前川清の歌を聴きたい。- ほぼ日刊イトイ新聞

歌手の前川清さんがデビュー50周年となるこの年、
ほぼ日刊イトイ新聞は創刊20周年を迎えます。
お互いの「50」と「20」を祝い、
６月10日に記念コンサートを開くことにしました。
前川清さんは、ステージでまっすぐ立ち、
卓越した表現力で歌唱する方です。
ご本人は「歌は好きではない、うまくない」と
おっしゃるのですが、
50年間ずっと歌の世界を走ってこられたこと、
また、前川さんを尊敬する音楽家が多いことには
理由があると思います。
前川さんの地元である九州を列車で旅しながら、
糸井重里と、髙田明さん、唐池恒二さんが話します。
この連載を読んで前川さんの歌を生で聴いてみたくなったら、
ぜひ６月のコンサートにお越しください。

この旅のルートを組んでくださったのは、
九州旅客鉄道株式会社（ＪＲ九州）さんです。

前川: 鯉を預かってくれている場所は新潟なんですけど、
みなさんそこでぼくの顔を見ても、
「ああ、また来てるわ」
という、そんな表情をされます。

糸井: そこにはおもに、選別をしに行ってるんですか。

前川: そうです。選別して、
どろんこになって、網引いて。

糸井: その時間は、夢中なんですね。

前川: なんにも考えないです。

糸井: 夢中になれるものがあるのに眠れないって、
やっぱりおかしいですね。

前川: そうなんです。
歌という仕事が、
やっぱり向いてないんでしょうね。

糸井: でもそれが、たまたま本職になっちゃって。

前川: けれどもやっぱり、
なんだか好きじゃないという気持ちがあって。

糸井: それがストレスになるんですね。

前川: はい、なるんです。
歌が好きな歌手の方が
うらやましくてしょうがないです。

糸井: でも、歌ってるときに
「お、今日はうまくいった」とか、
そういうことはあるでしょう？

前川: あります、あります。
ぼくはいつも、リハーサルの音合わせまでは
調子がいいんです。
しかし、本番になると弱い。
ウチのマネージャーだって
「ここまではいいですけどねえ、本番がねぇ」
なんていつも言います。
本番は歌詞間違ったり音程外したりするから、
「100％よかった」ということは、
50年間で、５回もありません。
２～３回じゃないでしょうか。

糸井: うわぁ、そうか。

前川: はい。

糸井: ぼくはだいたいのことについて
平気なんですけれども、
それはなんでかというと。

前川: それもまたすごいですね。

糸井: すごいということじゃなくて、ただ、
意識が薄いんだと思います。
日々ものごとを考えるのは好きなんですが、
濃くないんですよ。
たぶんすべてを
「途中なんだからこれでいい」
と思ってるからだと思います。

前川: ああ、そこが違いますね。
ぼくはTwitterにしても、
神経使っちゃって、ぜったいできません。
疲れると思います。

糸井: ぼくはおそらく100点を欲しがっていないんです。
今回はこうだったけど、
もっとよくなるときもあるし、
ダメなときもあるし、と思っています。

前川: ぼくもね、舞台に出るまでは、
ほんとうに毎回、半分寝てるんですよ。

糸井: そこがまた不思議だ（笑）。
はじまったら、一所懸命やるんですよね？

前川: そう。
直前まで嫌なのに、
はじめれば一所懸命やるんです。

糸井: いつもものすごくまじめにやってますよ。

前川: そうなんですよ、ほんとに。
１か月間かけてまわる長い公演があったとしても、
その期間を考えて
「今日はちょっと控えておこうか」
なんてことができない。
明日のことは考えないんです。

糸井: たぶん、自分の中にプロデューサーがいなくて、
前川さんはいつも選手なんですね。

前川: そうです。アスリートですね。
毎日毎日を走るだけで、
１か月をどう乗り切るかは考えていません。

糸井: よくここまで走り抜きましたね。
しかも、それでいて、
時間があれば遊びたいと思ってるんですよね？

前川: そうです。
なるべくらくして効果を上げたいし、
遠回りはしたくない。

糸井: 自然にできることだけをやってればいいんだ、
と思ったから、ぼくも
ここまで楽しくやってきました。
でも、若いときにはいまの楽しさが、
なかったような気もします。
真剣になって「おお怖い」という勝負をすると、
やっぱりそういう種類のうれしさがあります。
だから前川さんが「失敗したい」と
おっしゃるのはよくわかります。

前川: 乗り切ったときにしか
変われないことがあるんでしょうね。
人によって変えられる部分もあると思います。

糸井: そうです、そうです。
そうして変わっていくことも、
自分で楽しいものです。
それは、この歳になってやっとわかりました。

前川: だから、歳取るっていいことですね。

糸井: すごくいいことですね。

前川: あ、また向こう側にまた変わった列車が。
この駅ですれ違うんですね。

糸井: 「いさぶろう・しんぺい」

前川: また違う観光列車なんですね。

糸井: 九州、たのしいですね。
夕暮れになってきました。

前川: 川を眺めて話していると、
あっという間だったなぁ。

糸井: もうすぐ人吉に着きますね。

（明日につづきます）

2018-04-22-SUN