雨が心地よく感じたら、キャンプが好きになった証拠。ゼインアーツの小杉敬さんと糸井重里が夕暮れのキャンプ場で話す。
ほぼ日刊イトイ新聞

ほぼ日のキャンプブランド「yozora」の
最初のプロダクトとなるテント、
「kohaku」の予約販売がいよいよスタートします。

約1年以上をたっぷりかけたこの企画を、
「おお、いいね!」「いよいよだねぇ」と、
すこし遠巻きに応援していたのが糸井重里でした。
そう、糸井重里とキャンプの関係は微妙です。
バーベキューも釣りもおしゃべりも合宿も大好き、
だけど、テントを張って泊まった経験はない。
そんな糸井を秋のキャンプ場に呼んで、
「kohaku」をプロデュースしてくれた
ゼインアーツの小杉敬さんと話してもらいました。

なにを感じるのかなぁ、と自分で自分の反応を
たのしみにしていた糸井重里、
小杉さんとどんな話をしたのでしょうか?

第2回 インスタの登場
糸井
小杉さんはきっと、
キャンプをやったことがない人から
「キャンプのなにがおもしろいんですか?」って
よく訊かれるんじゃないですか。
小杉
はい。
糸井
いろんな答え方があると思うんですけど、
なんて返すことが多いですか?
小杉
初心者の方には、単純に
「美しい自然を見に行く」って、
それだけでもすごくたのしいよって言いますね。
ちょっと慣れた方には、
キャンプだけじゃなくて、
トレッキングやマウンテンバイクや、
それこそ釣りとかを組み合わせることによって、
より自然の奥深さを知ることができますよ、と。
やっぱり、キャンプの楽しみ方って、
その人に応じて変わってくるんですよね。
だから、未経験の方には、月並みですけど、
「空気がきれいだよ」とか
「ごはんがおいしいよ」とか
「自然がきれいで心が洗われるよ」
みたいな話をします。ほんとうにそうですし。
糸井
でも、たとえば東京のような
大都会でそういうことを聞いても、
あまりピンと来ない人もいると思うんですが、
そういう人もキャンプに来ますか?
小杉
いやあ、こういう話をして、
「じゃあ、実際に行ってみよう」
と思うような人って、
そもそも行こうと思ってることが多いです。
糸井
それもそうか(笑)。
小杉
やっぱり都内で、
きれいなオフィス街で働いている人と
話していると、
「いやいや、キャンプとか無理!
虫、絶対無理」みたいなことは言われます。
「でも自然がきれいだよ」と話しても、
そういう人たちは乗ってきてくれないですよね。
糸井
そうでしょうね。
小杉
ただ、最近のキャンプって、
昔ながらのサバイバル感からは
かなり抜けてきているんですよ。
たとえば、今日来たこのキャンプ場自体も、
炊事場はお湯が出たりとか、
トイレはもちろんウォシュレットでとか、
あと売店が充実しているとか、
なにかあったときに助けてくれる
スタッフが常駐していたりとか、
初心者やキャンプが怖いかたにも
やさしい環境が整っていて、
こういうところはどんどん増えています。
糸井
なるほど。
小杉
キャンプの道具なんかも、
すごく進化してるんですよ。
初心者の方でも組み立てやすいように
考えられていますし、
軽さや扱いやすさが追求されています。
なので、「絶対無理!」って言ってる人でも、
ちょっとやってみたら「意外とできるかも」って
感じてもらえるんじゃないかと思います。
あと、インスタグラムとかを見て、
「あの人がやってるんだったら
自分もできるんじゃないか」って思ったりとか、
キャンプをはじめるきっかけ自体も
増えてきているような気がします。
糸井
なるほど。
うちの会社でも同じことが起こっていて、
ほかの人がキャンプに行ってるのを見て
行き始める人が増えてるんです。
最近は、「え、あなたもやるの?」って、
ちょっと意外なような人まで、
いそいそとキャンプ場に通うようになって。
たぶん、入り口がなだらかになったんですね。
小杉
そうだと思います。
とくにコロナ禍のときに
キャンプ人口が増えたこともあって、
いまは以前と比べて
そうとうやりやすいんじゃないでしょうか。
昔って、アウトドアショップとかに行くと、
いわゆる頑固おやじみたいな人が
腕を組んで「なにしに来た」と睨む、
みたいな感じでしたよね(笑)。
糸井
そう、怒られたんですよ(笑)。
小杉
「そんな知識じゃ山に入っちゃいかん!」
みたいなことを言う人が多かったですし。
もちろん、技術と知識と道具を
きちんとそろえておくことは
とても大切なことですが、
日本の場合はとくに、初心者に対して
かなり敷居が高かったと思います。
糸井
外国では違うんですか。
小杉
外国は、少し違うと思います。
日本は、たとえば
「山に登るなら頂上まで行かなきゃいけない」
みたいな、
「こうでなきゃいけない」という空気が、
アウトドア業界全体にわりと根強くあって、
そういうところが、初心者を
入りづらくさせていたところがあると思います。
糸井
ああ、たしかに、
すごくガッツのある人がやるものだと
思ってたかもしれないですね。
小杉
それが、インスタグラムなどの出現によって、
「意外にできるんだな」
「この人もやってる」
「こんなに簡単にできるものなんだな」
っていうことが、だんだん認知されていって。
とくにキャンプに関しては、
気軽にやれるアクティビティというか、
「遊び」という認識になってきましたね。
糸井
そうか。インスタって、つまり、
言葉で説明するんじゃなくて、
実際に「やってまーす」
っていうのが映るわけですもんね。
小杉
まさにそうですね。
インスタの登場で、キャンプやアウトドアの
イメージはかなり大きく変わったと思います。
糸井
はーーー。
たしかに、ことばで説明すると、
専門用語がやたら出てきたり、
先輩の苦労話が多くなったりしがちですけど、
インスタだったら、ただ撮って見せて、
見るほうも「わあ」って感じるだけだから、
ややこしい用語が介在しなくてすむというか。
小杉
そうですね。
インスタのような伝達手段がないときは、
アウトドアの専門家やメディアなどが、
「こうでなきゃいけない」という
ルールやムードをつくっていたと思うんですけど、
インスタができたことで、
「いい写真を載せたい」とか「目立ちたい」とか、
そういう自由な動機と発想で、
キャンプをとらえることが
できるようになったんだと思います。
キャンプをしている人が
じぶんのテントのまわりをデコレーションして、
きれいにまとめたり、かわいらしく演出したり、
ミリタリーでそろえてみたり、
ヴィンテージ調にしたり、
そういう遊び方が浸透したんですよね。
そうしたら、「こうじゃなきゃいけない」という
画一的だった世界がガラガラッと崩れて、
いろんな人たちが入りやすくなった。
糸井
いや、その変化は大きいし、
なによりそっちのほうがおもしろいですねぇ。
小杉
はい。

(つづきます)

2024-01-18-WED

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