黒柳 | そのサーカスのオープニングでは、 日本の三つ折り屏風のような形をした 大きな「キオ」と書いたついたてを 美女が5、6人でばーっと持っていきます。 それを舞台の真ん中でぐるぐるぐるぐる回して、 「これは、ただのついたてですね」 ってやるわけ。 そして、3つにたたむんです。 「今日のお客さんは日本から来た テツコクロヤナギです!」 という声で屏風を開けると、その真ん中に、 わたしがいる、という仕掛けなんです。 |
糸井 | はい、はい、そりゃすごい。 |
黒柳 | 3つにたたんだときの屏風の幅は、 3センチもないんですから、 人間は絶対に入れないの。 ですからまあ、下から出るんですけどね。 力持ちの人がポーン! と わたしを垂直に放り投げるの。 |
糸井 | そうなんですか! |
黒柳 | ぞうり履いて帯締めたまんま、 ポーンと上にあがって、着地するときは、 自分が上がってきた穴に落っこちないように、 瞬間的に足をひろげるの。 下でコンクリートのフタが閉まりますから。 「普通はできない」って、キオは驚いてました。 やっぱり度胸がいるんです。 ポンと投げられたときに、 体を硬直させて縦に飛んでいって、 着地でパッと足を広げることは。 運動靴かなんかならできますけど、 たび履いてぞうり履いてるから、大変なのよ。 それは、自分でも、すごいなと思いました。 |
糸井 | 振袖でねぇ。 |
黒柳 | そうとうの運動神経よ。 |
一同 | (笑) |
糸井 | 骨密度は高いわ、 |
黒柳 | 敏捷だわ。 言うことない。 わたしはほんとうは、 あれになりたかったんですよ。 |
糸井 | サーカスをやりたかった? |
黒柳 | ちがいます。 |
糸井 | あ、ライオンになりたかった? 細いから。 |
黒柳 | ちがいます。 フッ(笑)、ライオンになりたかったんなら、 そりゃ、子どもの考えじゃないの。 小さい頃、わたしはニュースで オリンピックのあれを見たんです、あの、 こうやって跳ぶ‥‥ |
観客 | (ハードル、ハードル) |
黒柳 | そうそう、ハードルです。 クン夫人というオランダの選手がいまして、 (1948年のロンドンオリンピック出場) オリンピックで4つも金メダルを取りました。 その人が、パーッて足広げて ハードル跳んでいる姿を見たんですよ。 |
糸井 | はい。 |
黒柳 | また次に行くと、パーって跳ぶ。 |
糸井 | そりゃそうですよ(笑)。 |
黒柳 | それをニュースで見ちゃって、 「もう自分の将来は、あれかなぁ」なんて、 すごーく思ったんです。 ところが、校長先生に聞いてみると、 そういう道具はうちの学校にはない、 って言うのよ。 |
糸井 | 跳ぶやつが、当時の学校には。 |
黒柳 | いくらなんでも、 鉄棒は跳べないでしょ? 高くて。 どんなにわたしが「ないのかなぁ」と 思っていても、 先生たちは道具を作ってくれそうもないので、 あきらめちゃいました。 でも、ハードルは よっぽど足が平らに広がらないとダメですから、 やらないでよかったと思います。 ただひとつね、わたし、 日本中の人が誰も、できないことが できるんですよ。 |
糸井 | まだなにかあるんですか! |
黒柳 | ふふふ。 |
糸井 | それは、つまり自慢‥‥ですか? |
一同 | (笑) |
黒柳 | これは、自慢していいんです。 水泳の木原光知子さんも すごいって言ったんですから。 あのね、わたしは、水中ヨガができるんです。 |
糸井 | 水中ヨガ。 |
黒柳 | ある時期、名高達男さんがCMで 「オリンピックにはないけどすごい競技」 というのに挑戦してらして、 頭の上で岩をぐるぐる回したり、 マサイ族みたいにぴょんぴょん跳ねたり してらしたんです。 |
糸井 | アリナミンの広告ですね。 |
黒柳 | そうそう。そのシリーズのひとつなんですけど、 インドのお坊さんが、 プールかどこかでヨガをしてるの。 |
糸井 | インドの行者が。 |
黒柳 | 耳のところまで水につかって、 ヨガの格好で、手をくんで、 座禅みたいなポーズで浮いてるわけ。 それをCMで名高さんがやろうとするんだけど、 ぶくぶくぶくぶく、瞬間的に沈んじゃうんです。 そのお坊さんは名高さんのことを見て 「はっはっは」と笑ってました。そして、 「この人は10年間 水中ヨガの練習をしたのです」 なんて、画面に書いてありました。 |
糸井 | そういえば そんなコマーシャルでしたね。 |
黒柳 | 名高さんが沈んだのを見て、その人が 「はっはっは」と、とても笑うもんだから、 これってそんなに難しいもんなんだろうか、 と思いましてね、 その当時、うちにはプールがあったんで、 やってみたら、すぐできたの、わたし! |
一同 | (笑) |
黒柳 | もう笑っちゃうくらい、すぐできたの! わたしはヨガはできないので、 手で足を力まかせにグーッと引っ張って、 あのおじいさんはどうやったのかなぁ、 と思って浮いたらば、できたから 「なんでこれが?」と。 |
糸井 | 普通はたぶんできませんよ。 |
黒柳 | そうすると、立ち上がって見た母がね‥‥ 母も変わっててね、 「あなた、それで本読んでみたら」 「ビスケット食べてみない?」 とか言いはじめて、わたしに いろいろなことをさせようとするんです。 |
一同 | (笑) |
黒柳 | 「こんなの誰でもできると思わない?」 って言ったら、母は「そうねぇ」って。 そこに弟が遊びにきたので、 弟にやらせてみました。 そうしたらやっぱり、瞬間的に沈んだの。 やっぱり沈むんだ、 そうだ、名高さんも沈んでた、と 思い出しました(笑)。 |
2008-09-09-TUE