[糸井]
先生であっても、ほかの職業であっても
「毎日仕事すること」を吉本さんはとても大事になさいますね。
嫌でも毎日しろ、と吉本さんはおっしゃいます。

[吉本]
毎日仕事をやっているうちに、いろんなことがあるでしょう。
利潤や結果、効果を求めたりもします。
けれども、効果というのは価値として、働いたらひとりでに出てくるものなんです。
効果というのは少なくとも第一義にはならないというのが、僕がもの書きとしての体験から得たことです。
自分と自分の問答が豊富になっていくこと、そのことがすべてにおいて重要ですし、そうやって毎日仕事をしていたら黙ってたって、いろんなことがついてきます。
最上の方法じゃないでしょうし、ものすごい回り道ではありますが、
「俺にとってはできることだな」という意味で、最も確実なことだと言えます。
 僕は、まだもう少し生涯はありますけど、途中でいろんなことはありましたが、だいたい大過なくすぎてきました。
これでとにかく、年食うまできたんだから、このやり方で行くよりしょうがねぇんじゃねぇか、というように思います。
ですから、それぞれの人の性格及び個性と願望さえ確かになっていれば決まっていくし、別に文句を言われる筋合いも、言う筋合いもないことだと思います。

[糸井]
もしかすると、吉本さん自身に、そういうふうにはできなかった時代があったんでしょうか。

[吉本]
そうですね。僕はいつでも──こう言うと、また別の嘘になっちゃうから、こんなことはおおっぴらには言えませんけど、おおっぴらに言うとすれば──
できるだけエネルギーがかからないで効果があがる方法を自分ならどういうふうにやるだろうか、なんてことは、その都度何回も考えたりしてるわけです(笑)。
そういうことをしてるのは確かです。
でも、そういうことは第一じゃないんですね。
多少入ってるでしょうけど、第一じゃない。
やっぱり、第一は自分が
「こうありたい」という願望との問答です。
それがだんだん太っていって、豊かになれば、その豊かさというものをわかってくれる人が必ずいます。
僕なんかの場合には、それは読者です。
わかってくれる人がいるはずだ、どこかにいるはずだと思っています。
顔はわからないかもしれないけど、偶然僕の書いたものを読んで、
「ははあ、こういうふうに考えているんだな」
「こういうけしからんことを 言う奴がいるんだな」
というように、何かをヒントにしてくれる人がどこかにいるかもしれません。
それは密かなる願望ですけどね、そういう願望はあるんです。
そういう願望もないのかと問われたら、それはそうじゃないです。
(明日につづきます)

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