お米が好き♡と に か く 好 き。
サツ回り→米農家→米好きライター。
──
ひるがえって柏木さんですが、
今は、お米関連の記事をはじめとして、
ライター業をされていますが‥‥。
柏木
ええ。
──
さっき、何か「お米農家だった」とか、
言ってませんでした?
柏木
はい、そもそものそもそもは、
私、新聞記者を8年やってたんですよ。
──
へ?
柏木
そのときに、米農家さんの取材をして、
お米の話を聞いたり、
お米のことを調べたりするうちに、
どんどん、
お米の魅力に、ハマってしまって。
──
はあ。
柏木
最後は経済部にいたんですが
「一次産業の担当をやりたいです」と言って、
当時、その新聞社は、農水省の記者クラブに
加盟していなかったんですが、
無理を言って、加盟させていただいたりとか。
──
おお。
柏木
で、お米まわりのさまざまな問題、
たとえば‥‥担い手不足だとか高齢化だとか、
若い人の「お米ばなれ」だとか、
そういう問題について、
「問題だ問題だ」ばっかり書いているわりに、
具体的には何もしてないことに気づき。
──
‥‥ええ。
柏木
自分でお米をつくろうと決めたんです。

そこで新聞社を辞めて、
千葉県の営農組合に転職しまして、
米づくりを仕事にしました。
──
ええと、米づくりを仕事に、というのは、
つまり、いきなりリアル田んぼに?
柏木
そう、田んぼです。もう、すんごい広いの。
東京ドーム何個分とか、
とっても広い田んぼで田植え機を運転して、
2トントラックを運転したりして。

育苗から田植え、収穫、脱穀精米出荷まで、
ひととおりやったんですけど、
「わたし、やっぱり無農薬でやりたい」
「田んぼを観察して、
 自分のあたまで考えながらやりたい」
と思い直しまして、
翌年は、個人で4.5反を稲作しました。
──
4.5反‥‥。
小池
45アール、ですね。
──
ぜんぜん広さをイメージできませんが。
柏木
まあ、けっこうしんどい広さですね。

機械なんか買えないので、
ぜんぶ「人力」でやっていましたし。
小池
なんてことを‥‥。
柏木
無農薬栽培ですから草が生えてくるんです。

草刈り機もありませんから、
人間の手で草とりをしなきゃならなくて、
真夏のいちばん暑い時期に、
汗ダラダラで草とりをしていると、
とってもとっても、
後ろから草が生えてくるような状況でした。
──
草が‥‥柏木さんを追いかけるように‥‥。
柏木
で、苦労の末に収穫できたんですけど、
仮においしいお米ができても、
炊き方がイマイチだと
おいしく食べてもらえないなと思ったので、
最高の炊き方で提供しようと、
中古のワゴン車を買ってきて、
DIYでキッチンカーをつくって‥‥。
──
キッチンカーって、
DIYでつくるものなんですかね!?
柏木
東京と千葉で営業許可を申請して取って、
千葉ではマルシェ、
東京ではケータリングをやってたんです。
──
それは‥‥何屋さんとして?
柏木
おむすび屋さんです、基本。

一升土鍋を特注して、
おむすびとおかずを売っていたんですが、
営業センス‥‥というのかなあ、
そういのがなくって、
けっこう高い食材を使っていたのに、
すっごい安い値段にしたりとかしていて。
──
わあ。
柏木
お客さんのほうから
「‥‥もっと高くしたほうがいいんじゃ」
とか言われる始末で。

それで食えなくなって、帰ってきました。
小池
‥‥どえらい行動力だな。
──
じゃ、そのお手製のキッチンカーは‥‥?
柏木
それがですね、なんとなんと、
そろそろ潮時だなあと思っていたときに、
高速道路を走っていたら、
急に、後ろのほうから煙を吹きはじめて。
──
は? え、そのまま、天に召された?
柏木
はい、召されていきました。

バックミラーを見たら煙がモウモウ出てて、
どんなにアクセル押しても進まなくなって。
──
アクセルを「押す」という表現に、
何でしょう、いろいろなことを思いますね。
柏木
最後の力を振り絞って、
クイって高速道路の路肩に停車させまして、
レッカー車で、運ばれていきました。

そのときに、
「これは、やめろってことかな」と悟って。
──
はー‥‥。後悔は、ありませんか。
柏木
わたし、新聞記者だったときも、
こうして誰か人に会ってお話を聞くことが、
とっても好きだったんです。

でも、田んぼにいると、
1日、となりのおばちゃんとしか話さない。
それが自分としては、ちょっと辛くて。
──
ああ、なるほど。
柏木
農作業は、心から楽しかったんですけどね。

ただ、素人の自分が
がんばってお米をつくっても、
食べてもらえなかったら意味ないと思って、
「やっぱりわたしは、
 お米をつくるのではなく、普及をやろう」
と、ライター業をはじめたんです。
──
ちなみに新聞記者時代は、どんな記事を?
柏木
1年目は、サツ回りでした。
──
サツ‥‥を、回られていた。
柏木
よく「警察24時」みたいなテレビに出る
伊勢佐木署も担当していました。
小池
夜討ち朝駆け、とか?
柏木
ええ、やってました。夜討ち朝駆け。
小池
へぇ~、かっこいいなあ!
柏木
入社2年目は、遊軍というポジションで、
社会部みたいな部署で
ベトナムやカンボジアの難民を取材したり、
海猿‥‥つまり横浜海上保安部だとか、
第三管区海上保安本部も担当していました。
──
バリバリじゃないですか。
柏木
そうするうちに、足柄支局って言いまして、
丹沢の山の麓に転勤になりまして、
「まわりが田んぼだらけ」という状況に、
放り込まれまして。
──
いろいろと展開が急ですね。
柏木
1年間、移り変わる田んぼの風景を見て、
農家の人と話して、
出穂直前に「稲の花」を見て感動して、
秋に穫れたての新米を食べて、
お米の文化や歴史を調べていくうちに、
だんだん、米、米、米、米、米‥‥と。
──
のめり込んでいって。
柏木
そう。
──
それまでは、お米好きだったんですか?
柏木
いえ、そんなことなくて、ふつうです。
ここまで「米!」みたいな女では‥‥。
──
なかった。
小池
いきなり取り憑かれたのは、何でなの?
柏木
取り憑かれたって!

んんー‥‥でも、そうですね、やっぱり、
いちばん大きいのは、
「農家さんのカッコよさ」を知ったこと。
──
おお。
柏木
自分の力で食べものを生産してる人って、
ほんと、カッコいいなって思ったんです。

それは、お米農家に限らず‥‥ですけど。
<つづきます>
2017-05-06-SAT