[南]
そこのさ、棚の上のところに、なんだか古い写真があるでしょう?
[糸井]
うん? ああ、これは「仙台四郎」か。
[南]
そうそう。
[糸井]
仙台四郎は、知らない人も多いかもしれないね。
[南]
仙台四郎っていうのは、明治のころ、仙台に実在した人で、知能に障害があったんだけどみんなに好かれていて、仙台四郎が来る店は繁盛するって言われてたんだって。
[糸井]
つまり、民間の「福の神」だよね。
それで、こういうお店に、いまも写真が飾られているという。
[南]
でね。
「またか」って言われると、困っちゃうんだけどね。
[糸井]
‥‥まさか!
[南]
うん。オレは、仙台四郎にもなったんだ。
[糸井]
なったんだー(笑)!
[南]
もう、この旅は、行く先々に、オレのなったことある人たちが。
[糸井]
けっこう、ローカルな人にもなってるんだね。
[南]
幅広いよ、悪いけど。
[糸井]
ははははは。
しかし、仙台四郎は、あれだね、そもそものルックスが伸坊に似てるから、
「本人」になるのは簡単だったんじゃない?
[南]
いや、オレも最初はそう思ったんだけどね、これが、難しいんだ。
[糸井]
へぇ。
[南]
まぁ、着物だしね、体型なんかも近いからね、着替えて、この写真と同じように腕組んで座れば大丈夫だろうと思ってたんだけど。
[糸井]
そう思うよね。
[南]
ところがね、この仙台四郎の有名な写真をよーく見るとね、どうやら、下はふんどしをはいてるらしい。
[糸井]
うん。
[南]
で、股間のあたりがはだけてて、出ちゃってるらしいんだ。金玉が。
[糸井]
ははぁ。
そういうことに無頓着だったんだろうね。
[南]
そう、そう。本人はね。
出てるとか、隠れてるとか、そういうことは関係ないわけ。
[糸井]
そういうの、気にする人じゃないから。
[南]
そういうことなんだよ。
でね、オレが着替えて、仙台四郎になって、この写真と同じポーズをしてみるっていうと、写真を撮ってるカメラマンがね、
「仙台四郎の、そういうのも、 表現したほうがいいんじゃないの?」と、こう言うわけだよ。
[糸井]
つまり、お前も出せと(笑)。
[南]
うん。表現しろと。
[糸井]
「表現」(笑)。
[南]
表現っつったってさぁ、ダメだろう、それは。
ふつう。やっぱり。
[糸井]
ダメだねぇ(笑)。
[南]
で、何枚か撮ったんだけどさ、そのカメラマンいわく、
「ほら、やっぱりなにかが違う」と。
[糸井]
ごめん、確認しとくけど、そのときのカメラマンってさ‥‥。
[南]
うん。うちの妻なんだけどね。
[一同]
(爆笑)
[糸井]
じゃあ、奥さんって、アシスタント兼、スタイリスト兼‥‥。
[南]
そのころにはカメラマンも兼ねてた。
[糸井]
その奥さんが、「出せ」と。
[南]
そう、過激なんだよ。
まぁ、言ってることはわかんなくはない。
姿形はたしかに似ているけど、精神が表現できてないということなんだ。
[糸井]
真面目に言ってるんだよね。
[南]
大真面目だよ。
言ってることもよくわかる。
でもね、その、写真を撮ってる場所って、けっこう、人通りが激しいんだよ。
[糸井]
ははははは、外で撮影してたのか。
それで? けっきょく、どうしたの?
[南]
え? 出さないよ。
[糸井]
はははははは。
[南]
出すわけないじゃん。
(ホッとしたような、残念なような。つづきます)
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