうか、
若いときから知ってる人たちは、
ずっと「木村くん」だよね、きっとね。
木村
はい。あと、「拓哉」ですね。
糸井
あー、そっかそっか。
でも、なんだろう、
木村くんをそう言ってからかっていい場所に
まだぼくなんかはいられるから、
そういう人がいるかぎりは、
そんなふうにいくらでも遊べますね。
木村
もう、逆にそういう遊びを、久々にしたいな、
っていう気もありますね。
糸井
あなたそういうとこあるよね。
木村
そういうとこあります。
糸井
ありますよね。
(つづきます!)
2019-09-04-WED