第5回前を向いて、立ち止まる。
- 小谷野
- あと、僕は
「見られてる」って思うと緊張するので、
なるべく、自分から相手を見るようにしています。
- 金沢
- ああ。
お会いした時から、
すごく目を見て話をされるなと思ってました。
- 小谷野
- 大勢の中で、向こうに見られてるんだっていう、
受け身になった時点で、
もう精神的に、ワッてなるじゃないですか、僕らって。
だから、「自分から」見るんです。
- 金沢
- なるほど。
受け身にならず、自分から行く。
- 小谷野
- 「全部見てるぞ」って気持ちで行くようにしてます。
そうしたら、その時点で、
自分の中で空気を変えれるんですよ。
- 園田
- あぁ。
- 小谷野
- そう。だから、見るようにしてます、こうやって。
- 園田
- なるほど(笑)。
- 小谷野
- 打席に立つ時には、観客席を一周見るんですけど、
観客全員を見ておこうって思って(笑)。
「ちゃんと見てるぞ!」って。
- 金沢
- ああ、すごい、今、
野球中継で見たことある顔になった(笑)。
- 小谷野
- 本当にそういう想いでやってますね。
- 金沢
- 全員見て、「俺がやってやるぞ」って。
- 小谷野
- 「俺が見てる」わけだから、
見られてる感、ないじゃん。
自分から見るのって、いいですよ。
- 金沢
- 実践したいと思います(笑)。
- 園田
- ちょっと話変わるんですけど、
パニック障害になった時、
「無駄な時間を過ごした」とか、
「遠回りしちゃった」とかで、
落ち込んじゃう人って、多いと思うんですよね。
- 小谷野
- あぁ、はい。
- 園田
- 「あ、遠回りしてる」
って思った瞬間とかってありますか?
- 小谷野
- 「今、何してるんだろう?」
っていうような時は、ありましたよ。
でも、順序追って1つずつできるように
クリアしていったら、
別にマイナスになってないじゃないですか。
立ち止まるだけっていうか。
- 園田
- あぁ。はい。
- 小谷野
- わかります? 言いたいこと。
言葉足りなかったらすいません。
- 園田
- いえ、わかります。
- 小谷野
- 下がってないんですよ。
立ち止まっているのは、休息なんで。
だから、前に進むための休息時間だと
思うようになりました。
- 園田
- なるほど‥‥。
- 小谷野
- 慌てて「前に進まなきゃ」って思うと
「ヤバい、どんどんダメになってる」みたいになるけど、
立ち止まって休息してると思ったら、
ずっとその場所にいられるんです。
- 金沢
- うんうんうん。
- 小谷野
- だから、休息が長くても、別に全然大丈夫なんですよ。
慌てないことです。
そうしたら、いつか前を向けるから。
- 園田
- なかなか、そういう風に思えなくて前を向けない人も、
たくさんいると思うんですけども‥‥。
- 小谷野
- そうですね‥‥。僕の場合は、
僕よりも重い病気、末期がんだった、
加藤渓くんに出会ったのが大きかったです。
2007年のオープン戦の合間、
「野球の好きな幼稚園児がガンで自宅療養をしている。
会いに行って激励して欲しい」って依頼があったんです。
まだパニック障害から立ち直ってもいなかったし
すごく迷ったんですけど、
「少しでも役に立てるなら」と思って、
加藤渓くんの自宅を訪問したんですよ。
- 園田
- はい。
- 小谷野
- 僕が初めて訪れた時は、本当に末期と言われ、
体も動かないような状態でした。
でも、そこから半年後、1年後と奇跡的な回復をして、
自力で歩けて、声が出せるまでになったんです。
渓くんが小さな体で一生懸命生きようとしていて、
「僕はこの子に顔も合わせられない‥‥」
って思いました。
「前を向けるような人間になってから、
もう一度会いたい」って強く思えたんで、
彼との出会いが大きかったですね。
「自分だけが大変じゃない」ことを知るって、
やっぱり大事かなと思います。
- 園田
- なるほど。
- 小谷野
- 他人にわかってもらいたいとか、
理解してもらいたいって思う人が
たぶん大半だと思うんですけど、
わかってもらうには、
少しでも前を向いて、
自分ってものを知ってもらうような行動に出たら、
勇気を持てるというか、
自分自身が変わるんじゃないですかね。
- 金沢
- パニック障害を公表するのも、
とても勇気が要ることだと思うんですけども。
- 小谷野
- いや、それは本当はね、
相談してたスポーツ記者に裏切られたんですよ(笑)。
まだ不安定だった年、
僕は1年間やり切ってから言いたかったんですけど、
それが、1本ホームラン打っただけで、
「完全復活!」って記事に書かれちゃったんですよ。
- 一同
- (笑)
- 小谷野
- 「ウッソーッ! 待ってくれや!」って(笑)。
でも、「あ、ここで、怒るのは簡単だけど、
『ありがとう』って言っとこう」と思って。
- 金沢
- おお。
- 小谷野
- 「もう覚悟決まったわ。ありがとう」
とか言って。
「まいったな」と思いながらも、
「ありがとう」って(笑)。
- 金沢
- 受け入れたというか、
それで腹をくくれた、ってことですかね。
- 小谷野
- そのときは、
どんなに吐いて倒れても、やるって決めてたから、
「まぁいいや」と思って。
でも、結果として、そのおかげで
多くの人が僕のことを知ってくださったから、
公表してよかったんですよね。
結局、自分1人で乗り越えられたわけじゃないんで。
公表して、いろんな方の助けをいただけたからこそ
今の自分があるんだと思います。
(つづきます)
2018年7月16日(月)