[南]
なんかそういう、クラブ活動とか、してなかったの?

[糸井]
オレ? うーん、入ってないんだよなぁ。



[南]
ああ、そう。

[糸井]
だから、つまんないですよね。
ぜんぜん、弁論部以下なんですよ。
なにもないんですよ、ほんとに。

[南]
でも、なんだっけ、一本歯の下駄つくって履いてたって言ってなかったっけ?

[糸井]
ああ、それは高校のときね。
高校に入ったときに、わざわざ、一本歯の下駄をつくったんだよ。
近所の下駄屋でさ。

[南]
それは、流行りで?

[糸井]
流行りというよりは、オレが行った高校はそういうのが売り物だったのよ。
バンカラなテイストがさ。
もう、そういう風土っていうか、風土病で。

[南]
「風土病」(笑)。

[糸井]
風土じゃなくて、風土病(笑)。
そういうのがいいとされてたんだよ。
応援団の人が、ロウで固めたような変な帽子をかぶってたりさ。

[南]
はいはい。



[糸井]
わりとふつうの真面目な子でも、帽子を汚したり、汚い手ぬぐいを腰にぶら下げてみたり。
だから、ほかに目指すべきファッションがないわけ。

[南]
変わったことやりたいやつは、バンカラに行くしかないと。

[糸井]
そうだね。あと、あのころって、
「なんかしたいと思ったら、 そういうことをするべきだ」
っていう風潮があったような気がする。
「そういうことをしていい権利が ひとりひとりにある」みたいな。

[南]
ああ、なるほどね。

[糸井]
だから、高校に入ったらそうするんだって決めてたもの。
新しい自転車を買ってもらうことと、それから、朴歯(ほおば)、朴歯っていうのは下駄のごついようなやつね、その朴歯を履くこと。
そのふたつは、オレの中で、高校に入る前にやるって決めてたことだった。

[南]
じゃあ、高校生の糸井さんは、一本歯の朴歯を履いて自転車に乗ったわけ?

[糸井]
乗ったよ。

[南]
すごいじゃん。

[糸井]
あ、いや、そうでもない。
一本歯ってね、意外に便利なの(笑)。

[南]
あ、そうか、そうか、べつに一本歯のところでペダルこぐ必要ないんだ(笑)。

[糸井]
そうそうそう。
その意味では、二本歯の方が不便。

[南]
はははははは。

[糸井]
「T」の、横棒のところをペダルに当てればいいわけだから。

[南]
横から見たときにね(笑)。



[糸井]
そうそう、一本歯の朴歯は「T」だからね。
ふつうの二本歯は横から見ると、いってみれば「π」だからさ。

[南]
はははははは。
たしかに、「π」の歯と歯の間にペダルが入っちゃったりすると、こぎにくそうだね。

[糸井]
そうそう。「π」でペダルを踏むのは、けっこう面倒だよ。その点、「T」は、平らなところの面積が広いからね。

[南]
(笑)

[糸井]
それから、「T」だと、サドル高くしても足がつくじゃない?

[南]
ははははは。歩きにくくはなかった?

[糸井]
慣れたら、なんでもないよ。

[南]
あー、そうか。ほら、オレはさ、天狗のときに一本歯を履いたんだけど。

[糸井]
そうだった、そうだった(笑)。

[南]
それまで履いたことないのに天狗になった途端に履いたもんでさ、いきなり、こう、コケッとなってね。

[糸井]
足首のところで。

[南]
そうそうそう。
最初、いきなり、斜面に立っちゃったということもあってね。

[糸井]
迦葉山だからね。

[南]
そう。迦葉山だからさ。
もう少し平らなところで慣れとけばよかった。
あれはちょっと失敗だったな。

[糸井]
でも、ま、天狗だからね。

[南]
うん。天狗だから、いろいろいってられないんだけど。



(ご心配なく。まだつづきます)


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