木村拓哉さんと糸井重里は、
かなり以前から、もう、25年くらい前から
おつき合いがあるのです。
じつは創刊当初のほぼ日のオフィスにも
ときどきこっそり遊びに来ていたり。
そんなふたりが、久しぶりに会いました。
木村拓哉さんがMCを務める
ラジオ番組「Flow」のマンスリーゲストに
糸井が呼ばれたのです。
久々に会っても自然体なふたりが
たっぷり話した約2時間。
放送されなかったトークも含めて、
だいたいぜんぶを文字にしました。
- 木村
- リスナーから届いてるメッセージにも
つき合ってもらっていいですか。
- 糸井
- ぜんぜんつき合いますよ。
- 木村
- 沖縄県のななちゃん。18歳。
- 糸井
- うちのマネージャーも、ななちゃん。
- 木村
- 違います。
- 糸井
- 別のななちゃん。
- 木村
- 沖縄のななちゃんです。18歳です。
- 糸井
- はい。
- 木村
- 「相談したいことがあります。
この春、大学生になり、
急にじぶんを成長させたいと思いはじめ、
海外に留学に行きたいと思いはじめました。
でも、英語もしゃべれないし、
はじめての海外なので、怖いです。
それでも人生一度きりなので、
後悔はしたくないと思っていますが、
なかなか一歩踏み出せません。
こういうときどうやって
じぶんを奮い立たせていますか」
‥‥というメール来てますけども。
- 糸井
- 木村くんは、こういう場合、なんて言うの?
奮い立たせる方法を語るの?
- 木村
- いや、えーっと、なんだろう。
まぁ、まず、人生一度きりなので、
18歳のななちゃんが羨ましいなぁっていう。
いまぼくがこのメールを読んで
一番最初に思ったのはそういうことですね。
- 糸井
- はあ、なるほどね。
- 木村
- でも、奮い立たせるというか、
「覚悟」の話ですよね、なんにしても。
- 糸井
- うん、うん。
- 木村
- とにかくいま
「自分を成長させたい」っていうふうに
彼女は思ってるんですよ、18歳で。
- 糸井
- 海外に行くお金はどうするんだろうね。
- 木村
- うわ(笑)、リアルー。急にリアルな。
- 糸井
- ぼくの立場は、やっぱり親だからさ。
あ、親じゃない、もう孫とかの年齢だね。
- 木村
- でも、そういう考えも必要ですよね。
- 糸井
- うん。
つまり、バイトするのか、親に出してもらうのか、
一時的に借りるような方法があるのか。
わかんないけど、もし出してもらえるとしたら
まず、すごくしあわせなことですよね。
- 木村
- その、前提としてですよね。
- 糸井
- そう。もしもお金がなくて、
決意だけした人がいたら、もっと大変ですよね。
助走のところで時間がかかりますよね。
- 木村
- そうですね。
- 糸井
- ああ、だから、決意が鈍るのかもしれないね。
そのためにがんばってお金を貯めてたら、
貯まったときに「どうしよう?」って
思わないないものね。
- 木村
- なるほど。逆にいうと、だから、
いま負荷がかかってると思うんですよ。
急に飛び出さないといけないから。
- 糸井
- そうだね。
でも、どうだろう、あんまり
望みを大きくしないほうがいいんじゃないかな。
その、たとえば鬼ヶ島に行くときにさ、
「いっぱい宝物を持って帰ろう!」って
思ってたら、やっぱりたいへんじゃない?
- 木村
- え! 宝物目当てだったんですか、鬼ヶ島って。
鬼退治なんじゃないですか、目的は。
- 糸井
- ‥‥鬼退治だね。
- 木村
- はい(笑)。
- 糸井
- だから、言い直すと、鬼退治に来たのに、
「宝物もたくさん欲しい!」って思ってると、
鬼との戦いにも負ける可能性が
出てくるんじゃないかな。
つまり、「後悔したくない」って
あんまり思い過ぎるとよくないんじゃないか。
- 木村
- なるほど。
- 糸井
- あの、じぶんの話だけど、
ぼくは後悔したことって、
じつはあんまりないんだよ。
- 木村
- ほう。
- 糸井
- 後悔ってないのよ、ほんとに。
それはたぶん、ぼくがやってきたことが、
もともとそんなにやりたいことじゃ
なかったからだと思うんだよ。
- 木村
- あー、やってきたことが。
- 糸井
- 「これ絶対やんなきゃ!」みたいな、
すごいこと思ったことないんだよ。
そうじゃなくて、バトンがまわってきたんで、
受けて、前向いて走った、みたいなさ。
そんな感じだったんで、目標とか、
獲物の大きさみたいなことを考えたことがない。
だから、後悔もないんですよ。
- 木村
- うん、うん。
- 糸井
- だから、この子も、
小さい決意っていうかさ、
小さい目標をちゃんと果たそうと思ったら、
すごくいいんじゃないかね。
たとえば、行った先で、
必ず友だちをひとりはつくろう、とかさ。
- 木村
- うん、うん。
- 糸井
- そんな小さいことがさ、
けっこうあとで広がるじゃない。
- 木村
- いや、それ、大きいっすよ。
友だちひとりはそうとうでかいと思いますよ。
- 糸井
- そんなんでいいと思うんだよ。
やればできることじゃん。
- 木村
- うん。
- 糸井
- こっちからこころを開いて、
人の嫌がることをしないで、
なんかで役に立とうと思う。
じぶんが何か得ようじゃなくてさ、
なんか、ちょっとでも
誰かのためになれたらいいな、くらいのこと。
でも、それだって、やっぱり、
最低限の英語はできてないと難しいだろうから。
だから、そういう意味でも、
友だちをひとりだけつくろう、
くらいのことを望んで行ったら、
かならずいいことにつながるんじゃないかな。
- 木村
- たしかに、そんなに目標を
大きく持つ必要もないだろうし。
- 糸井
- 彼女ぐらいの年齢だったら、
まちがっても、大したことないしね。
- 木村
- そうですね。釣りの例えになっちゃいますけど、
食料を得るために釣りに出かけるのって、
やっぱちょっと負荷大きいじゃないですか。
- 糸井
- そうですね。
- 木村
- そうじゃなくて、やっぱり、
釣れたらいいな、たのしいな、っていう、
かかったらうれしいな、っていうぐらいの
フィーリングで出たほうが
いいんじゃないかなとは思いますね。
- 糸井
- 行けるんだったらね。
- 木村
- 行けるんだったら。
まぁ、ななちゃんの両親がどういうふうに
背中を押してくれるかは、
これはひとつの大事な要素ですよね。
- 糸井
- うん。
- 木村
- ななちゃん、ひとりでぜんぶできる
っていう状況ではないと思いますし。
- 糸井
- それはなかなかね。
ひとりでお金もぜんぶ準備するんだ、
っていうんだったら、
そこからもう旅ははじまってるし。
- 木村
- うん、そう思いますね。
- 糸井
- なんか、おれら、
お互いに親っぽいこと言ってるね。
- 木村
- はっはっはっは!
- 糸井
- あんがい(笑)。
- 木村
- それはもう、先輩がいろんな面を
見せてくれているからですよ。
- 糸井
- (笑)
(つづきます!)
2019-09-08-SUN
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN