2「勝ち抜き戦」でレシピ研究。
- 斉藤
- 『LIFE』には、毎回なにかしらの
ストーリー設定があるのがいいですよね。
- 飯島
- 最初にこの話をいただいたとき、
すでにあるような料理本を出しても
仕方ないなと思ったんです。
私はCMや映画の撮影に関わっていたから、
設定に見合った食器や
ランチョンマットを選ぶのは得意でしたし、
そもそも、私の料理は設定があってこそ
おいしそうに見えるんじゃないかな、
と思っていたので、
料理本にもそういう設定があったらいいなと。
- 武井
- 設定はみんなで毎回会議をして決めました。
1冊分の取材だけでも
1年以上かかっていますよね。
それを3回繰り返して。
- 飯島
- そうです。3巻のころには、
だんだんネタがなくなってきて(笑)。
- ばなな
- 最初にスターみたいな料理がならびますもんね。
- 飯島
- 「おばあちゃんちのおはぎ」とか
「おうちデートのミートソース」とか。
- 斉藤
- 「お休みの日のパパカレー」は、
お肉をドーンと
煮るところからはじめるでしょう。
- 武井
- ぜんぜんカレーのつくり方には、進まないんですよね。
- 斉藤
- 「これ、俺がずっとやりたかったやつ!」
って思って、くやしいやらうれしいやら。
- ばなな
- あぁー、なんかわかります。
- 斉藤
- 『LIFE』が出る前の話ですけど、
いまだに覚えていることがあります。
当時「東京カリ~番長」だった水野仁輔さんに
インタビューする機会があったんですね。
初対面の水野さんに、
「とにかく、ぼくは
肉がまみれたカレーが食べたいんです。
カレーじゃなくて、肉にカレーソースが
まみれてるのが好きなんです」
みたいな話をしたんです。
そしたら何ヶ月か経って、
渋谷の紀伊國屋書店で『LIFE』を見て、
「お休みの日のパパカレー」を発見し、
もう愕然として、
「わーっ、載ってる! これ、これ‥‥」。
- 一同
- (笑)
(飯島さんが新しいプレートを運んできて)
- 武井
- あ、これは何でしょう。
- 飯島
- 夏にフランス南部にある
三ツ星のレストランに行ったんですけど、
そこで買ってきた杏ジャムです。
- ばなな
- ジャム。三ツ星。
ぬぬぬ‥‥!
- 飯島
- ブリア・サヴァランというフレッシュなチーズに
これをかけるとおいしいんです。
三ツ星だからおいしいとかじゃなくて、
三ツ星の味を味わうというのが大事かなと思って。
「あ、三ツ星ってこういう味なのか」、
そういうのありません?
- 斉藤
- わかります。
一回そのラインを決めるって大事ですよね。
- 飯島
- そうなんです。
『LIFE』に載せる料理を研究していたときに、
ネットとか口コミで人気がある店を調べて
よく食べ歩いていたんです。
「ここのこういうルーがおいしいね」とか
「こういうの入れたいね」って、
自分たちなりにレシピに取り入れてました。
- 武井
- 飯島さん、日本中に行ってましたよね。
お好み焼きを食べに関西まで行ってたし。
- 飯島
- お好み焼きとビーフシチューを
ダブルで撮影しようとしたときですね。
京都に私がすごく好きな
ビーフシチューの店があったので、
そこでビーフシチューを食べて、
大阪ではお好み焼きを食べ歩いて。
- ばなな
- 素敵。その最中にばったり会ったりもしましたね。
- 武井
- このあいだ、
アシスタントの方が言ってましたよ。
「あのころの私たち、ちょっと変だった」って(笑)。
- ばなな
- でも、きっと、その情熱がないと、
結局は違うことになっちゃいますよね。
- 飯島
- そうなんです。私にとっては、
糸井さんに声をかけていただいて本を出すなんて、
チャンスはきっともう二度とないし、
やる以上後悔したくないから、
アシスタントと2人で食べ歩き、
じっさいにつくり、研究を重ねました。
お好み焼きの配合にしても、
「小麦粉がこうで、キャベツの量がこう」とか、
2個ずつつくって勝ち抜き戦みたいにして。
何日後かに、配合を変えたものでつくって、
また食べ比べて‥‥。
- 武井
- 勝ち抜き戦!
自分のおいしさの基準もあるけど、
みんながおいしいと思うものを
探す作業ですよね、それ。
- 飯島
- はい。それを探して歩いていました。
自分もそんなふうにして
レシピをつくったことなんてなかったので、
すごくいい機会でした。
- 武井
- そんな人、いないですよね。
ふつうは
「俺のレシピはこうだ」
「わたしのレシピはこうよ」
みたいになるじゃないですか。
- ばなな
- うん。「自分」を押し出したくなっちゃう。
- 斉藤
- ぼく、『LIFE』を手に入れてから、
1年後に『dancyu』に配属になったんですけど、
最初の号で飯島さんに目玉焼きをつくってほしくて、
お願いにうかがったんです。
武井さんから飯島さんが勝ち抜き戦を
やってらっしゃることもうかがって、
どうしても同じことをやりたかった。
だから『dancyu』には、
けっこう実験ページがあるんですよ。
- 飯島
- (笑)
- 斉藤
- 最初のポテトサラダの実験は、
男爵かメークインか、
蒸すか茹でるか、
マッシュか粗つぶしか。
それからマヨネーズの比率も変えて、
60何皿を勝ち抜き戦にしたんです。
それからチャーハンも、
餃子も、カレーも、味玉も
同じ形式でやりました。
- 武井
-
すごい、『dancyu』のあのページ、
飯島さんの影響だったんですね。
(つづきます)
2017-12-15-FRI