[横尾]
ぼくは糸井さんを見てて、この人はどのルールにもみんな乗ったフリをしようとしてる人だ、と思うわけ。

[糸井]
そうです。めんどくさがりだから。

[横尾]
乗ったフリをしようとしているか、あるいは、乗っちゃえと思っている。
さっきの西村さんの話だって、よくわからないのにとにかくわかったフリをしようとしてたでしょ。



[糸井]
とりあえずは西村さんがとても楽しそうだったんで。

[横尾]
それで、西村さんは、いまごろもう
「糸井さんのファンになった」
なんて言ってるかもわかんないしさ。

[糸井]
いや、それは‥‥

[横尾]
それは「情」なの?

[糸井]
うーん、情じゃないです。
どちらかといえば、生きる術(すべ)じゃないでしょうか。

[横尾]
情だったらまずいよね。

[糸井]
情じゃないですよ。
小さい子どもでも、親に捨てられないように生きると思います。
それと同じようなことじゃないでしょうか。



[横尾]
それってめんどくさくないの?

[糸井]
めんどくさいということはないと思いますが‥‥。
めんどくさいって、横尾さん、またいつもの‥‥

[横尾]
そう。こないだも、ぼくはイギリス人の男の子に英語を習ってたんだけど、その子は日本語がまったくできないから、ぼくがお客さんと話す会話をジーッと耳すませて聞いてたわけ。
一か月ぐらい経って、彼がこう問うの。
「質問があるんだけど、これはどういう意味ですか」
「なに?」
「めんどくさいっていうのは、 どういう意味ですか」

[糸井]
わははははは。



[横尾]
「そんなことば、どこで覚えたの」
「ここにいると、一日中、横尾さんが めんどくさい、めんどくさい言ってる」

[糸井]
ははははは。

[横尾]
それは説明できないよ。
英語にピッタリのことばがないんだよ。

[糸井]
「めんどくさい」って、横尾さんの人生のテーマですよね。

[横尾]
そして、その彼が今度ニューヨークに渡った。
ぼくが向こうに行ったときに会うことになった。
会うなり彼は「めんどくさいね」とか言うわけよ。

[糸井]
挨拶みたいに(笑)。

[横尾]
「お茶飲みに行こうか」
「めんどくさいね」
「あれどうだろう」
「めんどくさいね」
ニューヨークにいるあいだ、ずっと
「めんどくさい」で通した。

[糸井]
彼は「めんどくさい」をモノにしたんでしょうね。

[横尾]
「めんどくさい」は、どこでも使えるわけ。
そう言うと、すべてめんどくさいものに対する批評のようにも聞こえるからね。
「めんどくさい」にはすごい幅があって、それは「どうもどうも」と言うのと同じなのよ。



[糸井]
そのとおりですね。
どういうものでも必ず手続きがふたつくらいはありますから、めんどくさいと言えなくもない。

[横尾]
そう。だから使えるわけ。

[糸井]
横尾さんは「めんどくさい」でずっとやってこられましたが、このY字路の写真を撮るときには忍耐力が出てきた。
それは、不思議ですね。

[横尾]
うん。やりたいことだったら続く。
Y字路の写真はまったく苦にならなかった。

[糸井]
横尾さんが絵を描いているのも、苦手な人からすると、苦になってるように捉えられてもおかしくないですよ。

[横尾]
いやぁ、絵は苦になるよ!

[糸井]
あ、そうなんですか。
ええぇ!?

[横尾]
昨日、あそこまで描いて、もうイヤになっちゃってさ。
あの感じを画面全部に埋めなきゃいけないと思うと、もーーー、めんどくさいなと思う。



[糸井]
あの感じ‥‥。

[横尾]
なぜかというと、自分が描こうとしてるものの先が、見えてしまってる、わかってしまってるわけ。
そういうものに対してはもう、ものすごい、めんどくさくなるわけ。
それは、ある意味では思考をなぞってるわけですよ。

[糸井]
‥‥なるほど。

[横尾]
いままでのものを反復してるだけだから。
そういうときは自分が弱ってて、ダメなときだね。
やっぱり‥‥新しいものに出会いたいわけですよ。
技術なり、なんなり。

(続きます!)


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