3余白の多い料理本。
- 斉藤
- (料理を食べながら)
‥‥すみません、食べてばかりで。
- 飯島
- どうぞ、たくさん食べてください。
- 武井
- さすが『dancyu』の人!
- 斉藤
- 冷めていく前に、と思いまして。
うん、おいしい。
- ばなな
- 私はお先にいただいてます。
- 飯島
- 鶏のササミです。
味付けは、梅酢で和えただけですよ。
- 斉藤
- フワフワした食感なのはなぜですか?
- 飯島
- うめ酢に漬けると、
やわらかくなるんですよ。
- 武井
- 一瞬、ササミだとわからなくて、
「魚? にしては生臭くないな‥‥」みたいな。
- ばなな
- おいしい。
自分がつくると、自分がつくったとおりの味。
飯島さんのお料理はいつも、どんなときでも、
「きっと、これぐらいおいしいんだろうな」
と想像しているのよりも、絶対上なんです。
- 武井
- わかります。
- ばなな
- (サンドイッチを食べながら)
あ? これ、なんだろう。
- 飯島
- 青い山椒がはいってるんです。
サワークリームに山椒。
- ばなな
- このツブっとしたところは?
- 飯島
- それは胡椒です。
- ばなな
- おいしい。全部いただきます。
- 飯島
- 斉藤さん、
さっきポテトサラダをつくったと
おっしゃってましたけど、
じゃがいもって、
皮ごと茹でたり蒸したりするのと、
皮をむいてから茹でるのと、
どっちがよかったですか?
- 斉藤
- 実はぼくの中では
そんなに変わらなかったです。
- 飯島
- やっぱり? そうなんですよね。
- 斉藤
- そうですよね?!
- 飯島
- そうなんですよ。
頭では、断然、皮ごと加熱して、
あとから皮をむいたほうが
甘いと信じているんですけど、
その大変さを考慮してまで
絶対にやったほうがいい、
というほどでもないんですよね。
- 斉藤
- そうなんです。
- ばなな
- わかる気がする。
多分、むいて加熱すると
ゆで加減を失敗しやすいんだと思う。
- 斉藤
- 飯島さんの料理に
何ひとつ文句が言えないのは、
徹底して実験しているからだと思うんです。
飯島さんと仕事をされたかたは
みんなご存知だと思うんですけど、
塩加減とか分量の細かい部分まで妥協されずに、
最後の最後まで直されてますよね。
- 武井
- そうですよ。校了‥‥責了のときにさえ、
スタッフがキッチンで待機して、
塩小さじ2分の1か少々か、
その微妙なところを直していました。
- 飯島
- いま思うと、ちょっとやりすぎてました(笑)。
- 一同
- (笑)
- 飯島
- あと、こんなに写真が載ってる本って、
これまでなかったですよね。
- ばなな
- そうですね、昭和にはたまにあって、
久しぶりに見た感じがします。
- 飯島
- 初心者の人にとっては、
「こう炒めます」というところも見たいんですよね。
料理本って、だいたい1レシピに2、3個しか
写真がないのが普通なので。
- ばなな
- うん、そうかもしれないです。
- 武井
- 最初はもっと大胆な構想があって、
「読んで楽しい本」にするならば、
分量なんか載せなくていいんじゃないかと。
何を伝えたいって、
飯島さんのつくる家庭料理の豊かさを
世界を伝えたいんだから、
レシピなんかなくても、
眺めて楽しい本でもいいんじゃないかって。
でも、さすがにちょっとね。
- ばなな
- 知りたくなっちゃいますし。
- 武井
- そうなんですよね。
- 斉藤
- 編集者として言いますが、
この恐ろしいほどの行間‥‥。
写真は確かにあるんですけど、
つくり方のページ、
こんなに余白が多いんですよ。
- 武井
- エディトリアル出身ではないデザイナーだから、
平気で余白を出すんですよ。
ふつうの出版編集部だったら、
上司に激怒されるくらいの余白です。
- 斉藤
- 「捨てカットでいいから入れろ!」
って怒られる。
- 武井
- でも「ほぼ日」だからできるんです。
- 斉藤
- 恥ずかしい話、していいですか?
ちょっと待っててください
(資料を取りに席を離れる)。
- ばなな
- 立ち上がったよ(笑)。
そのあいまに食べちゃおう。
- 武井
- 食べましょう、食べましょう。
ぜんぶ食べちゃえ。んまーい。
- ばなな
- おいしいねー。
- 斉藤
- (戻ってきて雑誌を見せながら)
『dancyu』の誌面上で
飯島さんに豚汁を習って載せたんですけど、
『LIFE』とくらべると、
やっぱり雰囲気が全然違うんです。
- 武井
- (食べながら)もふ‥‥えっ、どう違うの?
- 斉藤
- ぼくらは細かいことを書き過ぎなんです。
- 武井
- 『LIFE』だってたっぷり書いてますよ。
- 斉藤
- いえ、ぼくらは、それこそ行間がない。
『LIFE』は、情報量が多くても、
うんと余白があるのがいいんです。
なぜこうなっちゃったかっていうと、
飯島さんにレシピについて質問すると、
全部理由があるものだから、
全部ちゃんと答えてくださる。
それを当時のぼくは我慢ができなくて、
ぜんぶ伝えたいと思うあまりに、
あれもこれもと、ものすごい情報を入れて、
こーんなギュウギュウになっちゃった。
- 飯島
- (笑)でも、一緒ですよ、基本は。
- 斉藤
- そうなんです、一緒なんですよ。
なのに、なぜこんなに、
悔しい気持ちになるのか‥‥。
- ばなな
- それはやっぱり、本と雑誌って全然違うし。
- 斉藤
- そうなんです。そうなんですけど!!
- 武井
- それ、しょうがないですよ。
- ばなな
- みんなで慰めたりして。
- 斉藤
- ありがとうございます。
- ばなな
- なんだかわからないけど、
みんなで慰めたりして(笑)。
(つづきます)
2017-12-16-SAT