[糸井]
中華料理屋でね、オレはいつも、はなまきを頼み忘れちゃうんだ。

[南]
なに?



[糸井]
はなまき。中華料理の。
あの、ふかふかした、蒸しパンみたいな、肉まんの皮部分みたいなやつ。
あれを、いっつも、頼み忘れちゃうんだよ。

[南]
唐突だね。ま、いいや。

[糸井]
食べてるときにね、思い出すんだ。
「あ、ここ、はなまきが必要だな」って。
でも、そう思ってから注文すると、はなまきってのは、蒸さなきゃいけないからさ、お店の人は必ず、
「ちょっとお時間いただきますけど‥‥」
って言うんだよ。
だから、そのときはあきらめて、
「これからは最初に頼まなきゃな」
って思うんだけど、いつも忘れちゃう。

[南]
好きなんだね、はなまきが。

[糸井]
はなまきって、食べてるときに思い出す食べ物なんだよ。
フカヒレ系の料理を食べているときとか、ひき肉を使った料理のときとかに。
で、よく行く中華料理屋の店員さんは、ぼくが、はなまきを注文しては、
「お時間いただきますが」って言われてがっかりしてるのを何度も見てるから、いっしょに悔しがってくれるようになった。
「そうそう、はなまきでしたね」って。

[南]
気を利かせて出してくれるんじゃなく。

[糸井]
そうなんだよ。
いっしょに悔しがってくれるよりは、
「今日は、はなまきはどうしますか?」
って訊いてほしいんだけどね。

[南]
そういうことを、岩手の花巻に行ったなってことで、突然、思い出したと。



[糸井]
そうそう。
地名で「花巻」と見かけるたびにね、この「はなまきを頼めない話」をしなきゃいけないなと思ってたんだけど、もう、「花巻」を離れちゃって、接点もなくなりそうなんでね。

[南]
はははははは。
話すきっかけがなくなりそうだから、つながりもなく、唐突に。

[糸井]
うん。だから、「はなまきの話」を、旅行前に慌てて詰め込んだわけ。

[南]
ああ、荷物の隙間に。

[糸井]
そうそう(笑)。

[南]
Tシャツと靴下のあいだかなんかに。

[糸井]
そう。荷造りしおわった旅行カバンに、UNOをギュッと詰め込む感じ。

[南]
UNOね。カードゲームのね。

[糸井]
いっつも持って行かなくて、現地のコンビニで買っちゃったりするから、
「そうそう、UNO」ってカバンに入れる感じで、いま、はなまきの話をしたわけ。
だって、花巻に行ったのに、1回もはなまきの話をしないなんて、もったいないだろう?

[南]
つけ加えるようなことじゃないけど、オレもはなまきは好きですよ。

[糸井]
お、いいね。おいしいよね。
すこーし、甘味があってね。

[南]
味が薄いとこがいいんだよね。



[糸井]
そうそう。で、たくさんは食べない。
そこらへんも含めて、いいよね。
お店側もさ、はなまきでお腹がふくれちゃったら料理を食べてもらえなくなるから、そんなには持ってこないんだよ。

[南]
あ、なるほどね。
それで、いつもちょっと足んない加減が。

[糸井]
あるんだよ。そうそう。

[南]
いいねぇ、はなまき。

[糸井]
だからこれからはさ、中華料理屋でしっかり食べるようなときは、
「はなまきもお願いしますね」って言おうね。

[南]
うん。言おう。

[糸井]
オレは言うよ。
思いきって、「2個ずつ」とか言う。



[南]
しかし、あれは、肉まんの外側とは違うよね。
たとえ、成分が同じだとしても、はなまきとして食べてるときは、
「肉まんの中身入れませんでした」
っていうものとは違うと思う。

[糸井]
そりゃ違うよ。気概が違う。

[南]
「気概が違う」(笑)。

[糸井]
たとえあれが肉まんの皮だとしても、
「この皮を食べさせてやろう」っていう気概が最初からあるわけだからさ、皮としての完成度が違うんだよ。

[南]
どうでもいいけど、好きな食べ物の話するとき、ものすごく真剣になるよね、糸井さん。

[糸井]
‥‥‥‥。



(たのしい旅も、終わりが近づきます)


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