糸井 |
マーコは手を“読む”って言ったけれど、
みんな本当はそういう、
なにかを読む仕事をしてるんだね。 |
日笠 |
うん、そうですね。それぞれの人がね。
本当にそれぞれの人がみんなそう。 |
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糸井 |
編集者は編集者で、
この作家がどういうことを狙っているとか‥‥ |
日笠 |
うん、引き出してあげたりとかね。 |
糸井 |
それはそれで「読む」だし、
「伝える」だし、
タクシーの運転手だってそうだし。 |
日笠 |
うん、そうです。本当そう。 |
糸井 |
マーコのとこに来るのは、
マーコのとこに来る種類の
“何かを読まれたい人”が来て。 |
日笠 |
うん、まあね。 |
糸井 |
1人40分という時間は自分で考えたの? |
日笠 |
最初1時間だったんです。
ところが予約が多すぎちゃって、
40分で十分だな、と、
あるとき思ったんですね。
40分あれば十分だと。 |
糸井 |
それ以上だと迷わせたりしちゃうでしょうね。 |
日笠 |
1時間ならもっとたっぷり
いろんなセッションができて、
おもしろがって帰っていただけるとは思うんですよ。
だけど、それをすると
ちょっと疲れちゃうかもしれないですね、私が。
だから、40分っていう時間にも
すごく守られてる。 |
糸井 |
それはでも、きっと自分で
流れから発見した時間なんだろうね。 |
日笠 |
そうですね、うん。 |
糸井 |
小学校の授業と同じくらいだね。
1日何人会うの? |
日笠 |
いまは、6人です。
本当はもっともっと数を見て、
お休みも取らないで
やってかなきゃとは思うんですよ。
みんな予約の電話をするそのときが
相談したいときですから、
それから観るまでに
ずいぶん時間がかかるっていうのもあれだから、
もっと一生懸命、新宿の母のように、
今日観てほしい人を今日観る、って、
本当はそうしてったほうが
いいのかなと思うんだけど、
でも、やっぱり40分きちんと対面して、
その人の小説をちゃんと隅々
読ませていただくっていうのは、
私がすごく弱いから、
今はもう6人が限界になっちゃってるんですね。 |
糸井 |
でも6人、大変なことだよね、思えば。
俺にはできないな。 |
日笠 |
そうですかね。 |
糸井 |
うん。僕は、マーコが言ってる以上に
読みたくない小説は読みたくない人だから。
「そういうこと書いてあるんでしょう」つって
おしまいにしたいですね(笑)。
やっぱりまだ、
まだ生意気が残ってるんだろうね、
きっと。 |
日笠 |
読まないでも、
例えば小説でも「相」(そう)が
あるじゃないですか。不思議に本って装丁とか、
何かやっぱり相って
感じるものがありますよね。 |
糸井 |
あ、「相」ね。 |
日笠 |
そう。タイトルだったりとか、
何かパラパラと目次だけ見せてもらうだけでも、
いろんな気配を感じるじゃないですか。
糸井さんは、そういう気配を感じて、
読まなくても
アドバイスができる人だと思うんです。 |
糸井 |
ジャケット買いね(笑)。 |
日笠 |
そう、ジャケット買いでも何かで何となく。 |
糸井 |
ジャケットはジャケットでも
その人の言いたいことだからね、
出ちゃいますよね。 |
日笠 |
そう。やっぱりタイトルとか、
ちょっと2、3行読むと
言葉遣いとか何かでわかるとか、
どうしてこの書体使うかなってところで、
なんで校正のとき直さなかったのかってことでも
わかることってあるじゃないですか。
直せるのに、なんでこの書体でいっちゃったのって。
そういうのって、人も同じです。
だから、読まなくても感じ取って言える。
糸井さんはそれが果たせる人ですよ。
いろんな人、観てるけど
私は糸井さんを褒めますよ。
すっごく優秀です。本当に。 |
糸井 |
ヘヘヘヘ。 |
日笠 |
本当に、本当に。
その軽い笑いがいいですね、謙虚で。
本当にものすごく優秀です。ものすごく。
私は本当にたくさん見てきました、何万人も。 |
糸井 |
それは(忌野)清志郎君の歌と同じで、
悲しみの分量が多いんだよ。 |
日笠 |
うん、それはそうかもしれないですね。 |
糸井 |
しょうがないのよ、それは。
くらやみで五感がとぎすまされるのと
同じようなことですから。 |
日笠 |
だけど、今、
その悲しみの分量が多かったことも
喜びに変えられてるじゃないですか。
そこがすごいとこですよ。
それは、だから今がどうかってことで、
いろんなことはあるかもしれないけど、
清志郎さんがすごいのも、
糸井さんがすごいのも、
そこがほかの人と違うところは、
2人とも本当に幸せを得た──、
幸せになれた人なんですよ。 |
糸井 |
うん。清志郎君はずっと
歌を追っかけていったら、
どうなりたかったかわかるもんね。
幸せになりたかったんですよね、とても。 |
日笠 |
うん。幸せになれたんですよ。
すごく今‥‥
幸せになれたの、本当に。 |
糸井 |
それはちゃんと探してたからですよね。 |
日笠 |
うん。で、本当に、うん、本当にそう。
もう私、あの人のコンサートを
客席見てるのも大好きなんです。
もう本当に人に幸せ──
あんなに気弱さも持っている人で、
手相なんか薄いんですよ。
だけど、本当に、本当に、
人を幸せにする力が
もう半端じゃなく強い。 |
糸井 |
いや、本人が持ってるものじゃないものの
分量がものすごいですよね。 |
日笠 |
だから、何が成功かっていうと、
日々わりと機嫌よくいられて、
機嫌が悪いときにも客観的にそう思えて、
でも自分がやっぱり無意識に無自覚に
幸せだなと思えてて、
作品とか発言とか行動に幸せがにじみ出て、
それを人におすそ分けできるっていうのが
最高の、やっぱり一番カッコいい‥‥
一番、カッコいいことです。
幸せになれた人が成功者ですよ。
力を持った人はそれをやっぱり
おすそ分けしていかなきゃいけないものだと
思ってるし、
人様におすそ分けさせていただくのが
仕事だと思うし、天命天職だと思うんですよ。
だから、幸せのおすそ分けだったりとか、
自分の知識のおすそ分けとか、
ペットシッターの才能がある人が
ペットシッターになり、
それもおすそ分けだと思うし。 |
糸井 |
どこかで自分に余裕が出た人しか、
何かってできないんです。
だから極端に言うと、
子どもは虐げられてるってことについて
反対する運動を子どもはできないんです。 |
日笠 |
そうです。本当にそう。
できないですね。
自分のことしか見えてない人が
大半なわけだし。
あと、人間関係で窮屈になって、
私がこう言ったらこうなんじゃないかとかって
いうのがすごく多いから、
そういう客観視っていうのがやっぱりないと。 |
糸井 |
「幸せ」って言葉がものすごく出るね、
マーコの中に。 |
日笠 |
だって糸井さんは幸せな人ですもの。
私も、自分で幸せだなと思ってるし。
思おうとしてるんじゃなくて、
どう考えても幸せですものって思うと、
ああ幸せだなあって。
私、本当に能天気で幸せですもの。 |
糸井 |
そして、マーコは、幸せって言葉と
毎日馴染みのある人生を送ってるわけだよね。
さっきほら、次々に「幸せじゃない」
っていう人しか来ないって。
それで、幸せってことについて
考えざるを得なくなるよね。 |
|
|
日笠 |
「だって幸せだと思えば、
いくらだって幸せじゃない」ってことを
言わせてもらうわけですよね。
「もう私は何もいいことないんです」
って言う人もいるんですよ。だから、
「何もいいことないって、
今日全然歩いてくるとき足痛かった?」とか、
「電車代気にした?」とか何でもいいけど、
何か幸せだと思えば、
「ああ、本当だ、すごい幸せだったんだ」
ってみんな気がつく。
それで帰るときには、茶化してるわけです。
「『私なんか何もいいことがないんです』
なんて、30分前は言ってたよね〜!」
「大変だったの、さっきまで!」みたいな。
「そうですよね。ああだったから、
あんな悩みばっかり、ああ、そうか!」
って言って帰っていくわけです。 |
糸井 |
確かに今の時代、
そういう友達はいないわな、
友達とそんな話、して、
そんなふうになることはないわな。 |
日笠 |
うん。 |
糸井 |
「わかる」つっておしまいになるよね。 |
日笠 |
そうですね。「わかる、わかる」って言うけど、
あとノリの話で終わっちゃうから
本当の話ができない。
あとは、悲しみに対しても何にしても、
40分しか時間がないから真正面ですし、
あとはもう手相にはメイクも何もできないから
丸裸見せてる感じになるわけです。
だから、私の前で、みんな
「でも、でも」とか「だけど」って言いながらも、
全部その「だけど」を含めて
素直な形で向かい合ってる。
あと、私、営業したこと一度もなくて、
みんな選んで来てくださるわけだから。
だから、
「私でいいんなら、私が言うことでいいんなら」
っていう感じで言わせてもらうわけだし、
何か言ってほしいと思ってくださって
来てくださる。
楽ですよね、すごく。 |
糸井 |
マーコが山奥で同じことやってても
来るだろうね、人は。
それは素晴らしいことですよね。
そうなりたいんだよ、みんな。
それはすごいことだよね。 |
日笠 |
やっぱり打ち解けて話したいし、
味方がほしいし、自分を客観視したいし、
幸せの手がかりがほしいし、
不幸になりたい人なんてひとりもいないんです。 |
|
(つづきます。) |
2007-04-12-THU |