[糸井]
しかし、こういうふうに名所を旅して、由緒ある古いホテルなんかに泊まって、そんで、相変わらず、くだらない話を延々としているっていうのはどうなんだろうね。
[南]
ははははは。
ぜいたくっていうか、もったいないっていうか。
[糸井]
もったいない気はするね。
ま、たのしいからいいんだけど。
なんていうか、高級料亭で、卵かけご飯食べて帰ってくるみたいな。
そりゃそれで、うまいんだ。
[南]
そうそう、うまいんだ(笑)。
[糸井]
規模もレベルも違うけどさ、そういうことをやってたのが魯山人なんだよ。
[南]
ああ、魯山人。
[糸井]
要するに、
「うまいだろ、こういうのが?」っていう、本音みたいなところを打ち出していく人なんだよ。
[南]
うーん、そうか。
[糸井]
ん? 魯山人は、あんまり?
[南]
魯山人はね、ちょっと複雑なんだけどね、オレは誰かから悪口を先に聞いちゃってさ、しかも、ふつうだとオレは、そういう悪口を聞くと逆にいいところを見つけようとしたりするんだけど、なんか、それを聞いて、わりと素直に
「へぇ、そうなんだ」って思っちゃったんだよ。
[糸井]
ああ、なるほど。
[南]
それで、しばらくのあいだは、魯山人はオレには関係ねぇやって思ってたんだけど。
なんか、京都かなんかでひょいと時間が空いちゃったときにね、デパートで魯山人の焼物の展覧会があってそれを見たんですよ。
[糸井]
うん。
[南]
するとね、たまに、いいのがあるんだよ。
[糸井]
たまに、っていうか、けっこうありますよね。
[南]
まぁ、でも、関係ねぇやと思ってるからね、
「これは、まぁ、いいんじゃないの?」
というくらいのことを、ちょっとしか言わないわけよ、オレも。
[糸井]
ちょっとしかね。
[南]
うん。ぜんぶいいとは言わない。
「これはいいんじゃないか」とか
「ここはいいなぁ」という感じでね。
[糸井]
うん、うん。
[南]
まぁ、そんな感じでほかにも見る機会があって、そのたびに
「ここはいいんじゃない?」
って言ってるうちに、なんだか、けっこういいじゃないかと(笑)。
[糸井]
どんどん好きになって(笑)。
[南]
そう。なんかね。
まだ、ぜんぶを好きなわけじゃないんだけど。
[糸井]
それって、女性を好きになるのとおんなじパターンですよね。
[南]
はははは。あー、そうなのかな。
[糸井]
「あんまりオレは‥‥」とか言ってるんだけど、
「ここは、ちょっと」とか、言ってるうちになんだか好きになっちゃってるんだ。
というより、最初から、ほんとは好きだったのかもしれない。
これはオレの持論なんだけどね、嫌いの中には好きが混ざってるもんなんだよ。
[南]
ああ(笑)。
[糸井]
だから、「イヤなんだよなぁ」とか、
「嫌いなんだよね」とか言いつつ、どうも、それから目を離せないような場合は、もともとのところを疑ったほうがいい。
[南]
「好きかもしれない」。
[糸井]
「好きかもしれない」。
十代のころの、男子と女子の関係なんて、つねにそれの連続だからさ。
[南]
そうだね。とくに男はね。
[糸井]
うん。男は大人になってもそれがある。
だから、奥さんとかには、そういう
「好きかもしれない」みたいなことは、だいたいバレてると思ったほうがいいね。
[南]
いえてるねー(笑)。
(‥‥‥‥つづきます)
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