4手間に勝る、幸せな記憶。
- 斉藤
- さっきから、何気なく食べてるものが、
すごくおいしくて‥‥。
- 武井
- ビックリしますよね。
「ちょっと黙って食べよう」って
気持ちにもなっちゃう(笑)。
- 斉藤
- 「こっちはこっちで
勝手に食べてるから、話してて」
みたいな。
- ばなな
- もぐもぐ。
- 斉藤
- と言いつつ話しますけど、
ぼくは「家庭料理」をちゃんと
作ったことってないんです。
母の真似をして作ったことはありますが、
それは1人の人間の主観の中で
作ってきた料理ですよね。
- 武井
- そっか、そうですよね。
きわめて個人的なものですよね。
- 斉藤
- でも、飯島さんのレシピは、
いろんな人の目を通し、
いろんな人がつくってきたものを、
いちど飯島さんが吸収した上で、
きちんと「家庭料理」として出してくれているから、
ものすごく完成度が高いものができるんですよ。
豚汁とか、朝食のベーコンエッグとか‥‥。
- 飯島
- 斉藤さんは、なにをいちばんつくってますか?
- 斉藤
- ぼくはですね、
2巻に出てくる「ごちそう納豆」です。
「これ、つくってみろ」という
挑戦状なんだなと思ってます。
- 武井
- 挑戦状(笑)!
刻んで混ぜるだけですよ。
- 斉藤
- いえ、これにはいろんな叡智が入っています。
まず、このつけダレがあると、
マグロのヅケがいつでもできるんです。
醤油と味醂と、白すりごまが合ってて。
- ばなな
- この笑顔!
よほどおいしかったんだなと思います。
良かったですね(笑)。
- 斉藤
- もうね、
安いマグロをスーパーで見つけたら、
絶対つくります。
このレシピだけで
一生ツマミに不自由しないですよ。
似たような感じで言うと、
ハンバーグのレシピに載っていた玉ねぎのソース。
あれもかなり万能で、
どこに出してもおかしくない。
- 武井
- そっか、『LIFE』は
そんなふうにも使えるんですね。
「そのままつくってみてください」
という言いかたをしてきたけれど、
「応用、ききます」っていうふうにも言えるんだ。
- 斉藤
- 強く言いますけど、
もはやこれは飯島さんの本じゃないんですよ。
- 武井
- んんん???
何を言って‥‥。
- 斉藤
- 「俺の本」です。
- 武井
- すごいことを(笑)。
でもね、うれしいですね。
- 飯島
- そうかもしれない。
ホントに、私よりいっぱいつくってる人、
ときどきいます。
- ばなな
- わかる気がします。
私にはそのとおりにつくる以外の勇気はないけど。
- 武井
- ばななさん、
そのとおりにつくって大丈夫です!
- 飯島
- うん、まずは、そのとおりにつくってください。
味見をして調整しながら。
ちょこちょこ「薄いかな? 濃いかな?」
ってやるよりも、
きちんと量ったほうが簡単ですから。
水の量とかダシの量を適当にしちゃうと、
最終的に「うすっ」ってなりがちですし。
- ばなな
- 自分の感覚って
意外にあてにならないですよね、
疲れ加減とかも、味付けに全部でちゃうし。
- 武井
- そうですよね。汗をかいたあとや、
疲れているとしょっぱくなりますしね。
あと、そういえば、飯島さんは、
調理器具を、あんまり選ばないですよね。
- 飯島
- あまり気にしないです。
ただ、ちょうどいま伝統工芸のイベントで
デパートの方と地方を回ってまして、
それで「おひつ」に注目をしています。
- 武井
- おひつごはん、おいしいですよね。
- 飯島
- 土鍋でごはんを炊く人は、
結構増えたと思うんですけど、
そのあと、おひつに移したほうが
絶対おいしいんです。
土鍋のままだと熱がすごく溜まるけど、
おひつのほうがいい温度になるし。
昔の映画みたいに、
おひつでご飯を出されたら、
なんかちょっと、ありがたい感じがしません?
- 斉藤
- 確かに。
- ばなな
- 旅館みたいだし。
- 飯島
- おひつに移してご飯を出したら、
後々、子どもさんから
「ああ、うちの親はそういうことも
してくれたんだ」と感謝されるんじゃないかな。
- 斉藤
- 本当にそうですよ。
- 飯島
- 洗うのが大変かもしれないけど、
その手間にかえがたいおいしさがあります。
それに、そういう手間をかけてくれたなという思いが
芽生えると思うんですよね。
- 斉藤
- 手間、だいじですよ。
『LIFE』にはわりといっぱい工程がありますよね。
ハンバーグのレシピが特にそうなんですけど、
ハンバーグだけをつくるんじゃなくて、
ニンジンのグラッセをつくったり、
じゃがいもを茹でたり。
こっちはもう、最初から
それをやるつもりでやってるから、
「ちゃんとしよう」という気持ちが
そのまま食卓の上まで残っていて、
最後の盛り付けのところまで
気を抜かない感じがするんです。
「ちゃんとしたものをつくろう」という気になるからか、
『LIFE』でつくったものを食べた思い出って、
だいたい幸せな記憶なんですよ。
- ばなな
- やっぱり、結果が出ますからね。
- 飯島
- あのハンバーグも、
けっこう細かく焼き時間を設定しましたよね。
ハンバーグって絶対みんな竹ぐしを刺すんですけど、
そこから肉汁が出ちゃうんですよ。
- ばなな
- 出ちゃいますよね、
何回も刺したりするとね。
- 飯島
- 肉汁がなくなってしまったハンバーグ、
「それって誰が食べるのかな」
というふうに思ってしまうんで、
まったく刺さずに焼き上げていただきたくて。
- 斉藤
- 指示が細かいんですよ。
中火で焼いたら、ひっくり返して、
弱火に落として、
フタしめて蒸らして‥‥とか、
すごく細かい手順がありますよね。
でも、その通りにやっていくと、
ちゃんといい感じにできあがるんですよ。
- ばなな
-
言われたとおりにやるのが大事ですね、やっぱり。
(つづきます)
2017-12-17-SUN