第2回 存在感のないカメラマン

糸井
2つめの場所ですね。これはどこですか?

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    小鳥
    尾山神社っていう不思議な神社がありまして、
    そこに、アクビちゃんっていう犬と、
    飼い主の津吉さんご夫婦が来てくれました。
    糸井
    撮られている人たちは、
    撮られるとわかっていて撮られているはずなのに、
    そういう感じには写りませんよね。
    小鳥さんご自身の中に、やり方があるんですか?
    小鳥
    威圧感がない‥‥。
    っていうか、存在感がないのかな。
    糸井
    存在感のある人だったら、
    こうは自然に撮れませんね。
    犬でも平気ですよね。
    小鳥
    犬は、全然カメラを見てくれなくて、
    途中で諦めて僕が散歩してました。
    そしたら、最後にカメラを見てくれたんです。
    糸井
    犬の写真は、僕もたくさん撮っているんですけど、
    自分が飼っている犬以外は、
    どの犬を撮っても、他人の目をしているんですよ。
    小鳥
    へぇー。
    糸井
    犬は、自分の家族はもちろん仲間なんだけど、
    家族以外は仲間じゃないから、写真を撮ろうとしても、
    「あぁ、どこかの人ね」っていう目で見るんです。
    小鳥
    この写真もそうですね。
    糸井
    これも、家族が撮る時とは違うんじゃないかな。
    犬って、不思議ですよね。
    群れで生きているから、はじめに会った人に対しては
    異物感みたいなものを感じているみたい。
    小鳥
    そうなんですか。
    糸井
    猫は写真を撮る人間に対しても、
    猫どうしっていう目線をするんです。
    小鳥
    へぇ!
    糸井
    カメラマンの岩合光昭さんの、
    『世界ネコ歩き』を見るとわかるんですけど、
    猫たちは、岩合さんを「大きい猫」だと思ってるんです。
    まあ、岩合さんも這っていたりするんですけど。
    あっ。僕はいま、プロのカメラマンに
    動物写真の撮り方を教えてしまっている。
    小鳥
    ありがとうございます。
    観客
    (笑)
    糸井
    僕は岩合さんに頼まれて、
    犬の写真集の解説を考えたことがあるんですが、
    「猫を撮っている時とは違った、
     犬の他人行儀な視線はなんだろう?」と思いました。
    みんな後ろを向いていたり、横を向いていたり。
    この写真の中で、犬はこっちを向いていますけど、
    「俺はいま、お母さんがいるからね」みたいな顔してる。
    小鳥
    あぁ、本当だ。
    糸井さんは、やっぱり犬派ですか?
    糸井
    いまじゃもう、どっちも好きになったけど、
    自分ちにいるのが犬ですから。
    あ、この写真はなんですか。
    小鳥
    尾山神社の隣に、蒸しパン屋さんがあって、
    それを食べたらすごくおいしかったので。
    糸井
    金沢の人は、「あ、あそこのだ」ってわかるんですか?
    小鳥
    「WATANABEYA!」というお店なんですが、
    あっ。お客さんも、うなずいてくれてます。
    もともと撮影する予定じゃなかったんですけど。
    糸井
    こういう写真って意味がないようにも見えるけど、
    撮っておくと、後で見た時にすごく楽しいですね。
    小鳥
    そうですね。
    今回はメジャーな観光地ではなくて、
    「金沢の『裏の』おすすめの場所を教えてください」
    とお願いしていたんです。
    地元の人がすすめる場所で撮りたいと思って。
    糸井
    「撮られたい」と言ってくださった皆さんが、
    教えてくれた場所も入ってるんですか。
    小鳥
    はい! 入ってます。
    次の写真は、東京からやってきたご家族が行きたいと
    おっしゃった「グリルオーツカ」さんっていうお店です。

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      小鳥
      糸井さん、「ハントンライス」って食べたことありますか?
      糸井
      ひょっとして、卵に海老をのせたものでしょうか?
      小鳥
      はい。それです。
      糸井
      さっき、お蕎麦屋さんで「ハントン蕎麦」というのを、
      僕の目の前にいた人が食べていました。
      オムレツみたいな卵に、海老フライを乗せた蕎麦です。
      僕は食べませんでしたけど、
      うーん。正直、あまりうらやましくなかった‥‥。
      観客
      (笑)
      小鳥
      ハントンライスは金沢の名物ですが、
      「ハン」がハンガリー、「トン」がマグロらしいです。
      糸井
      えっ、「トン」は豚じゃなくて?
      マグロも「トン」っていうんですか?
      観客
      白身魚のフライです。
      糸井
      「トン」っていったら、ふつうは豚ですよね。
      そしたら、白身魚のフライはトンカツになっちゃうよ。
      観客
      (笑)
      糸井
      みなさん、これを当たり前に食べているわけですね。
      いやあ、僕はハントン蕎麦より
      ハントンライスのほうが食べたいな。
      小鳥
      この3兄弟は、東京からご家族で来られたんです。
      2時半に待ち合わせたんですけど、
      ハントンライスを食べたいということで、
      すごくおなかを空かせて待っていてくれました。
      おなか空いているから、ちょっと不機嫌なんです(笑)。
      糸井
      金沢で撮影するっていうのに、
      東京から応募しちゃったんですね。
      小鳥
      車で6時間だそうです。
      糸井
      ああ、なかなかの距離ですね。
      小鳥
      そして、お昼を食べたあとに近江町市場へ行きました。

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        糸井
        市場での、なんでもない写真。
        本当に、いい感じで撮れてますね。
        「プロだからね」と言ったらそれまでだけど、
        存在感を消す以外に、考えていることありますか。
        どういう時に「いいな」と思って撮っているんですか?
        正解を求めている感じがしないんですけど。
        小鳥
        そうですね‥‥。なんにも考えてないですね。
        糸井
        なにも考えてない?
        小鳥
        はい。考えると、ダメじゃないですか。
        糸井
        でも、「いいな」とは感じているわけですね。
        小鳥
        そうです。「いいなぁ」って。
        糸井
        じゃあ、「いいなぁ」ごとに、
        シャッターを押しているということですか?
        小鳥
        はい。そうですね。
        糸井
        はぁ、いいなぁ、いいなぁ。本当にいいなぁ。
        それもいいなぁ。マツタケいいなぁ。
        あれもいいなぁ。食べてる人、いいなぁ。
        小鳥
        はい。
        糸井
        あぁ、そうか!
        みんながカッコつけて決めにいってしまうのを、
        小鳥さんはしていないということか。
        ほほえむ代わりにシャッターを押していると。
        小鳥
        あっ! それ、いただきます。
        観客
        (笑)
        糸井
        でも、本当にそうですよね。わかった気がします。
        たとえば空を見ても、ほほえむ代わりに
        シャッターを押しているっていうのは。
        小鳥
        あぁ、「ほほえむ代わりにシャッターを押す」。
        糸井
        そういうサブタイトルの写真集がつくれそうだね。