1『LIFE』が生まれたきっかけ。
- 武井
- 『dancyu』編集部の斉藤さんは、
寝しなに『LIFE』を
読んでくださっているとか。
きっとお仕事で毎日レシピ漬けのはずなのに、
「抱えて寝ている」と言うほど
愛読してくださっていると‥‥。
ありがとうございます。
そして、ばななさんも、お久しぶりです。
「飯島食堂へようこそ。」にも
出てくださって。
- 斉藤
- あれ、おもしろかったです。
- ばなな
- そうでした?
いろんなこと忘れちゃった。
おいしく食べたことだけおぼえてる(笑)。
- 斉藤
- 「最低の中に最高が入ってる」という話とか、
よかったです。
(飯島さんがサンドイッチの載った
料理を出してくださる)
- 武井
- 飯島さん、ありがとうございます。
かわいいお皿。
- 斉藤
- いただきます!
- ばなな
- いただきまーす。
- 武井
- 玉子焼きサンドですね。
なんて美しいんだろう。
- ばなな
- ねぇ‥‥。自分でサンドイッチをつくっても、
こんなふうになるはずないものね。
- 斉藤
- この玉子焼きサンドは、
『LIFE』に載っているサンドイッチとは違いますね。
あれは、ゆで卵の白身と黄身を分けて
刻んだものを入れるレシピでした。
- 武井
- そう。さすが、よく覚えてますね。
- 斉藤
- ぼく『LIFE』のハードユーザーで、
家の『LIFE』は読みすぎてボロボロになったので、
買い直したくらいなんですよ。
- 武井
- すばらしい、ありがとうございます。
- ばなな
- すばらしいことです。
私なんて眺めるだけであんまりつくらないから。
見て「あぁ~」って幸せになって、
寝る、みたいな(笑)
- 武井
- いいんですよ、『LIFE』は、
そうやって眺めていただくために、
あえてハードカバーにしてるんです。
なぜかというと、糸井重里によると、
樋口可南子さんが料理本がお好きで、
夜、寝る前に楽しそうに見ていらしたんですって。
この本をつくろうというとき、その話が出て、
だったら料理本といっても
キッチンに置くだけではないかたちにしよう、
エッセイも入れて、一冊の書籍として、
ハードカバーでつくろう、という話になったんです。
- 斉藤
- そうだったんですね。
たしかに、ぼくも『LIFE』に載っている
ばななさんのエッセイは何度も読んでます。
- 武井
- 「カレーライスとカルマ」ですね。
あれ、人が亡くなる話なんですよね。
料理本に死の気配がする話を書くって、
なかなかないですよ。
- ばなな
- ごめんなさい(笑)!
- 斉藤
- ぼく、よく深夜にバタバタと帰ってきて、
あのエッセイを読みながら、
鍋をかき混ぜてます。グツグツと。
- ばなな
- それは‥‥、ちょっと心配ですね。
- 武井
- だいじょうぶか!
- 一同
- (笑)
- 斉藤
- それで、いい機会なので、
「いちばん最初の話」からうかがいたいんですけど、
そもそもどうして
『LIFE』をつくろうという話になったんですか?
- 武井
- もともとぼくが
飯島さんが料理を担当された映画
『かもめ食堂』の大ファンだったんです。
その後、同じスタッフとキャストで
『めがね』がつくられたとき、
映画会社から「ほぼ日」に
プロモーションを依頼されたんですよ。
でもほら、「ほぼ日」はそういう依頼は
基本的に受けていないし、
「じぶんがお願いしてもやりたいことだろうか」と
あらためて考えてみることにしているんですね。
それで「やりたいな」と思った。
というのも、『かもめ食堂』と同じかたが、
『めがね』の料理も担当すると知ったからです。
あのおいしそうな料理がまた出てくるのか、
ということにすごく興味があって、
それをつくる人にも強い興味が出ました。
それで「食べさせてください」ってお願いしたんです。
- 斉藤
- ふつう、役者さんとか監督に取材するのに‥‥。
- 飯島
- 私のほうは、映画のプロモーションのため、
1日5、6件取材が入っていた頃で、
映画会社の方から、
「朝10時からは○○、1時間半後に『ほぼ日』」と、
言われるがままお会いしたんです。
- 武井
- そう、たくさんある取材のなかの
ひとつがうちだったんです。
- 斉藤
- そうなんですね。
- 武井
- まあ、ぼくはただ
飯島さんの料理が食べたかっただけなんです。
- ばなな
- それ、大切です。
- 武井
- それで、取材のときに
飯島さんに料理をお願いしたんです。
そしたら、焼き鮭と豆腐の味噌汁、
豚の生姜焼きに納豆、
ポテトサラダに卵焼き、そしてごはんという、
ごくごく普通のものを、
普通のスーパーで買った食材で
つくってくださったんですけど、
それがおいしくておいしくて!
‥‥ぼくね、泣いたんですよ。
- 飯島
- えっ、泣いていたんですか?
- 武井
- はい。もちろんそんなに
ワンワン泣きはしないですよ。
ジワッと。
ホントにおいしくて。
そのうえおむすびまでつくってくださって、
それがまた「なんじゃこれ!」と。
- 斉藤
- いいなあ‥‥。
- 武井
- 「おむすびがおいしい」ということに、
衝撃を受けたんです。
この秘密は何?
レシピはいったい? って思いました。
それを『LIFE』の1巻でやってみたんですが、
飯島さんのおむすびは、なんていうんだろう‥‥、
飯島さんが言う通りにつくっても、
まったく同じにはならないんですよね。
- ばなな
- そうなんですよね、
書いてあるとおりにしても
まったく同じにはならない。
私も実感しています。
- 武井
- レシピ通りにやると、うまくできれば、
ものすごくおいしい、
100点のものができる。
でも当の飯島さんが握ると、
120点くらい‥‥もしかしたら200点みたいな、
とんでもないものができちゃうんです。
- ばなな
- 私も85点ぐらいだったらつくれるかも。
でもなんか決定的に違うんですよね。
- 飯島
- 具体的な数字ですね(笑)。
- 武井
- いまだに謎は解明できていないんですが、
ひとつはっきりぼくらと違うのは、
飯島さんって、ものすごく熱いごはんを
平気で握れるんですよね。
『かもめ食堂』のときに、小林聡美さんたちが、
炊きたてのご飯を握らされて大変だったとか(笑)。
- 飯島
- (笑)あれは、あえて湯気を見せたいという
制作側の意図があったんです。
さすがに炊き立てのごはんは、私も無理ですよ。
- 武井
- さすがに女優さんで、
我慢して平気な顔で握ったんですって。
- 飯島
- 「あ、炊けた、かき混ぜます、じゃあ握ります」と言って、
ホントに炊きたてを握ったんですよ。
見ていたら、みなさん落ち着いて握ってらっしゃるので
「あれ、意外にいける?」と思ったけれど、
「カット」の声がかかった瞬間、
パッと手からおむすびを離していました。
よっぽど熱かったんだなって。
- ばなな
- 熱かったんでしょう。
- 飯島
- そう。でも女優魂で握られて。
- 武井
- すごいですよね。
その映画の取材をきっかけに、
「ほぼ日」で、飯島さんの料理と映画のことを紹介する
スライドショーのコンテンツをつくったんですね。
それがすごく読者に受け入れられたのもあって、
糸井が、
「この人と本をつくろう。名前は『LIFE』だ」
と言ったんです。
(つづきます)
2017-12-14-THU