前川清の歌を聴きたい。〜4人が集まる、九州鉄道の旅〜 前川清・髙田明・唐池恒二・糸井重里

歌手の前川清さんがデビュー50周年となるこの年、
ほぼ日刊イトイ新聞は創刊20周年を迎えます。
お互いの「50」と「20」を祝い、
6月10日に記念コンサートを開くことにしました。
前川清さんは、ステージでまっすぐ立ち、
卓越した表現力で歌唱する方です。
ご本人は「歌は好きではない、うまくない」と
おっしゃるのですが、
50年間ずっと歌の世界を走ってこられたこと、
また、前川さんを尊敬する音楽家が多いことには
理由があると思います。
前川さんの地元である九州を列車で旅しながら、
糸井重里と、髙田明さん、唐池恒二さんが話します。
この連載を読んで前川さんの歌を生で聴いてみたくなったら、
ぜひ6月のコンサートにお越しください

この旅のルートを組んでくださったのは、
九州旅客鉄道株式会社(JR九州)さんです。

第7回 かわせみ やませみ。

熊本駅から、前川清さんと糸井重里の
ふたり旅がはじまります。
JR九州の「渓流の宝石」と呼ばれる
特急「かわせみ やませみ」に乗車。
この列車は、雄大な山に囲まれた人吉盆地と、
山々から流れ出た美しい球磨(くま)川に沿って走り、
熊本と人吉を結びます。

JR九州管内には、
この「かわせみ やませみ」のほかに、
ドラマチックな魅力あふれる観光列車(D&S列車)が
何路線も走っています

さあ、熊本駅に、ふたりの乗る
「かわせみ やませみ」が入ってきました。
川の青い車体が「かわせみ号」、
山の緑の車体が「やませみ号」です。
車内では、利き酒で焼酎をいただいたり、
おべんとうを食べることもできます。
(利き酒やおべんとうは、
不定期または土日祝日のみに限られているサービスです。
おべんとうは予約もできますので、
ご興味あるかたはこちらのページをごらんください)

「かわせみ やませみ」で利き酒できる球磨焼酎は、
人吉球磨地域の蔵元が誇るブランド。
米を原料とし、人吉球磨の水で仕込んでいます。

乗り遅れないように列車に乗り込んで、
水戸岡鋭治さんがデザインした
美しくつくりこまれた車内を眺め、
記念スタンプを捺して、駅員さんに見送られて、
いよいよ熊本駅を出発です。

糸井
今日は利き酒ができる日なんですね。
ぼくはお酒がのめないんですが、
これは焼酎ですか?
前川
地元の、球磨焼酎ですね。
糸井
「いいちこ」とは、種類が違う?
前川
「いいちこ」は大分の焼酎ですね。
「三岳」は鹿児島の焼酎ですけど、
好きな焼酎です。
あと、ぼくは高橋酒造の「しろ」のCMソング
歌わせていただきました。
あれは球磨焼酎です。
糸井
「一杯目は」という歌ですね。
じゃあ、前川さんは
球磨焼酎に縁があるんですね。
ちょっといただきましょう。
前川
はい、ぜひ。
糸井
おつまみもある。
いいなぁ。
前川
糸井さんは飲んじゃうと、
へべれけになっちゃうんですか?
糸井
「バカヤローゥ」
前川
うわぁ、水しか飲んでないのに! 
酔っ払うまねがうまい。
ぼくもいちど、そういうふうになってみたいなぁ。
「仕事なんかぁやるもんか!」
糸井
そう言えるとらくですよねぇ。
ああ、景色がほんとうにきれいだ。
前川
大きな窓からよく見えますね。
すごいもんだなぁ、
九州の列車はこんなふうなのが
いっぱい走ってるんでしょ? 
糸井
さっきの唐池さんの仕業ですよ。
あの人が社長時代にがんばったことが、
いまにつながっているそうです。
前川
すごい方ですねぇ。
さきほど髙田さんが言ってくださいましたが、
ぼくはいま、九州の朝日放送で
「タビ好キ」という番組を
やらせてもらってるんです。
やっぱり旅はいいなぁと思います。
出会う人たちがおもしろいし、
いろいろ考えさせられることもあるので、
あの番組をつづけています。
糸井
観てるほうも、とてもおもしろいですよ。
ぼくもBSで観てますが、あの番組はいいですね。
前川
この前もね、あるお家を突然訪問したんですけれども。
糸井
はい、いつも突然訪問されますよね。
前川
その家には90歳のおばあちゃんがいて、
おうちに鉄製のお風呂がありました。
おばあちゃんは薪で火をくべていました。
薪で沸かしたお風呂は、
からだをよくあたためるそうなんです。
隣の家には息子さんが住んでいて、
息子さんの家は、ふつうの電気のお風呂でした。
つまり、おばあちゃんは
自分ひとりのために薪で風呂を沸かしているのです。
90歳だし、たいへんなんじゃないかなと思って
「息子のところに入りにいけばいいじゃん」
と言ってみたところ、おばあちゃんは
「頭下げんといかんから、行かん」
と言うわけ。
糸井
なるほど(笑)。
おばあちゃんにはプライドがあるんですね。
前川
だけど、息子は母親のために、
薪を割って準備しているんです。
そこまでやるなら息子が沸かしてやればいいのに、
と思うんだけど、
それ以上優しくしたらダメなんですね。
つきはなしておかなくちゃならないんです。
息子は「おばあちゃんは自分で沸かすんだ」と
ちゃんとわかっているわけですよ。
糸井
じゃあ息子から
「風呂に入りにこい」とも言わないわけだ。
前川
そうそう。
親が「頭を下げたくない」と思ってるから、
息子は貸さない。
薪を割るまでは、する。
糸井
立派な親子ですね。
前川
でしょう?
「いつ倒れるかわからんし、私はいつ死んでもよか」
なんて言うから、
「そしたらおばあちゃん、明日死んでも幸せ?」
と言ってみました。そしたら、
「いや、明日までは生きたい」
って言うわけ。
糸井
わははは。
とてもいいですね。
前川
人間ってそういうもんだな、と思いました。
あの番組はほんとうにいい勉強になりますよ。
糸井
ぼくは、旅人が果たす役割って、
あると思うんですよ。
前川
うん。
糸井
そのおばあちゃんは、
近所の人にいまのような話をしても
しょうがないと思います。
フラッとやってきた旅人だから、
その話の「全体」がわかるんですよね。
前川
そうそうそう。
そういうことは、この歳になってみないと
わからなかったですよ。
ああ、川がどんどん急流になってきた。
糸井
「タビ好キ」は、番組に登場する人たちが
キラキラと目を輝かせて話してくれますよね。
それは、前川さんが鏡になっているからなんですよ。
登場人物がイキイキしてるのは、
向こうから前川さんがそう見えてるからです。
前川
ははぁ。
糸井
若くていい気になってたころには、
それができなかったんじゃないでしょうか。
ぼくにも思いあたることはあります。
前川
そうかもしれません。
欽ちゃんの番組に出させていただいたり、
歌がヒットしていたときだったら
できなかったかもしれませんね。
(明日につづきます)
2018-04-20-FRI