HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひとのしあわせを読む仕事。
手相観 日笠雅水さん
第9回 自分のなかにダメな自分もいる。人は大人になんて、なりません。
糸井 いろんな職業って
きっと根本のところは同じなんでしょうね。
日笠 そうそう、同じなんですよ
糸井 そこのところが通じ合うから面白いんでしょうね。
だから、別の職業の人同士が会って、
意気投合できるじゃないですか。
日笠 そうです、そうです。
私、風俗嬢の人とも、すごく気が合うんですよ。
糸井 ああ、そうだろうね。
日笠 1日何人みたいな感じで時間はどうなのとか、
いろんな方が来てくださっていろいろ話してて、
すごくわかるし、「ああ、お疲れ様」って言えるし、
ああ、こういう職業をしてるけど、
すごく人の癒しにもなってるんだろうし。
「ああ、私と似てる仕事なのかもね。
 ああ、そうか」って。
例えば、職業で偏見があったとしても、
「ああ、こういう人もいるんだ」っていう、
いい人たちが多いんですよ。
糸井 あらゆる職業というか運命ってね、
「そっち行っちゃダメだよ」って
言う人がいなかったら、
だれでも行く可能性があるんですよね。
だから、「ダメだよ」って言う人が強くいたら、
そっち行かなかったかもっていう人は
いっぱいいますよね。
日笠 うん。あと、でも、
レール敷かれすぎてる感じがあって。
だから、もう周りが外野がうるさくて、
本当に自分が好きなことを発見しにくくて、
自分の力で行き着けてない人が多いですよね。
 
糸井 うん‥‥。
じゃ、すごい弱い印象があるんだ。
日笠 だれにですか?
糸井 人々に対して。
日笠 もちろんそうですよ。
みんな健気だし、傷つきやすいし、みんな弱い。
‥‥みんな弱いです。
糸井 男のお客さんはどれくらい?
日笠 1割ぐらいです
糸井 男の人の相談は違うんですか。全然。
日笠 いや、同じようなものですね。
でも男の人のほうが楽です、お客さまとしては。
糸井 へぇー‥‥そういうものなんですか。
僕は男のほうがなんかややこしいなといつも思ってて。
日笠 そのややこしさが、単純だから。
糸井 あらま‥‥あ、そうですか。
日笠 そう。
糸井 ややこしさが単純。
確かにね、そういえばね。
日笠 そう(笑)。
糸井 男たちを見ていると、自分が親だったら
本当に面倒臭いなと思うことがあるんです。
もうね、小学生と大人、同じだもの。
日笠 うん。みんな子どもなんですよ。
だから、人間は大人になるっていうのは
幻想だったわけです。
糸井 そのとおりだね。
日笠 だから、例えばちゃんとした社会人として
きちんとできるかどうか、っていうので
大人と呼ぶっていうのがあるかもしれないけど。
糸井 大人のようにふるまうことが
できるようになったことを、
大人っていうんだな。
日笠 ‥‥て、みんな思ってるみたいだけど、
ほんとうの大人に会ったことはないですよ。
人間は大人にならないままですよ。
糸井 はい‥‥そうだと思います。そうだよなあ。
自分の魂年齢が28な感じもよくわかる。
大体の人のこと年上だと思ってるもん、俺。
年下だとよく思われてるし。
日笠 そういう人がいるのも幸せですよね。
年下になれない人もいるじゃないですか。
糸井さんは、
年上のお友達もたくさんいるし、
仲間もたくさんいるから、
バランスが取れるんですよ。
学級委員長とかお母さんばっかりじゃなくて。
糸井 バランスは取ってないとやっぱりつらいですよね。
日笠 私もだからすーごいダメな、ダメな、
「うえーん」って言ってる
グズいマーコってのもいる。
そのダメダメなグズグズの
どうしようもないマーコってのがいるから
楽なんですよね。
だから、バランスが取れてる感じがする。
糸井 そうか。相談を受けてる側にばっかり立ってると、
バランス壊れるもんね。
マーコは自分では自分のを見たりするの。
日笠 見ますよ、ときどき。
喫茶店入ったり電車の中で
本持っていくの忘れたときなんか
自分の手相を読んだりして。
糸井 「占い師」っていうと、違うんだよね。
日笠 違いますね。
私はいわゆる「占い」はしないんです。
神社でおみくじ引くか、あとは辞書占い。
どうしてもわかんないこと、
キーワードがほしいときに、
辞書をピラピララーっとやって、
エーイってやって、その言葉から
「あ、そうか」って。
それぐらいしか占いはしないです。
糸井 それもまあ、星座の動きを見るのと
同じことだよね、思えば。
日笠 うん、占いで一番面白いのはね‥‥、
よしもとばななさんが
タロットが得意っていうのも
すごくよくわかるし、
私もわりと得意だったんですけど、
トランプだとかタロットカードとか、
辞書でキーワードを、っていうときは、
なんかね、神様とセッションできてる感じがする。
なぜこの言葉なのか、このカードが出てきたのか、
見事な感じですよね。トランプでもそうだし。
「ああ、神様って本当にいるな」
って神様を確認する感じ。
「ああ、神様いらっしゃる。ああ、本当だ、
 ああ、こういう偶然はないよな。
 当たり前のことだよ」って、
なんかつながってる感じが
すごい嬉しいっていうことですね。
 
