木村拓哉さんと糸井重里は、
かなり以前から、もう、25年くらい前から
おつき合いがあるのです。
じつは創刊当初のほぼ日のオフィスにも
ときどきこっそり遊びに来ていたり。
そんなふたりが、久しぶりに会いました。
木村拓哉さんがMCを務める
ラジオ番組「Flow」のマンスリーゲストに
糸井が呼ばれたのです。
久々に会っても自然体なふたりが
たっぷり話した約2時間。
放送されなかったトークも含めて、
だいたいぜんぶを文字にしました。
- 木村
- 続いてはこんなメッセージも届いております。
東京都の、こそばっちさんから。
- 糸井
- わんこそばっち。
- 木村
- こそばっちさんです。27歳女性。
「こんにちは」
‥‥こんにちは。
「わたしは二十歳のときに
北海道から東京へ上京して、
いまもずっとテレビ局の
フロアアシスタントをしてます。
わたしがはじめてつかせていただいた
レギュラー番組は、
番組自体は20年間やっていたものが、
番組編成でなくなってしまいました。
毎週木曜日の朝から晩まで収録だった
この習慣が急になくなってしまってから、
こころにぽっかり穴が空いたような気持ちで、
とてもさみしいです」。
- 糸井
- ああー。
- 木村
- 「みなさんは、番組が最終日を迎えたあと、
ぽっかりこころに穴が空いたような、
そんな気持ちになりましたか?」
‥‥っていうメールが届いております。
糸井さんは、どうでした?
まぁ、最近はないとは思いますが、
続いてた番組がふっと終わったりすると。
- 糸井
- テレビの番組については、
ぼく、「やめたい、やめたい」って言って
やめてることが多かったんですよ。
テレビは、本職じゃないぶんだけ、
わりと飽きるんですよね。
- 木村
- じゃあ、心に穴が空くっていうよりは、
逆に穴からようやく出られた、
っていうような感じですか?
- 糸井
- そうそう。
それこそ、さっき言った「イトイ式」なんかでも、
もうおもしろくするのは無理だよ、って、
俺の興味がやっぱり減っていくんですよ。
- 木村
- うん。
- 糸井
- 一所懸命やってたし、
続けましょうって言ってくれる人は、
いっぱいいたんだけどね。
だから、テレビに関しては、ぼくは、
やめたときのほうが、
「じゃあ、次はなにしよう?」
っていう感じになりますね。
でも、いま、ほぼ日では、
いろんなイベントとかもやってるけど、
それは、終わったときに、なんか、
みんなと一緒に、穴が空いたっていうか、
さみしいっていう思いにはいつもなるね。
「よくできた、うれしい!」
っていう気持ちと両方ですけどね。
- 木村
- ぼくも、両方の気持ちになりますね。
台本がカバンの中からふっとなくなる日に。
- 糸井
- あー、そうか。
- 木村
- それって、
すごくうれしい瞬間でもあるんですよ。
- 糸井
- ねぇ。やりきったわけだからね。
- 木村
- 「いまのカットをもって、
何々役、木村拓哉さんオールアップです!」
っていうあの瞬間って、
すっごいうれしいんですけど、
なんて言えばいいんだろう、
「あ、終わっちゃった‥‥」っていう。
そんで、いただいた花束を、
なんか、傍らにパッと置いて、
その役の衣装を脱いで、私服に着替えた瞬間に
もう、「ああーー‥‥」っていう、
なんだろうな、うん‥‥。
- 糸井
- いわば、疑似家族だもんね。
役者さんたちが集まってドラマやるのって。
- 木村
- そうですね。
ひとつのシチュエーションを
いろんなジェネレーションが集まって、
たとえばいまじぶんは
「警察学校の教官」としてそこにいて、
生徒たちとしてみんながいて、
っていう関係性でやらせてもらってるんですけど、
なんですかね、なんか不思議ですよね。
- 糸井
- うん。
- 木村
- なんか、特別な関係性です。
- 糸井
- 役者さんたちが、
それをずーっとやってるというのは、
ぼくは、やっぱり人格に影響すると思うなぁ。
だって、出会いと別れに対して、
平気にならなきゃやってられないじゃないですか。
- 木村
- うん。割り切りというか。
- 糸井
- ねぇ。
だから、昔すっごい恋人だった役の人と、
久しぶりに会ってもさ、
恋人と会った気はしないわけでしょ。
- 木村
- しないけど‥‥
でも、どこかスペシャルじゃないですか。
- 糸井
- ああ、同僚としてスペシャルなのか。
- 木村
- 同僚としてもそうだし、
相棒としてもそうだし。
- 糸井
- なるほどね。
でも、恋人役だった人と会ったとき、
恋の炎が燃え上がったりしたら、素人だよね。
- 木村
- そうですね。
- 糸井
- それはダメでしょ。
- 木村
- それはダメですね。
- 糸井
- だから、いまはもうないんだろうけど、
たとえば、木村くんが
まだドラマに慣れてない若手のときなんかにさ、
「あ、いかんいかん」っていうの、なかった?
- 木村
- えーっと‥‥(笑)。
いかんいかん、ね。
- 糸井
- これ、好きになっちゃうじゃない、みたいな。
- 木村
- でも、えーっと、
「ロングバケーション」という作品をやったときに、
役なんですけど、その現場で、
「本番!」ってなってるときは、
その、なんていうんだろう、
恋愛という気持ちを、そのままこう、
なんだろう、じぶんがいま思ってること、
いま感じてることを、相手にそのまま伝えていんだな、
っていうふうに感じたことはあります。
- 糸井
- おおーー。
- 木村
- なんか、そういう回路が
つながったような気はしますね。
で、「カット!」ってなった瞬間に、
通っていた電流がピュンと切れるっていう。
- 糸井
- 「電流」というたとえは、
なんか、すごく、へぇーって思うね。
- 木村
- そうですか。
- 糸井
- そうか、電流だと思えば、しっくりくるね。
「冷める」って言われちゃうと、
それは違うと思うんですよね。
- 木村
- 「冷める」じゃないですね。
- 糸井
- ではないんですよね。
で、たとえばの話、さっきまで
ものすごく深い関係の恋人だったとしても、
その電流が切れた瞬間に
「あ、このいなり寿司、うまいっすよ」
みたいな、ふつうの共演者になるわけですよね。
- 木村
- そうですね。
- 糸井
- 電流って言われたらわかった。
- 木村
- あ、ほんとですか。よかった、伝わって。
すごい。いや、わかんないかなーって。
- 糸井
- わかるよ。わかるものはわかる。
(つづきます!)
2019-09-09-MON
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN