[南]
ベニヤ板ってさ、ものすごく安物っていうイメージがあったけど、いまは高いんだってさ。
ほんとかねー。ちょっと信じられなくて。

[糸井]
わら半紙も高いでしょ。

[南]
え!



[糸井]
わら半紙。高いんだよ。

[南]
つまり、もう、あんまりつくってないから?

[糸井]
そういうことなんだろうね。

[南]
ああ、そう言われるとわかるなぁ。

[糸井]
化学繊維を入れないふつうのちり紙もすごく高いんだよ。

[南]
ふーん。

[糸井]
クジラのベーコンも、昔は安かったけど高い。
おんなじ理屈だよね。つくってないから。
ベニヤ板も、そういうことなんじゃない?

[南]
ベニヤ板の場合はとくに、安いっていうイメージが残っちゃってるんだな。
「ベニヤの板でつくったような」とか表現としていまだに使われたりするじゃない。

[糸井]
そうだね。ぺらっぺらなものの象徴としてね。
そういえば、ちょっと前にオレ、ラスベガスに行ったんだけど、久しぶりに観光客相手のアメリカ文化を目の当たりにして、ベニヤ板的なるものを感じたなぁ。
実際にベニヤ板を使ってるわけじゃないんだけど、見えるところと、見えないところで、ものすごく差がある建築をつくってる。

[南]
ああー。



[糸井]
アメリカ中に何百も支店を持ってるチェーン店なんかが最たるもんでね、ほんとに見えるところだけ、ベニヤ板的なるものでとりつくろってる感じで。

[南]
そういうのって、日本の戦後に生まれたものかと思ってたよ。
モノもお金もないっていうときに、形だけ間に合わせるっていう。
じゃ、もともとはアメリカなんだ。

[糸井]
それを輸入しちゃったんじゃないかな。

[南]
でも、ニューヨークなんか行くと、けっこう古い石造りの建築物があったりするじゃない。

[糸井]
だから、ヨーロッパの石の文化をまるごと移してるところもあるんだよ。
ぜんぶがぜんぶ、ベニヤ板じゃなくて。
なんていうか、合理的に済ませたいところは、てらいもなくベニヤ板で行っちゃうところがあの国にはあるんだと思うな。

[南]
なるほどね。戦後の日本は、まさにその方式だったのかもしれない。

[糸井]
あー、そうだね。

[南]
あの、進駐軍が日本の建物を接収してさ、その建物は、じつはすごくいい木をつかってるのに、どんどんペンキを塗っていっちゃったっていう話を聞いたことがある。

[糸井]
ああー。

[南]
で、そういう、古い建物にどんどんペンキ塗っちゃうようなことをいいと思ってる時期があったよね、オレたち。

[糸井]
あった、あった。大いにあった。

[南]
なんでもとにかく白く塗っちゃったりなんかして。

[糸井]
大瀧詠一さんとかがさ、福生に本拠を構えて、米軍が使ってたハウスを安く借りてみんなで住もうなんてやってたのが、ものすごくうらやましく思えたもの。

[南]
うん、そうそうそう。



[糸井]
ペンキねー。
冷蔵庫とか塗ったよ、オレも。
なんだか素敵な緑色に冷蔵庫を塗ったんだ。

[南]
ペンキでね。

[糸井]
自分でペンキを塗るっていう行為が、すごく、新しい感じがしてね。
なんていうんだろうな。
古い、封建時代の日本を塗り替えちゃうみたいな気分があったんだろうな。

[南]
そうだねぇ。

[糸井]
わざわざ安っぽく塗り替えちゃうみたいな感じが当時はとってもよく思えた。
それはそれで、後悔するような気持ちはないんだけど、年をとると、まったく逆のことをおもしろがってるね。
なんか、木の材質のこととかさ。

[南]
そう(笑)。

[糸井]
こないだおもしろかったのはさ、昔のお金持ちの家にあった古材について、しみじみ説明してくれた人がいたの。
「これ、虫が開けた穴なんですけどね、 木が硬くて、途中であきらめて、 こっちから出てきてるんですよ」
っていう言い方をするわけ。
その古材を実際に見せながらさ。

[南]
ははははは。

[糸井]
虫食いの穴まで、そうやって愛でてるわけだよね。
それは、おもしろいし、いいよねぇ。

[南]
そういうふうに変わるのは、やっぱり年齢的なことかな。

[糸井]
そうだね。
やっぱり、ベニヤ板にペンキを塗ってるのもたのしいけど、年齢を重ねていくと、ほんとのことが知りたくなるんじゃないかな。

[南]
つづきを読む

前へ 次へ
目次へ    
友だちに教える
感想を送る
書籍版「黄昏」
ほぼ日のTOPへ