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柳瀬 |
ホタルが戻ってくるようになった理由は
すごく明確で、「光」が「川」に
入るようになったからなんです。
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柳瀬 |
光が入るようになったのは、
川を覆っていた木を切ったからなんですね。
木を切ると川に光が入って、
川底の石に珪藻などの藻が生えます。
藻が生えるとカワニナという貝が増えます。
藻がカワニナの餌なんですね。
で、このカワニナがホタルの幼虫の餌となる。
つまり、
ホタルが増えるには川が明るくないといけない。
ホタルって、なんとなく山奥の清流に住む昆虫
みたいなイメージがあるかもしれませんが、
実は人間が住む場所のわりと近くに来てるんです。
というのも、
光が入らない谷川ではカワニナが育たないからです。
深い山奥にホタルはいないことが多いんですよ。
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一同 |
へええーー。
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柳瀬 |
川を覆っていた木を
適度に伐採してあげて光を入れると
他にも様々な生き物がやってきます。
たとえば‥‥これです。
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─── |
‥‥魚?
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柳瀬 |
アユです。
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─── |
アユ!
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柳瀬 |
木を切ったら
アユがたくさん上がってきました。
これも、川に光が入るようになったからなんです。
光が入って、川底の石にコケがはえるようになった。
するとコケを食べるアユが増えるわけです。
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一同 |
おおーー。
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柳瀬 |
何度か申し上げていますが、
ポイントは「水」と「光」なんです。
それぞれの生きものの生育条件の多くが、
「水」と「光」の量で決まるんですね。
たとえば、
小網代の谷に生えるイネ科の植物を比較すると、
ササは、水がなくて光があるところが好き。
オギは、水がちょっとあって光があるところが好き。
アシは、水がもっとあって光があるところが好き。
ガマになると、水がさらにいっぱいあって
光があるところが好き。
つまり、どれだけ地面が湿っているかで
生えてくる植物がどんどん変わってくるんです。
この場合は、「水」のコントロールで、
どんな植物が生えてくるかが決まってくる。
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柳瀬 |
アシやガマのように水際の植物では
「水」の量が生育環境を左右しますが、
水際を離れた森のなかでは、
「水」はもちろん「光」を
どうマネジメントするかで、
生きものの生育環境が決まってきます。
というのも
森は放っておくと、木が茂り過ぎて
林内にまったく光が入らなくなり
あらゆる植物が育たなくなるからです。
じゃあ、どうするか。
伐採です。
具体的には木をどれだけ伐採するか、
どれだけ残すのかで
森の足下に入る光の量が変わる。
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柳瀬 |
適当に木を伐採して
光を入れてあげると、
たとえばこうやってヤマツツジが咲いたり‥‥。
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柳瀬 |
あるいは‥‥
こちらは、カラスアゲハという
小網代では
いちばんきれいな大型のアゲハチョウの仲間です。
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柳瀬 |
カラスアゲハの幼虫が食べるのは、
主にカラスザンショウ。
サンショウと同様、ミカンの仲間です。
木を伐採し、ササを刈り込んで
地面を明るくしたら
このカラスザンショウがいっぱい芽を出しました。
結果、この芽にカラスアゲハが産卵し、
その幼虫がたくさん増えました。
一方、湿地を増やすとトンボの仲間が増えます。
このトンボは、
神奈川県内では
小網代ともう1カ所くらいしか
繁殖が確認されていないヤンマの仲間で
サラサヤンマっていいます。
サラサって着物の「更紗」のことですね。
とってもきれいなトンボです。
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─── |
‥‥柳瀬さんはまた、写真がすばらしいですね。
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柳瀬 |
ありがとうございます。
趣味でやっております(笑)。
これはアサヒナカワトンボ。
春の小網代を代表するトンボで、
清流沿いをふわふわ飛んでいます。
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柳瀬 |
これがオオシオカラトンボ。
真夏の小網代の湿原でいちばん目立つトンボです。
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柳瀬 |
トンボの幼虫は、ヤゴといいます。
ヤゴが暮らす湿地や池がないとトンボは増えません。
とくにサラサヤンマのヤゴは変わってて、
湿地と田んぼのあいだぐらいの
微妙にグシャグシャのところに生きていて、
ドロドロの陸を歩き回ることもあると言われてます。
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一同 |
ほおおー。
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柳瀬 |
だから、小さな池とグシャグシャの泥地が
混ざったような湿地がないと暮らせないんです。
そういう場所は
たいがい、すぐに開発されちゃいます。
一方、人が手をいれないと乾燥しちゃいます。
つまり「住処」が珍しい。
このため、サラサヤンマも
とっても珍しいトンボになりました。
神奈川県では、絶滅危惧1類に分類される
絶滅危惧種です。
しかし。
小網代のサラサヤンマは、
ここ数年、目に見えて増えています。
今年は過去最高で、
1日に20個体以上を確認しました。
サラサヤンマは、
数メートルのテリトリーをもっていて、
