[横尾]
糸井さんは、さっき唄ってた歌謡曲の歌詞を全部覚えてるでしょう。
ぼくなんか、子どもの頃は覚えてたけど、もうそんなの必要ないし、忘れてる。
[糸井]
自分でも、そういう記憶はいいほうだと思います。
[横尾]
そういう記憶が、ぼくにはない。
[糸井]
ないですか?
[横尾]
ないない。
[糸井]
でも、たとえば誰かと会ったとき、
「こういう表情をした」
というようなことは覚えてるでしょう。
[横尾]
いや‥‥とにかく、ぼく人の顔がね。
[糸井]
ダメなんですか。
[横尾]
ものすごく苦手なの。
ほんとにひどいんですよ。
[糸井]
そういえば‥‥表情の変化を横尾さんはあんまり描かれないですね。
[横尾]
マンガ描いたりしてる人は描くのかわかんないけど、ぼくは描かないですよね。
ぼくは絵描きさんの目でものを見てないんじゃないかなぁ。
かといって、なんの目で見てるのか、知らないけどもね。
[糸井]
ぼくも横尾さんの目で、見てみたいです。
[横尾]
ははは、なにを言ってるの!
[糸井]
取り替えてみたい気がしますよ。
[横尾]
でもさ、糸井さん。
ものを見ててね──たとえばあそこにかばんがあって、ヒモがデレンとなってるでしょう。
あのヒモに関心持ったり、興味持ったりしない?
[糸井]
‥‥いまそう聞かれると、持つかもしれないとは思いますが‥‥
[横尾]
ふだんぼくはね、いろんな形とか、いろんな色とか、そういったものにすごく執着して見てしまうの。
たとえば、机の角にものすごく興味持ったりさ。
[糸井]
ぼくは、どちらかといえば逆に執着しないように気をつけていると思います。
[横尾]
ぼくは、いったん、机の角に興味を持つと、そこをすごく見ちゃうわけ。
それを絵と結びつけようとしてるのか、わからないんだけどもさ。
こういうのは、ことばで説明しにくいんだけども、あの‥‥目が移動するじゃないですか。
移動して、あちこちにひっかかるわけでしょうね。
そして、ひっかかる時間が、もしかしたらぼくはほかの人より長いのかもしれない。
ふつうの人がちょっとだけ見て過ぎているところを、少なくとも1秒か2秒、立ち止まったりしてるのかもしれないね。
[糸井]
きっと、そういうことが横尾さんは多いんでしょうね。
ぼくらは、そこを立ち止まらないようにしてるんでしょう。
[横尾]
やっぱり立ち止まらない?
それはえらい。座禅の精神だね。
去来する雑念に立ち止まったらダメなんです。
やりすごさなきゃ。
[糸井]
はい。立ち止まると、整理がつかなくなっちゃう。
それが怖いです。
もしも机の角に興味があったら、机の角が気になって気になって、日常生活に影響が出ちゃうような気がして。
[横尾]
そんなにさぁ、精神的なものとすぐ結びつけちゃうからそうなるんじゃない?
[糸井]
あぁ、そうかな。
[横尾]
ぼく、そんなもの、精神的なものと結びつけないよ。
[糸井]
色ぐらいのものだったら
「きれいね」でおしまいにできると思いますが‥‥
[横尾]
それでいいんじゃないの。
[糸井]
だけど、机の角になると、もう意味をこめられちゃって、ダメですよ。
忙しくなっちゃう。
ぼくはそういうタイプなんでしょうね。
[横尾]
そうね。そういうタイプの人は物書きに行っちゃうし、ぼくみたいなタイプはビジュアルのもので表現しようとしちゃうのかもね。
(続きます!)
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