たまねぎアメと 森繁パンダ。 〜黒柳徹子さんのお話〜

第8回 笹を食べよう、前座だし。
黒柳 いまは、動物愛護の観点から、
上海雑技団にはパンダはいないらしいんです。
でもね、わたしがそこで
もっとも気になったのは
パンダじゃないんです。
糸井 なんなんですか?
黒柳 そのときわたしは、
雑技団の団長さんに会いに行きました。
舞台裏で、パンダは
大きなトレーラーに乗っていました。
糸井 うん。
黒柳 その奥の檻には、サルが入ってました。
サルは檻の中で、みんな、
手に笹を持って食べてるんですよ?
糸井 ‥‥笹を。
黒柳 すごく不思議に思ったので、
団長さんに
「サルって笹食べるんですか?」
と訊いてみました。
「いや、普通は食べないです」
「どうして、この子たちは笹食べてるんですか?」
糸井 どうして食べてるんだ?
黒柳 ここがサルのすごいところですよ。
そのサルたちは、はっきり言うと、
前座なんですよ、パンダの。
糸井 ‥‥‥(笑)、うん、
前座、前座。
黒柳 その子たちは、
パンダとおなじトレーラーの奥から、
お客さんが見学に来るたびに
「おお、これがパンダですか、ほう」
と言うのをいちいち見ていたんでしょう。
「あいつはどうも偉いらしい。
 あいつは笹を食べる。
 だから、自分たちも食べよう」
そう思ったんでしょうね。
観客 (笑)
黒柳 だから、サルたちは団長さんに、
俺たちにも笹を
くれくれくれくれ、言うんですって。
で、「渡してみたら、ああやってるんです」
と団長さんは言うわけ。
糸井 はい(笑)。
黒柳 おいしいかどうかは別として、
そうしていると自分たちも
パンダのようにみんなから
「おおーっ」と言ってもらえると
思ったのよねぇ。
そのときにわたしは
「サルって‥‥」と思いました。
糸井 サル知恵‥‥。
黒柳 ええ‥‥。
観客 (笑)
黒柳 それで、わたしはサルたちに、
「かわいいわよ、すごいわよ」
って言ってあげたの。
その子たちが本番で
何するかっていうと‥‥フッ(笑)、
サルたちは芸を持っているというのに、
頭にパンダのお面をかぶって、
3匹ぐらいでチャッチャッチャッチャ、
立って歩くんですよ。
糸井 ニセパンダ。
黒柳 うん。前座だから。
観客 (笑)
黒柳 つまり「これからパンダが出ますからね」
というメッセージなんでしょうね。
だけど、サルたちの芸はすごいのよ。
ギッコンバッタンの片っぽに乗って
反動でぽーんと飛んで、
背中に乗ったりするの。
そんなすごい芸ができるのに。
糸井 あるのに。
黒柳 お客さんはみんな、早くパンダを見たいから、
「ほらどいて」「はいはいはい」
みたいな態度でねぇ。
でも、すごいの、
その子たちは、芸としては。
糸井 ははははは。
黒柳 ただ自分たちの
立場に‥‥フッ(笑)、ちょっとどこか、
「あのように偉大にはなれない」
という気持ちがあるのよ。
だったらお近づきに、笹も食べてみる。
糸井 いじらしいですね。
黒柳 そうですよ。いじらしい。
「あんたたち、ほんとかわいいわね」
って、うんと言ってやりましたよ、もちろんね。
糸井 だけど‥‥パンダはサルに対しては。
黒柳 いやぁ、そんなのぜんぜん気にしてない。
糸井 スターだからね。
黒柳 だけどウェイウェイは、拍手が
まんざらきらいではないように思いました。
糸井 人がよろこんでるってことは
動物もうれしいんですよね。
黒柳 もうそりゃ。
そのことは、わたし
上野動物園のアライグマのおかげで、
はっきりわかりましたよ。
糸井 アライグマが。
黒柳 あるとき、上野動物園のアライグマが、
なんだかいじけて
壁のほうに寄っかかってたんです。
「どうしたの?」と思いましたらね。
糸井 はい。
黒柳 子どもたちがみんな、ぞくぞくと
「アライグマぁぁー」って来るわけ。
糸井 あ、人気なんだ。
黒柳 ところが、「ラスカルー」と言いながら
ピューっと右のほうに行っちゃうんですよ。
右前方にはレッサーパンダがいたんです。
糸井 はいはい、はいはい。
黒柳 当時「あらいぐまラスカル」というアニメが
とっても人気でした。
あの絵のモデルは、アライグマじゃなくて
レッサーパンダだったんですよ。
糸井 残念ですね、それ‥‥。
黒柳 うん‥‥。
そのとき、わたしはアライグマのようすを
見ていました。
子どもたちが「アライグマぁー」って来ると、
壁にへばりついてたアライグマが
「はいはい!」というふうにするわけです。
だけど「ラスカルー」って、向こう行っちゃうと、
すっごくがっかりしてるの。
それを見てね、わたしは、
ああ、やっぱり動物というのは、
評価されるのが好きなんだなと思いましたよ。
ほんとにそう思った。
糸井 うん‥‥。
サルもアライグマも、なんだか哀愁が。 まだまだつづくよ!
2010-04-01-THU
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