株式会社ほぼ日のロゴマークができました。

第2回 佐藤卓さんと、つよさ。

糸井
ほぼ日の会社のロゴマークを
佐藤卓さんに頼んだ理由なんですけれども。
佐藤
はい。
糸井
「卓さんに頼みたい」と思うのって、まず
ぼくが最初に思いつくことなんですよ。
思いついたことを、自分としては
「いつもそうやって、
安定的に考えていていいんだろうか」
と思うわけです。

だから、じつはずいぶん長いこと、
「卓さんに頼まないとしたら、どうだろう」
と考えていました。

ほぼ日の本を作ってもらったとして、
そのタイトル文字をそのまま
ロゴマークにしたらどうなるか?
1回しか会ったことない、若いあの子がやったら
どうなるか?
ありとあらゆるケースや人、
どういうことでどういうふうにというパターンを
ものすごく考えました。
考えついたものはある意味、
全部おもしろかった。

そうやって、卓さんを避けて考えるということを
どんどん積み上げていきました。
その、積み上げた点数と、
最初に思った「卓さんに頼もう」を
もういちど比べたら、
「やっぱり卓さんに頼もう」
という結論になりました。
ここまで、1年ぐらいかかったんじゃないかな。
佐藤
はぁぁぁ!
それ、いま聞いてよかった!
やる前に聞いてたら、
手が動かなくなってたと思います。
ほんとに、ほんとに、いやぁ、ほんとに(笑)。
糸井
いやいや(笑)。
ほぼ日が変わるときなんだから
違う方向の何かが必要かもしれないと、
ずーっと、思っていたんです。
それでもぼくは
「やっぱり卓さんなんだ」と思いました。
その理由は、ほぼ日のスタッフが
働くときの合言葉のようにして言ってる
「やさしく・つよく・おもしろく」の。
佐藤
「やさしく・つよく・おもしろく」
スローガンみたいなことですね。
糸井
ええ、そのなかの
「つよく」のところなんです。

卓さんの作るものは
「つよく」がしっかりしているから
委ねることにした、と
自分では思っています。

このロゴマークは、ほぼ日という会社のものです。
会社は、よくも言われるだろうし、
悪くも言われるだろうし、
中からも外からも、みんなが思ってることを
ちゃんと出さなきゃいけない機会があるでしょう。
そこでは会社は、しっかり
「つよく」ないといけないんです。
「おもしろい」だけの、
足腰のしっかりしていない状態では、
会社としての役割を果たせないと思います。
佐藤
じつは‥‥そこを、すごく悩みました。
糸井
そうなんですか?
佐藤
ほぼ日とは、これまで長いことご一緒してるし、
世界観もそれなりに理解していたつもりです。
ほぼ日って、すごくいい意味で多面的なんです。
今回、最初に12個のアイデアを出したのも、
そのせいです。

シリアスに、ということもできるし、
微笑みがあってもいい、
もちろんほぼ日だから、
親しみやすさがあったほうがいい。
そこの兼ね合い、チューニングを
どの目盛りに合せるべきなのか?
これはもう、自分ひとりでは
とてもできない仕事なんじゃないか、と思いました。

だから、糸井さんとキャッチボールをするつもりで、
アイデアをひとつだけ出すのではなく、
考えられる範囲のものをすべて出すつもりで、
12個のアイデアを提出しました。
あの、プレゼンテーションの日、
いろんな方向性をもつ12案を、
糸井さんとみなさんに見ていただきました。
「どのへんに引っかかるのだろうか」
そこを、逆にぼくは
ものすごく知りたかったんです。
糸井
ロゴマークの方向性を
最初からひとつに絞れる会社もあるでしょうね。
佐藤
はい、迷わずにね。
その企業や組織の輪郭が、明確に、
はっきりしている場合はそうでしょう。
でも、ほぼ日の場合、輪郭というものは‥‥。
糸井
輪郭じゃないですね。
佐藤
輪郭、という考えがないんです。
なんというか、
あたらしい組織体といえばいいか‥‥。
これは、ほんとに悩みました。
「こういうのもあるかもしれない、いや、
こういうのもあるかもしれない」
日下部(佐藤卓デザイン事務所の日下部昌子さん)の
スケッチをチラッと見て
「あ、それもあるかもしれない」とかですね(笑)。
いい意味で、悩ませていただきました。
糸井
ありがとうございます。
ぼくらは変わりたいし、
変わるからこそ作ってもらうわけです。

「東京糸井重里事務所」の名前のときは、
いわば明朝体で済んでました。
これまで、そんな感じでやってきたんです。
卓さんは、明朝体を知っている人です。
ほぼ日も、明朝体でよかったかもしれない。
卓さんが明朝体を提案してきたら、
それでいいとも思ってた。
全部の可能性がそこにはありました。

ただ、卓さんは、
おもしろくするという目的だけで
「佐藤卓」を目立たせることはしないだろうな、
ということはわかっていました。
「佐藤卓を知ってくださいね」
というようなものは作らない。
そこが、「つよさ」なんです。
「やっぱり佐藤卓が作ったからいいよなぁ」
「さすがだなぁ」なんてこと、
卓さんは言われたいとも思ってないから。
佐藤
誰が作ったかなんてのは
どうでもいいことで、それは当然です。
このロゴマークを、
みなさんが「いい」と言ってくださるだけで。
糸井
そうですよね。
佐藤
このロゴマークが、
ほぼ日のみなさんがやっていくことと、
いい関係であればいい。
作者はわからなくていいと思います。
糸井
うん。
そこがこんなにはっきりしてる人で、
しかも、明朝体で収めちゃわない人は、
ぼくはやっぱり
卓さんしか思いつかなかったです。
佐藤
そんなことはないですが、
そう言ってくださってありがとうございます。
糸井
ほぼ日が変わるんだよ、ということも表してるし、
糸井事務所だったときとどう変わるんだろうと、
みんなが楽しみにしている。

「おもしろく」て、「やさしい」形をしていても、
きちんとしたお城のような基盤や壁を
「つよさ」でつくっておかなくてはいけないのです。

結果的に、自分が会社について考えてきたことと
おなじ道のりをたどって、
ロゴマークを作ることになりました。

佐藤卓(さとう・たく)

グラフィックデザイナー。
1979年東京藝術大学デザイン科卒業。
1981年に同大学院修了。
株式会社電通を経て、
1984年に佐藤卓デザイン事務所設立。
「明治おいしい牛乳」や
「ロッテ キシリトールガム」などの
商品デザインおよびブランディング、
NHK Eテレで放送中の『デザインあ』の総合指導や
『にほんごであそぼ』のアートディレクション、
ほぼ日手帳のデザインディレクション、
21_21 DESIGN SIGHTのディレクターを務めるなど、
多岐に渡って活動中。

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