近づくと人間にまで「ガンを飛ばす」
ように威嚇してくるんですね。
だから、カウントがしやすいんです。
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─── |
‥‥お話をうかがっていると
「手つかずの自然」ではなくて、
人が「手を入れる」ことで良くなるんですね‥‥。
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柳瀬 |
そうです、そこがポイントです。
ここ、ほんとうに、ぜんぶササだったんですから。
そのササを刈り取って、湿地を回復したら
サラサヤンマも目に見えて数が増えました。
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柳瀬 |
光と水をマネジメントすると、
生き物が戻ってくるんですよ。
さっきのホタルだって、
ぼくらは1匹も放虫をしていません。
光と水を適切にマネジメントすれば
細々と生きてきたホタルが、
毎年、けた違いに増えちゃうんです。
2011年、
一晩に10頭ほどしか見れなかったホタルが、
常緑樹を中心に、木を伐採して
川面に光が入るようにしたら
2012年、一晩で100匹見るようになりました。
2013年は500匹。
今年2014年は700匹です。
注)2014年のホタルは見られる時期を終えています。
また小網代への夜間の立ち入りは
禁じられていますのでご注意ください。
水と光で生育環境をコントロールすれば、
生きものは復活する。
どこかから持ってくる必要はない。
しかし、そんな方法がとれるのは
小網代が流域全体が守られてる自然だから。
流域単位の自然だから、はじめてできるんですね。
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一同 |
ああー。
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柳瀬 |
流域がぜんぶまるごと自然で守られているから、
コントロールができるんです。
途中に道路や家があったりすると、
こんなにホタルが急に増えたりはしないと思います。
そもそもホタルが暮らせない。
小網代のホタル復活は、
自然をパッケージまるごとに
流域全体を残してるからできることなんですね。
小網代の谷を空撮で見ると、
周囲に家や道路があります。
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柳瀬 |
実はそこから、
生活雑排水がちょっとだけ入ります。
だから小網代は、
上流にあたる川の源流部が汚れていて、
河口がいちばんきれいなんです。
これ、ふつうの川のまったく逆です。
ふつうは源流の水がきれいですよね。
源流は自然で下流は都会、
というところが多いからです。
小網代では、上流から下流に向けて浄化されて、
水のきれいな下流でホタルが多く見られます。
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一同 |
なるほどー。
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柳瀬 |
海が見える場所でホタルが見えるという。
小網代は、すごーく不思議なところです。
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─── |
(挙手)質問を、よろしいですか。
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柳瀬 |
どうぞ。
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─── |
光をマネジメントするために
かなりの木を伐採すると思うんですが、
切った木はどこへいくのでしょう?
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柳瀬 |
ぜんぶ、
切った場所の近くにていねいに並べています。
並べたまんまです。
で、そうするとどうなるかっていうと、
これがこんど朽ち木になって
そうなるといろんな虫が幼虫の餌になる
とばかりに飛んできます。
メジャーな虫もガンガン出てきます。
おなじみ、カブトムシとか‥‥
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柳瀬 |
アカスジキンカメムシ。
こちらは、
明るくなった林でよく見かける
初夏の小網代に多い、
日本でも有数の美しいカメムシです。
フジやミズキにつきますね。
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柳瀬 |
美しいといえば、タマムシもいますよ。
タマムシが大好きな
エノキの切り株がいっぱいあります。
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─── |
タマムシ!
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柳瀬 |
ほぼ日さんで去年、
「タマムシに会いたい。」という企画がありましたが、
タイミングがあえば、ばんばん会えます。
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一同 |
へええええーーー!
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柳瀬 |
そうやって虫が増えると、
今度はそれを狙って鳥が増えます。
いま小網代には、
フクロウのつがいが、2ついるんです。
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─── |
森にフクロウ‥‥すばらしい‥‥。
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柳瀬 |
昆虫という生態ピラミッドの下が増えるので、
その上の生き物も増えてきます。
ピラミッドが分厚くなるほど、
生き物の数ってすごくすごく増えるんですね。
ですからこうやって、
木やササを適切に間伐して、
森を明るくしたり、
湿地を増やすことは、
小網代の生物多様性を
豊かにすることに
寄与しているんだと思います。 |
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(つづきまーす) |
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2014-07-28-MON |
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN |
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