[南]
うちのツマがね、
「あの人カツラ」って一瞬のうちに見破るんだよ。

[糸井]
ああ、そう。

[南]
いっしょに歩いてたりするとさ、
「あ、カツラ」って。
そんなにかっていうくらい見つけちゃう。

[糸井]
いや、うちの奥さんもヅラ(カツラ)好きですよ。
もーのすごく好きですよ。

[南]
だいたい、女の人は、好きだよね。

[糸井]
うん。全体にね。人のヅラが。

[南]
それでね、このあいだ、カツラに関して発見をしたって言うんだよ。



[糸井]
ほう。

[南]
まず、安いカツラというのは、私は、もちろんすぐにわかるんだと。
でも、ものすごく高い、手の込んだ、人毛を使ったりしてる高級カツラも見分けることができる。
なぜ、私は、高いカツラでもわかるんだろう?
と考えてみたらしいんだ。

[糸井]
ああ、いい話だね。

[南]
そこで発見したことは、
「カツラは寝ない」
ってナゾのようなことを言う。

[糸井]
「カツラは寝ない」。

[南]
うん。
カツラの人は寝るんだけど
「カツラは寝ない」んだよ。
ふつうはね、つけたまま寝るんだ。
ていうか、そりゃ自分の毛だからさ。

[糸井]
うん(笑)。



[南]
カツラは高ければ高いほど、つけたまんまは寝ない。
蒸れるとか、うっとうしいとか、そういう理由もあるかもしれないけど、やっぱり、せっかく高いカツラだからさ。
かぶったまま寝たら、毛が抜けちゃったりしていたんじゃうじゃないか。
それで、大事にしすぎてるんだって言うんだよ。

[糸井]
つまり、頭髪としてキレイすぎるんだね。

[南]
そう。だからわかっちゃう。
だからその、必ずしも、ぐちゃぐちゃにする必要はないんだけど、どこかにこうさ、寝ぐせとかさ、ホツレとか、一種のノイズのようなものが混じらないと。
そういうビミョーなものを人の目は「自然なもの」としてとらえてるんだから。

[糸井]
そうだね。

[南]
つまり毛が
「言うことをききすぎてる」
ともいってましたね。
カツラ研究家は‥‥。

[糸井]
あのさ、「髪を黒く染めてる人」っていうのも、どういうわけかすぐにわかっちゃうよね。
あれもやっぱり、完成され過ぎてるからだよね。

[南]
うん、そうそう、全部、一様に染めちゃうから。
きっと、人の髪の毛って、真っ黒に見えても1本1本見ていくと微妙に違ってるんだね。

[糸井]
うん。ばらつきがあるんだろうね。
これは養老(孟司)さんの言い方だけど、自然界には、同じものはふたつとないんだよ。
自然のものって、必ずバラつきがあるんだ。
カツラって、その原則に反してるから、バレちゃうんだね。

[南]
見分けちゃうんだ、プロはね。



[糸井]
そうだね。
だから、高いカツラを買って大事にするよりは、安いカツラを買って、毎日つけてるほうがバレない、ということかな。

[南]
いや。それ、オレも訊いてみたんだ。
安いカツラを買って、毎晩それをつけて寝たら自然に見えるのか? って。そしたら、
「安いカツラは最初から毛が死んでるからダメだ」
って言うんだ。

[一同]
(笑)

[糸井]
なるほどね(笑)

[南]
「毛が死んでいる」ってのもね。

[一同]
(笑)



(次回、とうとう最終回)


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