雨が心地よく感じたら、キャンプが好きになった証拠。ゼインアーツの小杉敬さんと糸井重里が夕暮れのキャンプ場で話す。
ほぼ日刊イトイ新聞

ほぼ日のキャンプブランド「yozora」の
最初のプロダクトとなるテント、
「kohaku」の予約販売がいよいよスタートします。

約1年以上をたっぷりかけたこの企画を、
「おお、いいね!」「いよいよだねぇ」と、
すこし遠巻きに応援していたのが糸井重里でした。
そう、糸井重里とキャンプの関係は微妙です。
バーベキューも釣りもおしゃべりも合宿も大好き、
だけど、テントを張って泊まった経験はない。
そんな糸井を秋のキャンプ場に呼んで、
「kohaku」をプロデュースしてくれた
ゼインアーツの小杉敬さんと話してもらいました。

なにを感じるのかなぁ、と自分で自分の反応を
たのしみにしていた糸井重里、
小杉さんとどんな話をしたのでしょうか?

第5回 ゼインアーツを起ち上げたのは
糸井
小杉さんご自身は、どういう道のりで
キャンプの世界にたどり着いたんですか。
小杉
ぼくは、学生のころから登山が好きだったんです。
新潟生まれ、新潟育ちなんですが、
新潟のキャンプメーカーに
運よく勤めることができて、
そこで開発を学んでいきました。
糸井
すぐ職業にできたんですね。
小杉
はい。
でも、「そういう道を進みたい」と
はじめから思っていたわけではないんです。
糸井
そうなんですか。
小杉
もともとはデザインの勉強をしていたので、
そっちの世界に行くつもりだったんですが、
たまたま、アウトドアメーカーが
求人を出していたのを見つけて、
「あ、ここ入りたい」って
直感的に思っちゃったんですよ。
アウトドアも趣味としてずっと好きだったので。
登山のギアってこんなに小さくなるんだとか、
こんなものまでつくれるんだみたいな、
生活用品とは違うたのしさもありましたし、
道具に対する興味があったので。
糸井
じゃあ、アウトドアのプロダクトを
すぐにどんどんつくっていった感じですか。
小杉
いえ、なかなか、難しかったです。
それまではグラフィックデザインをやっていて、
立体物はつくったことがなかったので、
ギアの開発は異世界でした。
「ものをつくる」という意味では同じで、
考えるプロセスも似ているので、
わりとスッと入れたんですけど、
やっぱり最初は上手につくれなかったです。
けど、なんか、おもしろかったですね。
糸井
なるほど(笑)。どんなところが。
小杉
なんというか、立体になっていくので。
さわれるものができていく、というのが、
すごくおもしろかったです。
糸井
けっこうな仕事量をなさったでしょう。
いちばん関わったのは、やっぱりテントですか。
小杉
いえ、じつは釣り具なんです。
糸井
えっ。
小杉
そうなんですよ(笑)。
でも、釣り具の世界は追求していくときりがなくて、
ちょっと自分には合わないと感じてました。
糸井
たしかに釣り具はせまく深い感じですからね。
その点、キャンプ用品は
より広い範囲の人々に伝えられそうです。
小杉
はい。
糸井
そこを離れて独立したのは、
どういう動機からですか。
小杉
メーカーで長くものをつくっているうちに、
「ブランドとしてこうあるべき」ということに
自分が縛られているように感じはじめたんです。
そのブランドのイメージや制約に沿って
ものをつくっていくと、どうしても、
既存の製品に寄っていってしまう。
それで、会社をやめて
「ゼインアーツ」を起ち上げたとき、
ブランディングのために製品の間口を
狭めるのはやめようと決めました。
それと、気軽に手にとってもらえる
価格帯であることも含めて、
もっと広く、多くの人たちに
「いいね」って言ってもらえるものをつくりたい。
可能な限り、自分の思うパーフェクトに
近い製品を生み出していきたい。
そこに対する時間は、とにかくかけようと思って
自分のブランドを起ち上げたんです。
糸井
それを実現するための知識や技術は、
それまでにもう身につけてきたから。
小杉
はい、それは大きかったと思っています。
そのときに重要だったのは、
自分ができることよりも、
「ものづくりというのは、
そこまで自由ではない」という、
できないことにしっかり
気づけていたことだったと思うんです。
糸井
あー、なるほど。
小杉
たとえばテントをつくるにしても、
ベースとなるセオリーがあります。
フレームワークではあまり遊べなかったり、
生地にシワの出ない裁断の仕方にも限りがあったり、
やっぱり、基礎となるルールがあるわけですよ。
そこをきちんと理解していると、
「ここは半端に変えちゃいけない」
という保守的な部分と、
「ここをもっと進化させてやろう」
っていう余白の部分が、
自分のなかで振り分けられるようになってきます。
逆に、そこがわかっていないと、
動かしてもどうしようもない部分まで
いじりはじめてしまって、
途方もない時間をかけることになります。
糸井
つくっているものは違いますが、
それはとてもよくわかります。
小杉
もちろん開発ではトライアンドエラーをくり返して、
時間はしっかりかけていくんですが、
セオリーがわかっていれば、
いじるべき部分だけいじればいいので、
スピーディーにできるんです。
ただ、やっぱり、
どこまで自由にできるかを見極める力というのは、
そんなに簡単に習得できるものではなかったですね。
いろいろ考えて考えて、考えたからこそ、
わかってきたということはあります。
糸井
ああ、なるほど。
そういうふうにプロダクトを丁寧につくっていくのは、
独立して、いったん小さい組織になる
ということと相性がよさそうですね。
大きな会社だと、結果がどうあれ、
つぎつぎに新商品を出していかないと
経営が回らないよ、ということがありますが、
自分の思う規模で組織をスタートさせれば、
ひとつの製品をお客さんに提示して
わかってもらう期間がきちんと確保できる。
小杉
はい、はい。
糸井
だから、自分のペースでひとつひとつ
つくっていくことができる。
小杉
ええ、そうなんですけどね、
でも、どうしても‥‥。
糸井
やりたい(笑)?
小杉
はい(笑)。 ある程度、アイディアのストックがあるので、
出していきたいんですよね。
糸井
やりたかったことがあるんだものね。
そりゃ、しょうがないか(笑)。
小杉
今回、ほぼ日さんといっしょに
つくらせてもらったこの「kohaku」というテントも、
以前からやりたかった方向性のものですし。
糸井
これまでになくて、つくりたかったものを、
この機会につくったわけですよね。
小杉
そうですね。
いままでにない新しい発想で、
いいものができたと思います。

(つづきます)

2024-01-21-SUN

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