黒柳 | いまは、動物愛護の観点から、 上海雑技団にはパンダはいないらしいんです。 でもね、わたしがそこで もっとも気になったのは パンダじゃないんです。 |
糸井 | なんなんですか? |
黒柳 | そのときわたしは、 雑技団の団長さんに会いに行きました。 舞台裏で、パンダは 大きなトレーラーに乗っていました。 |
糸井 | うん。 |
黒柳 | その奥の檻には、サルが入ってました。 サルは檻の中で、みんな、 手に笹を持って食べてるんですよ? |
糸井 | ‥‥笹を。 |
黒柳 | すごく不思議に思ったので、 団長さんに 「サルって笹食べるんですか?」 と訊いてみました。 「いや、普通は食べないです」 「どうして、この子たちは笹食べてるんですか?」 |
糸井 | どうして食べてるんだ? |
黒柳 | ここがサルのすごいところですよ。 そのサルたちは、はっきり言うと、 前座なんですよ、パンダの。 |
糸井 | ‥‥‥(笑)、うん、 前座、前座。 |
黒柳 | その子たちは、 パンダとおなじトレーラーの奥から、 お客さんが見学に来るたびに 「おお、これがパンダですか、ほう」 と言うのをいちいち見ていたんでしょう。 「あいつはどうも偉いらしい。 あいつは笹を食べる。 だから、自分たちも食べよう」 そう思ったんでしょうね。 |
観客 | (笑) |
黒柳 | だから、サルたちは団長さんに、 俺たちにも笹を くれくれくれくれ、言うんですって。 で、「渡してみたら、ああやってるんです」 と団長さんは言うわけ。 |
糸井 | はい(笑)。 |
黒柳 | おいしいかどうかは別として、 そうしていると自分たちも パンダのようにみんなから 「おおーっ」と言ってもらえると 思ったのよねぇ。 そのときにわたしは 「サルって‥‥」と思いました。 |
糸井 | サル知恵‥‥。 |
黒柳 | ええ‥‥。 |
観客 | (笑) |
黒柳 | それで、わたしはサルたちに、 「かわいいわよ、すごいわよ」 って言ってあげたの。 その子たちが本番で 何するかっていうと‥‥フッ(笑)、 サルたちは芸を持っているというのに、 頭にパンダのお面をかぶって、 3匹ぐらいでチャッチャッチャッチャ、 立って歩くんですよ。 |
糸井 | ニセパンダ。 |
黒柳 | うん。前座だから。 |
観客 | (笑) |
黒柳 | つまり「これからパンダが出ますからね」 というメッセージなんでしょうね。 だけど、サルたちの芸はすごいのよ。 ギッコンバッタンの片っぽに乗って 反動でぽーんと飛んで、 背中に乗ったりするの。 そんなすごい芸ができるのに。 |
糸井 | あるのに。 |
黒柳 | お客さんはみんな、早くパンダを見たいから、 「ほらどいて」「はいはいはい」 みたいな態度でねぇ。 でも、すごいの、 その子たちは、芸としては。 |
糸井 | ははははは。 |
黒柳 | ただ自分たちの 立場に‥‥フッ(笑)、ちょっとどこか、 「あのように偉大にはなれない」 という気持ちがあるのよ。 だったらお近づきに、笹も食べてみる。 |
糸井 | いじらしいですね。 |
黒柳 | そうですよ。いじらしい。 「あんたたち、ほんとかわいいわね」 って、うんと言ってやりましたよ、もちろんね。 |
糸井 | だけど‥‥パンダはサルに対しては。 |
黒柳 | いやぁ、そんなのぜんぜん気にしてない。 |
糸井 | スターだからね。 |
黒柳 | だけどウェイウェイは、拍手が まんざらきらいではないように思いました。 |
糸井 | 人がよろこんでるってことは 動物もうれしいんですよね。 |
黒柳 | もうそりゃ。 そのことは、わたし 上野動物園のアライグマのおかげで、 はっきりわかりましたよ。 |
糸井 | アライグマが。 |
黒柳 | あるとき、上野動物園のアライグマが、 なんだかいじけて 壁のほうに寄っかかってたんです。 「どうしたの?」と思いましたらね。 |
糸井 | はい。 |
黒柳 | 子どもたちがみんな、ぞくぞくと 「アライグマぁぁー」って来るわけ。 |
糸井 | あ、人気なんだ。 |
黒柳 | ところが、「ラスカルー」と言いながら ピューっと右のほうに行っちゃうんですよ。 右前方にはレッサーパンダがいたんです。 |
糸井 | はいはい、はいはい。 |
黒柳 | 当時「あらいぐまラスカル」というアニメが とっても人気でした。 あの絵のモデルは、アライグマじゃなくて レッサーパンダだったんですよ。 |
糸井 | 残念ですね、それ‥‥。 |
黒柳 | うん‥‥。 そのとき、わたしはアライグマのようすを 見ていました。 子どもたちが「アライグマぁー」って来ると、 壁にへばりついてたアライグマが 「はいはい!」というふうにするわけです。 だけど「ラスカルー」って、向こう行っちゃうと、 すっごくがっかりしてるの。 それを見てね、わたしは、 ああ、やっぱり動物というのは、 評価されるのが好きなんだなと思いましたよ。 ほんとにそう思った。 |
糸井 | うん‥‥。 |