人はなぜ料理をするの?なぜいっしょに食卓を囲むのかな。飯島奈美さんを囲んでの座談会。 『LIFE』のレシピには、家庭料理の未来がある。

4手間に勝る、幸せな記憶。

斉藤
さっきから、何気なく食べてるものが、
すごくおいしくて‥‥。
武井
ビックリしますよね。
「ちょっと黙って食べよう」って
気持ちにもなっちゃう(笑)。
斉藤
「こっちはこっちで
勝手に食べてるから、話してて」
みたいな。
ばなな
もぐもぐ。
斉藤
と言いつつ話しますけど、
ぼくは「家庭料理」をちゃんと
作ったことってないんです。
母の真似をして作ったことはありますが、
それは1人の人間の主観の中で
作ってきた料理ですよね。
武井
そっか、そうですよね。
きわめて個人的なものですよね。
斉藤
でも、飯島さんのレシピは、
いろんな人の目を通し、
いろんな人がつくってきたものを、
いちど飯島さんが吸収した上で、
きちんと「家庭料理」として出してくれているから、
ものすごく完成度が高いものができるんですよ。
豚汁とか、朝食のベーコンエッグとか‥‥。
飯島
斉藤さんは、なにをいちばんつくってますか?
斉藤
ぼくはですね、
2巻に出てくる「ごちそう納豆」です。
「これ、つくってみろ」という
挑戦状なんだなと思ってます。
武井
挑戦状(笑)!
刻んで混ぜるだけですよ。
斉藤
いえ、これにはいろんな叡智が入っています。
まず、このつけダレがあると、
マグロのヅケがいつでもできるんです。
醤油と味醂と、白すりごまが合ってて。
ばなな
この笑顔!
よほどおいしかったんだなと思います。
良かったですね(笑)。
斉藤
もうね、
安いマグロをスーパーで見つけたら、
絶対つくります。
このレシピだけで
一生ツマミに不自由しないですよ。
似たような感じで言うと、
ハンバーグのレシピに載っていた玉ねぎのソース。
あれもかなり万能で、
どこに出してもおかしくない。
武井
そっか、『LIFE』は
そんなふうにも使えるんですね。
「そのままつくってみてください」
という言いかたをしてきたけれど、
「応用、ききます」っていうふうにも言えるんだ。
斉藤
強く言いますけど、
もはやこれは飯島さんの本じゃないんですよ。
武井
んんん???
何を言って‥‥。
斉藤
「俺の本」です。
武井
すごいことを(笑)。
でもね、うれしいですね。
飯島
そうかもしれない。
ホントに、私よりいっぱいつくってる人、
ときどきいます。
ばなな
わかる気がします。
私にはそのとおりにつくる以外の勇気はないけど。
武井
ばななさん、
そのとおりにつくって大丈夫です!
飯島
うん、まずは、そのとおりにつくってください。
味見をして調整しながら。
ちょこちょこ「薄いかな? 濃いかな?」
ってやるよりも、
きちんと量ったほうが簡単ですから。
水の量とかダシの量を適当にしちゃうと、
最終的に「うすっ」ってなりがちですし。
ばなな
自分の感覚って
意外にあてにならないですよね、
疲れ加減とかも、味付けに全部でちゃうし。
武井
そうですよね。汗をかいたあとや、
疲れているとしょっぱくなりますしね。
あと、そういえば、飯島さんは、
調理器具を、あんまり選ばないですよね。
飯島
あまり気にしないです。
ただ、ちょうどいま伝統工芸のイベントで
デパートの方と地方を回ってまして、
それで「おひつ」に注目をしています。
武井
おひつごはん、おいしいですよね。
飯島
土鍋でごはんを炊く人は、
結構増えたと思うんですけど、
そのあと、おひつに移したほうが
絶対おいしいんです。
土鍋のままだと熱がすごく溜まるけど、
おひつのほうがいい温度になるし。
昔の映画みたいに、
おひつでご飯を出されたら、
なんかちょっと、ありがたい感じがしません?
斉藤
確かに。
ばなな
旅館みたいだし。
飯島
おひつに移してご飯を出したら、
後々、子どもさんから
「ああ、うちの親はそういうことも
してくれたんだ」と感謝されるんじゃないかな。
斉藤
本当にそうですよ。
飯島
洗うのが大変かもしれないけど、
その手間にかえがたいおいしさがあります。
それに、そういう手間をかけてくれたなという思いが
芽生えると思うんですよね。
斉藤
手間、だいじですよ。
『LIFE』にはわりといっぱい工程がありますよね。
ハンバーグのレシピが特にそうなんですけど、
ハンバーグだけをつくるんじゃなくて、
ニンジンのグラッセをつくったり、
じゃがいもを茹でたり。
こっちはもう、最初から
それをやるつもりでやってるから、
「ちゃんとしよう」という気持ちが
そのまま食卓の上まで残っていて、
最後の盛り付けのところまで
気を抜かない感じがするんです。
「ちゃんとしたものをつくろう」という気になるからか、
『LIFE』でつくったものを食べた思い出って、
だいたい幸せな記憶なんですよ。
ばなな
やっぱり、結果が出ますからね。
飯島
あのハンバーグも、
けっこう細かく焼き時間を設定しましたよね。
ハンバーグって絶対みんな竹ぐしを刺すんですけど、
そこから肉汁が出ちゃうんですよ。
ばなな
出ちゃいますよね、
何回も刺したりするとね。
飯島
肉汁がなくなってしまったハンバーグ、
「それって誰が食べるのかな」
というふうに思ってしまうんで、
まったく刺さずに焼き上げていただきたくて。
斉藤
指示が細かいんですよ。
中火で焼いたら、ひっくり返して、
弱火に落として、
フタしめて蒸らして‥‥とか、
すごく細かい手順がありますよね。
でも、その通りにやっていくと、
ちゃんといい感じにできあがるんですよ。
ばなな
言われたとおりにやるのが大事ですね、やっぱり。

(つづきます)

2017-12-17-SUN

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