糸井 そっちの感じと、手のひらとは関係ないんですか。
日笠 それが関係あるんです。
昔、いまのようにゲームがなかった頃、
トランプで神経衰弱をしてたんだけど、
うちの神経衰弱は記憶じゃなくて、
「まずエースを4枚めくりましょう」
だったんですよ。
カードを上からこうやって透視してると、
明らかにエースとかっていうのは
エースだってわかるじゃないですか。
糸井 ‥‥え?
日笠 わかるんですよ。わかるんです。
本当にあれはわかるのね。
それが例えば黒のカードで
数字じゃないけどキングではないぞとか、
‥‥もう明らかにわかる。
「相」っていうのは
カードの裏側からも感じるもので、
それをずっとトレーニングしてたんです。
母が私より上手でわかってたから、
当たり前にそれをやっていたんですね。
で、ある日、手相を見たときに、
手相って全部‥‥こう、
トランプの表側なわけです。
それまで気配を読み取る訓練を散々してたから、
手相ってすっごくわかりやすいものだ!
というのがあって。
糸井 うん‥‥それは面白いな。
日笠 トランプの「気配読み」の訓練は
しておいてよかったですね。
例えばエース、最初の1、2枚は
明らかに出せるわけですよ、わかるから。
ところが、3枚目とか4枚目で、
いい気になってきたりとか、
いろんな欲が出てきたりすると、
とたんにわかんなくなる。
わかんなくなると、
もうネガティブになっちゃうと
わかるわけないわけじゃないですか、
そんなもの本当は。
だけど、調子がいいときは
明らかにわかるわけですよね。
で、わかんなくなったときに
お風呂とか入ってきれいにして、
水でも浴びて統一してパッと見れば、
明らかにまたエースがわかるわけですよね、
その「なぜわかるのか」と「わからないのか」
っていうのが昔からすごく疑問だったし、
自分のテーマになっていたから
追求してたというのがあって。
糸井 マーコなんかと全然違うんだけど、
僕なんかの中にも何ミリかそういう要素があってさ、
それがときどきポンと出てくるときがあって。
今日はマーコと話をしていてゲップが出たんですよ。
日笠 あ、いいですね。
糸井 で、なんかね、そういうときってゲップが出て、
「ああ、今日も出てるな」と思ったんだけど、
あなたの悩みが私から出たのか、
私の中のものが出たのかわからないけれど。
日笠 私のを出してもらったのかもしれない。
糸井 そういうことだってありますよね。
だから、僕は人に指圧したりしてるときに、
その最中に相手が楽になると
自分がゲップ出たりしてたんだけど、
このゲップ、謎なんだよねえ。
日笠 私ね、ゲップ出しするんですよ。
例えば自分で指圧とかしてますよね。
そうすると、生あくびと涙と、
あとゲップが止まんなくなるの。
糸井 そうですよね。
日笠 もうそれは超気持ちのいいことで。
すっごくゲップをいっぱい出すと、
そのあと邪気が取れてスーッとするの。
ゲップだしはすごく体のためにもいいですよ。
糸井 久々に今日はだからしゃべってるだけで出たから、
面白いなあと思って。
僕は(体調的には)今日はゲップするような日じゃ
なかったような気がするんで(笑)。
日笠 あ、私がお世話になっちゃったかも。
糸井 ちょっとそういうことも
ありうるかもしれないね。
 
(つづきます。)
2007-04-13-FRI
Illustrated by 酒井うらら