黒柳さんが話した、 黒柳さんのこと。こんな話は、二度と聞けないと思って。


第7回 自慢していい技がある。
黒柳 そのサーカスのオープニングでは、
日本の三つ折り屏風のような形をした
大きな「キオ」と書いたついたてを
美女が5、6人でばーっと持っていきます。
それを舞台の真ん中でぐるぐるぐるぐる回して、
「これは、ただのついたてですね」
ってやるわけ。
そして、3つにたたむんです。
「今日のお客さんは日本から来た
 テツコクロヤナギです!」
という声で屏風を開けると、その真ん中に、
わたしがいる、という仕掛けなんです。
糸井 はい、はい、そりゃすごい。
黒柳 3つにたたんだときの屏風の幅は、
3センチもないんですから、
人間は絶対に入れないの。
ですからまあ、下から出るんですけどね。
力持ちの人がポーン! と
わたしを垂直に放り投げるの。
糸井 そうなんですか!
黒柳 ぞうり履いて帯締めたまんま、
ポーンと上にあがって、着地するときは、
自分が上がってきた穴に落っこちないように、
瞬間的に足をひろげるの。
下でコンクリートのフタが閉まりますから。
「普通はできない」って、キオは驚いてました。
やっぱり度胸がいるんです。
ポンと投げられたときに、
体を硬直させて縦に飛んでいって、
着地でパッと足を広げることは。
運動靴かなんかならできますけど、
たび履いてぞうり履いてるから、大変なのよ。
それは、自分でも、すごいなと思いました。
糸井 振袖でねぇ。
黒柳 そうとうの運動神経よ。
一同 (笑)
糸井 骨密度は高いわ、
黒柳 敏捷だわ。
言うことない。
わたしはほんとうは、
あれになりたかったんですよ。
糸井 サーカスをやりたかった?
黒柳 ちがいます。
糸井 あ、ライオンになりたかった?
細いから。
黒柳 ちがいます。
フッ(笑)、ライオンになりたかったんなら、
そりゃ、子どもの考えじゃないの。
小さい頃、わたしはニュースで
オリンピックのあれを見たんです、あの、
こうやって跳ぶ‥‥
観客 (ハードル、ハードル)
黒柳 そうそう、ハードルです。
クン夫人というオランダの選手がいまして、
(1948年のロンドンオリンピック出場)
オリンピックで4つも金メダルを取りました。
その人が、パーッて足広げて
ハードル跳んでいる姿を見たんですよ。
糸井 はい。
黒柳 また次に行くと、パーって跳ぶ。
糸井 そりゃそうですよ(笑)。
黒柳 それをニュースで見ちゃって、
「もう自分の将来は、あれかなぁ」なんて、
すごーく思ったんです。
ところが、校長先生に聞いてみると、
そういう道具はうちの学校にはない、
って言うのよ。
糸井 跳ぶやつが、当時の学校には。
黒柳 いくらなんでも、
鉄棒は跳べないでしょ? 高くて。
どんなにわたしが「ないのかなぁ」と
思っていても、
先生たちは道具を作ってくれそうもないので、
あきらめちゃいました。
でも、ハードルは
よっぽど足が平らに広がらないとダメですから、
やらないでよかったと思います。
ただひとつね、わたし、
日本中の人が誰も、できないことが
できるんですよ。
糸井 まだなにかあるんですか!
黒柳 ふふふ。
糸井 それは、つまり自慢‥‥ですか?
一同 (笑)
黒柳 これは、自慢していいんです。
水泳の木原光知子さんも
すごいって言ったんですから。
あのね、わたしは、水中ヨガができるんです。
糸井 水中ヨガ。
黒柳 ある時期、名高達男さんがCMで
「オリンピックにはないけどすごい競技」
というのに挑戦してらして、
頭の上で岩をぐるぐる回したり、
マサイ族みたいにぴょんぴょん跳ねたり
してらしたんです。
糸井 アリナミンの広告ですね。
黒柳 そうそう。そのシリーズのひとつなんですけど、
インドのお坊さんが、
プールかどこかでヨガをしてるの。
糸井 インドの行者が。
黒柳 耳のところまで水につかって、
ヨガの格好で、手をくんで、
座禅みたいなポーズで浮いてるわけ。
それをCMで名高さんがやろうとするんだけど、
ぶくぶくぶくぶく、瞬間的に沈んじゃうんです。
そのお坊さんは名高さんのことを見て
「はっはっは」と笑ってました。そして、
「この人は10年間
 水中ヨガの練習をしたのです」
なんて、画面に書いてありました。
糸井 そういえば
そんなコマーシャルでしたね。
黒柳 名高さんが沈んだのを見て、その人が
「はっはっは」と、とても笑うもんだから、
これってそんなに難しいもんなんだろうか、
と思いましてね、
その当時、うちにはプールがあったんで、
やってみたら、すぐできたの、わたし!
一同 (笑)
黒柳 もう笑っちゃうくらい、すぐできたの!
わたしはヨガはできないので、
手で足を力まかせにグーッと引っ張って、
あのおじいさんはどうやったのかなぁ、
と思って浮いたらば、できたから
「なんでこれが?」と。
糸井 普通はたぶんできませんよ。
黒柳 そうすると、立ち上がって見た母がね‥‥
母も変わっててね、
「あなた、それで本読んでみたら」
「ビスケット食べてみない?」
とか言いはじめて、わたしに
いろいろなことをさせようとするんです。
一同 (笑)
黒柳 「こんなの誰でもできると思わない?」
って言ったら、母は「そうねぇ」って。
そこに弟が遊びにきたので、
弟にやらせてみました。
そうしたらやっぱり、瞬間的に沈んだの。
やっぱり沈むんだ、
そうだ、名高さんも沈んでた、と
思い出しました(笑)。
サーカスに水中ヨガ、ときまして、また次回につづきます!

2008-09-09-TUE



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