木村拓哉さんと糸井重里は、
かなり以前から、もう、25年くらい前から
おつき合いがあるのです。
じつは創刊当初のほぼ日のオフィスにも
ときどきこっそり遊びに来ていたり。
そんなふたりが、久しぶりに会いました。
木村拓哉さんがMCを務める
ラジオ番組「Flow」のマンスリーゲストに
糸井が呼ばれたのです。
久々に会っても自然体なふたりが
たっぷり話した約2時間。
放送されなかったトークも含めて、
だいたいぜんぶを文字にしました。
- 木村
- こんなメッセージも届いております。
岐阜県の、みったさん。
お、16歳。女性。
- 糸井
- 若いね。
- 木村
- 「突然ですが、どうやらわたしは
ありがたいことに、クラスの男子から
好意を寄せられているらしいんです。
しかし、わたしはその子と
はじめて話してからまだ
2か月弱しか経っていない上に、
あまり得意ではありません」
- 糸井
- (笑)
- 木村
- 「好きと言いつつも、
わかりやすく避けてきたり、
わたしの友だちに、
わたしのプライベートな情報を聞き出そうとしたり、
男の子の恋心が分からず、悩んでいます。
男の子って、そういうものなんですか?
また近いうちに告白するという噂も
よく耳にするんですが、
お断りのいい言葉が見当たりません」
- 糸井
- なるほど。
- 木村
- 「相手を傷つけず、じぶんもすっきりできる、
お断りの言葉って何かありますか。
教えてください」‥‥というメールが来てます。
16歳の女の子から。
- 糸井
- はぁーー。
また翌日も会う関係だからねぇ。
- 木村
- 会いますねー。
- 糸井
- こういうの、木村くん、あるんじゃないの。
ドラマの中にあったような台詞ない?
- 木村
- ドラマの中には、
そういう台詞はないと思いますよ。
- 糸井
- ないですか。
- 木村
- 相手を傷つけず、
じぶんもさっぱりできるような、
そういうシチュエーションって、
そもそもドラマになりませんから。
- 糸井
- そうか!
そしたら、これから答える木村くんの答えは、
木村くんのオリジナルです。
‥‥どうぞ!
- 木村
- いや(笑)、なんだ、その司会ぶり。
- 糸井
- はははは、難しいよね、でも。
- 木村
- 難しいですねぇ。
うーん‥‥これ、えーっと、
実体験から言っていいですか。
- 糸井
- おお、はいはい。
- 木村
- 実体験で、ぼく、告白したら、
こう返されて、
何も言えなくなったし、
別に傷つかなかったんですよ。
- 糸井
- ほう!
- 木村
- あれ、言った本人は
どういう感じだったんだろうな‥‥。
っていう思いも込めて、
このみったちゃんに伝えようと思うんですけど。
- 糸井
- いいねぇ。
- 木村
- ぼくが、好きだっていう気持ちを伝えたら、
その相手から、
「つき合うのには、わたしは足りてないと思う」
って言われたんですよ。
- 糸井
- ほう、ほう、何歳のころ?
- 木村
- 16か、17。
みったちゃんと同じくらいですね。
そのとき、
「いや、好きなんだけど」みたいな感じで、
ほんと言ったんですよ。
そしたら、いや、すごいうれしいんだけど、
そういうつき合うっていう相手には、
わたしはたぶん足りてないと思うって言われて。
- 糸井
- ほーーー。
- 木村
- え、って思ったんだけど、
傷つきはしなかったんです。
でも、結果、つき合ってないんですよ。
- 糸井
- つまり、謙遜のかたちを取ってるわけだ。
- 木村
- 謙遜。
謙遜を、たぶん、演じられたのかなと思います。
いま冷静に考えると。
- 糸井
- もうちょっとドラマチックにとらえて、
そのことばが
「恋愛するのに足りてないんです」
っていうことを含んでたと考えたら、
ものすごくかっこいい台詞だね。
- 木村
- ‥‥ん?
- 糸井
- つまり、木村くんにつり合わない、
という意味じゃなくて、わたしは、
「男の人とつき合ったりするような、
そういうところにまだ足りてないんです」、
っていう意味を奥に秘めてたとしたら、
その子のある種の真面目さと
可憐さが感じられて、ちょっといいな、と。
- 木村
- ああ、うん。いま思い返すと、
けっこう、そうだったかもしれないですね。
- 糸井
- ねぇ。
- 木村
- ジーンとしますね。
- 糸井
- あの、男って、12でも13でも、
「俺は好きだ!」とかばっかりで、
バカだからさ。
- 木村
- そうですねぇ。
あと、それ、いま冷静に考えると、
その当時、つき合うって、なんだったんだろう?
- 糸井
- あー(笑)。つき合うってなによ?
- 木村
- 一緒に帰るだけで、
つき合ってることになるじゃないですか。
- 糸井
- ははははは。
- 木村
- あれ、なんすかね。
学校終わりで、一緒に帰るだけで、
つき合ってるって思ってたじゃないですか。
- 糸井
- ふふふふ、いや、それはだから、
その帰り道の先は、
違う場所につながってるというのがあるから、
一緒に帰るだけでも価値があるんだよ。
永遠にその村から出なかったら、
帰り道の価値は下がるんだよ。
でも、一緒に帰ってるうちにさ、
もうちょっと展開があるんだよ。
ちょっと指が触れたとか。
- 木村
- そうなんですよ(笑)。
- 糸井
- そういうことだろ(笑)。
- 木村
- 指が触れたりとか。
相手の制服の布が擦れる音が
すごいドキドキっとしたりとか。
- 糸井
- うん。それはだから、
一緒に帰るだけじゃないよ、やっぱり。
- 木村
- でも‥‥具体的な要素だけで言うと、
手をつなぐ前に、一緒に帰るだけで
つき合ってることになってましたよね?
- 糸井
- まぁ、男が思ってることというのは、
「あわよくば何か」とか、「いつかは」とか、
やっぱりこころの奥にありますよね。
- 木村
- (笑)
- 糸井
- で、それは女の子に見透かされててね、
もし来たらどうしよう、
どうやって断ろう、ぐらいのことを、
考えているんだよね、相手は。
あるいは、もうそろそろいいんじゃないかとか、
女の子だって考えるわけだから。
- 木村
- うん。
- 糸井
- だから、ただ一緒に帰るだけなんだけど、
ものすごく物語があるよ(笑)。
- 木村
- そうですね。
(つづきます!)
2019-09-10-TUE
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN