お米が好き♡と に か く 好 き。
ブレンド米の付加価値。
──
原宿にある小池さんの小池精米店は、
めずらしい品種を揃えたり、
お店の経営に工夫をされていますけど、
そういうお米屋さんって、
まだまだ、数は少ないと思うんです。
小池
そうですね、でも、やはり、
意識的にそういう努力をしていかずに、
昔の米屋のままでいたら、
どんどん右肩下がりになっちゃうので。
──
やはり、そうですか。
小池
わたしは店の「3代目」なんですけど、
父から家業を継いだときは、
「とりあえず、赤字を何とかしなきゃ」
という、
非常に明確なミッションがありました。

それまで「ものを売る」という仕事を、
やったことなかったので、
まずは勉強と思って、手当たり次第に、
飲食店に、飛び込み営業をしたんです。
──
お米、いかがですか、と。
小池
そう、今日は渋谷のあの店、
明日は青山通りのあのお店、みたいに。

1日30軒近く回ってたんですが、
そのときの経験が、血肉になってます。
──
たとえば?
小池
飛び込み先のお客さまから、
逆にリクエストされたりするんですよ。

「こういう感じの米を、
 こういう料理に使いたいんだけど、
 そういうの、何かない?」とか。
──
なるほど。
小池
そういうリクエストをいただいたら、
ひとつひとつ調べて、
しかるべきところに問い合わせして。

そんなふうにして学んでいきました。
──
じゃ、つまり小池さんが継ぐまでは、
小池精米店も、
一般的なお米屋さんだったんですか。
小池
そうですね。

昔から飲食店をやっている人たちに
「米屋って最初はいいんだけど、
 そのうちに
 米をブレンドしてくるからな!」
みたいに言われながらも(笑)。
──
ブレンド。
小池
いや、まあ、なかば冗談なんですけど、
ようするに
「米屋は、ほっといたら、
 だんだん米の質を下げていくからな」
というような意味ですね。
──
いいお米に安いお米を混ぜて
値段をそのままにして売る、みたいな。
小池
もちろん、うちの店では、
そんな詐欺まがいなことはしていませんが、
「そうか、
 世間の目から見たお米屋というのは、
 こういう面もあるのか」と、
いろいろ勉強させていただきました。
──
でも、小池さんのお店では
「売り」にしている「ブレンド米」も
ありましたよね、たしか。
小池
はい、あります。

安いお米を混ぜていることを言わずに
高い値段のまま売ってしまう
食品偽装行為は
当然、問題外ですが、それ以外で、
いわゆる「ブレンド米」には
2つの方向性が、あると思っています。
──
ええ。
小池
まず、値段を下げるためのブレンド。

たとえば
コシヒカリとひとめぼれをブレンドして、
味はさほど落ちないけど、
値段は、少々、安くしてます‥‥という。
──
なるほど。
小池
もうひとつは、混ぜることで、
まったくちがう味をつくり出すブレンド。
──
つまり、小池さんのお店で
積極的に取り組んでらっしゃるのは、
後者の「ブレンド」ですね。
小池
はい、そうなんです。

うちは、お寿司屋さんと
長くお付き合いしているんですけど、
Aというお店にはこのブレンド、
Bというお店にはこのブレンド‥‥
というふうに、納品しているんです。
──
それは、お店側のリクエストで?
小池
ええ、大将と話して、
「コシヒカリよりもサッパリしてて、
 ササニシキよりも、味が濃いやつ」
みたいな、
超難解なパズルみたいな注文にですね、
ウンウン唸りながら答えて(笑)。
──
その寿司屋のオリジナルのブレンドを、
お届けしているんですか。
小池
はい、こちらの意味でのブレンド米は、
独自の味を生み出す「技術」なので、
他の店との差異化という意味で、
とても有益な方法だと、思っています。
──
ブレンド米と言うと、
とかく
マイナスのイメージが強いですけど、
ブレンドすることで、
逆に付加価値をつけているんですね。
小池
こんどオープンするお店からも
「カレー用のブレンド米を開発してほしい」
とリクエストをいただいてます。

それも、グリーンカレー用と、
ふつうのカレー用と2パターンで‥‥とか。
──
ちなみに、ぼくら一般の消費者でも、
小池さんのお店で、
ブレンドしていただけたりしますか。
小池
ええ、ご注文をいただけましたら、
もちろん、やりますよ。

このあいだなんかは、
「結婚式の引き出物でお米を出したい」
という女性がいらして。
柏木
わあ、すてき!
──
幸せブレンド。
小池
本当に、そんな感じのご注文でしたね。

「ほっこりして、日本人らしい感じで」
とか、
新婦さんのいろんな思いをうかがって、
ひとつひとつ汲み取りながら、
ご出身が北海道だったので、
「ゆめぴりかと
 ななつぼしを入れましょうか」とかね。
柏木
ワインやコーヒーみたいに、
ブレンド米がもっと市民権を得たら、
お米の需要の幅も、
もっとちがう方向に広がりますよね。
小池
そうですね。

ただコシヒカリが登録されたのは
1950年代ですが、
それ以前は、
ブレンドが当たり前だったんです。
──
え、そうなんですか。なぜ?
小池
1年を通じて、味の安定した米を、
おおぜいの人に、食べてもらうために。
──
へえー‥‥。
小池
そのために、
うちの父親よりも少し上の世代の人は、
ブレンドの知識が豊富で、
たとえば、秋の新米の時期には、
この品種を混ぜるのがコツなんだけど、
年が明けて以降は、
こっちの品種を混ぜたほうがいいとか。
──
じゃ、お米の純血主義みたいなものが
よしとされたのは、
コシヒカリをはじめ、
品種のブランド化以降ってことですか。
小池
そうなんですよ、実は。
──
たしか「ブレンド米」という言葉が
一般に広まったのって、
1993年の大冷害のときですよね。

寒さに弱かったササニシキの収量が、
ガクッと減ってしまった、という。
小池
そう、あのときに、輸入米と日本米を
混ぜて売らざるを得なくなり、
「ブレンド米って、おいしくないよね」
という印象が根付いてしまって。
──
ええ。
小池
あとは、「コシヒカリです」と言って、
別の米をブレンドするという
不届き者がたまに捕まっているせいで、
ブレンド米という言葉には
いつしか「ネガティブなイメージ」が、
こびりついてしまったんです。

でも、まあ、その風潮も、
時間とともに和らぎつつありますけど。
柏木
京都にある「八代目儀兵衛」さんという
お米の卸売会社さんでも、
ブレンド米を、売りにしています。

どんぶりに合う米、和食に合う米、
洋食に合う米、おかゆに合う米‥‥とか、
いろんなブレンド米を売ってます。
──
それ、ひとつひとつ特徴があるんですか。
柏木
あるんですよ。

たとえば「どんぶりに合う米」は、
粒離れが良くて、つゆが絡みやすいとか、
「おかゆに合う米」は、
煮込んでも潰れない、
ハリをキープしたまま食べられたりとか。
──
そういう特徴を、
お米をブレンドすることでつくるって、
すごくないですか。
柏木
私、この前「チャーハンに合うお米」で
チャーハンをつくってみたら、
チャーハンなんて、
ほとんどつくったこととかなかったのに、
すごーく、おいしくできちゃって!
小池
へえ、おもしろいね。
柏木
ブレンド米、すごいなって思いました。
小池
今は、品種自体でも、
「笑みの絆」というお寿司用のお米だとか、
「華麗米」というカレー用のお米、
「和みリゾット」というリゾット用のお米、
いろいろ開発されていますね。
──
知れば知るほどおもしろいです、お米って。
小池
ここへきて、料理や好みによって、
いろんな選び方、楽しみ方ができるように、
なってきていると思います。
<つづきます>
2017-05-04-THU