黒柳 | シンシンは引っ込み思案でしたが リンリンのほうはすごかった。 パンダの部屋では、植木鉢に竹を植えて インテリアにしてたみたいなんだけど、 全部抜いちゃって、 床なんかドロンドロンになってる。 で、リンリンは、空いた植木鉢に、なんと 自分が入ろうとしていました。 そのとき、わたしはカメラを持ってたんですけど、 帰ってきて現像したら、 植木鉢ばっかり写ってたのよ。 なんでだろう? と思ったら、 リンリンが植木鉢の中に入って、 カップケーキのようになろうとしてたわけです。 |
糸井 | リンリンが(笑)。 |
黒柳 | なかなか入れなかったんだけど、 「とうとう入った!」という瞬間があって、 それをわたしがカメラで何枚も 撮っていたというわけです。 よーく見ると、中にリンリンがいました。 |
糸井 | はぁああ。 |
黒柳 | 泥んこになりながら、 ついにカップケーキになった。 そうとう苦しい状態だと思うんだけど ずーっとそのままになってました。 それが「成功!」って、 自分で思うのね。 そこがほかの動物とはちがう、 すごく変わったところだと思います。 |
糸井 | いやぁ、それはそうですねぇ。 |
黒柳 | でんぐり返ししても、 まっすぐくるんといかないと、 「しっぱいー」って頭かいて、笹食べて、 また行って、でんぐり返しして、 失敗して、笹食べて、 「しっぱいー」って頭かいて戻ってくるの。 だけど、くるんと回れたら、 「できました」と自分で満足して、 そこででんぐり返しを終えます。 なぜ「これがいい」と 自分で思うのか、そこがわからない。 |
糸井 | 野生のパンダも、きっと そういうことをしてるんでしょうね。 |
黒柳 | パンダは、1年ぐらいで 親と離れるらしいんです。 山の中で、ひとりで遊びを考えて 自分で遊んでるんでしょうね。 |
糸井 | 遊びばっかりしてると 普通は滅びちゃったりしちゃいますよねぇ。 |
黒柳 | ええ。 |
糸井 | でも、パンダたちは、 遊んでばかりでも、滅びなかったんですね。 |
黒柳 | 上野動物園にいたカンカン、ランランも 遊びがすごく上手だったんですよ。 あそこの檻の中に 大きなタイヤが鎖でつながってたのを 写真か何かでごらんになった方も いらっしゃると思います。 そのタイヤを、あの子たちは ブンと向こうに放って、 そのあいだに自分がでんぐり返しするんです。 |
糸井 | はい。 |
黒柳 | おしりが向こうに向いてるとき、 タイヤが戻ってきて、ボンってぶつかると 自分が逆にでんぐり返しして、 「はぁー、できた」 とか思うわけです。 |
糸井 | ほう。 |
黒柳 | だけど、たいていは、 でんぐり返ししてるあいだに タイヤがスーッと通り過ぎちゃったりするんです。 そうすると「しっぱいー」となっちゃうわけ。 そのたびに頭をかいたりして。 |
糸井 | 頭をかくのは、その都度やるんですか。 |
黒柳 | うん、だいたいね。 上海雑技団にウェイウェイという名前のパンダが いたんですけど、 あの子なんてもっとすごいんです。 まずはサーカスで芸事を「やらされてる」という 感じじゃないの。 |
糸井 | うん、うん。 |
黒柳 | ウェイウェイは、ひとりでおすべりを上がって、 すべってくるんです。 「ウェイウェイ、やんなさい」と言われると、 まず、すべり台の下のほうに歩いていって、 上をキョロキョロ見るんです。 それで、しばらく「ウーン」と考えるの。 |
糸井 | ははははは。 |
黒柳 | 「この階段をのぼっていくの、どうしようかなぁ」 なんて思ってるのかしらね、 頭をかいたりしてるんですけど、 そのうち、のぼるんですよ。 「やらされてる」というんじゃないの、 自分で「のぼろう」と思ったときに、 のぼるわけです。 しかも、「ちゃんとすべろう」という 気があるから、いい加減には座んないわけ。 お尻をぐいぐいぐいぐいやって、 ぐいぐいやってるうちに スーッてすべちゃって‥‥‥ |
糸井 | 「しっぱいー」(笑) |
黒柳 | そう。すごい憤慨してねぇ。 |
観客 | (笑) |
黒柳 | 身軽なもんだから、 おすべりの坂の途中で立ちあがっちゃって、 タッタッタッて、走って降りるんですよ。 |
観客 | (爆笑) |
黒柳 | 下に降りたら、またぐるっと回って 上見て頭かいて、階段をのぼるんだけど、 体重の関係でしょうね、 まだ自分が用意してないうちに、 すべっちゃって。 「ワー」と、なっちゃうじゃない? |
観客 | (笑) |
黒柳 | 見ているわたしたちはそれがかわいいんだけど、 本人はすごくイヤなのね。 すべり台の途中で立ち上がって降りるというのは そうとうなことだと思います。 |
糸井 | うん、うん(笑)。 |
黒柳 | 最終的には、おしりをちゃんと入れて、 スーーーーッと滑る。 そうしたら、「成功」で、 それ以上はやりません。 |
糸井 | ほう。 |
黒柳 | すごいでしょ? それを見たときにね、 ああ、このウェイウェイは、 やらされてるんじゃない、 好きでやってるんだ、って思いました。 |
糸井 | うーん、すごいなぁ。 |
黒柳 | 最後には、ラッパみたいなものを持って、 「プーッ」とかいいながら、 犬が引っ張った車に乗って出てきます。 まぁ、ラッパの音は、偽物なんですけどね。 |
糸井 | うん(笑)。 |
黒柳 | そのときは、べつにぜんぜん愛想もなく スッと引っ込んで行きます。 |
糸井 | それはもう、 「オレはオレでやってるから」 ってことですね。 |
黒柳 | そう。 あのパンダの引っ込みを見たときにね、 わたしも、舞台だか番組だかに出て 最後にずるずるするの、 やめようと思いました。 |
糸井 | はははは。 |
黒柳 | 「パンダを見よ」と。 |
糸井 | サッとね。 |
黒柳 | そう、サッと。 なんの未練もなく。 |
観客 | (笑) |
黒柳 | どんなに拍手があっても 手を上げたりいろんなことしたりしないで、 プーッとやりながら、 去っていくことにしました。 |
糸井 | ははははは。 |